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一人じゃなかった

「ママをたすけて」





 開口一番そう言ったのは、アリスの住む予定の家に住み着いていた幼い獣人。


 茶色の小さな耳がしおれて、ペタンと頭にくっつき、大きな橙色の瞳に溢れんばかりの涙を浮かべてアリスに懇願してきた。




♢♢♢



アリスの母が残したスクワード港地区にある小さな民家。


 港から徒歩20分ほどの街にあるそこは、二年前におきた津波被害により数多の住人は移り住んでしまったものの、200~300メートル先には隣家が数件並んでいる。


 そして、津波被害災害から二年の時をかけ、アリスが思っていたよりも復興しようと奮闘した形跡があり、薄らと瘴気は残存するものの、緑の豊かさも損なわれていない。



 アリスが馬車を乗り継ぎやっとついた新天地での居住先だ。


 長らく空き家となっていたから、まずは痛んでいるでいるであろう家の状態を心配していた。



 しかし、到着してみれば家の外は綺麗に磨かれており、家の左手側に小さな花畑と野菜畑…とまでの大きさではないが、小さな花壇と、ささやかな菜園があった。



 不思議に思いながらも、鍵を開けて家に入ろうとした時ーー足元に小さな生き物がぶつかって尻餅をついた。



「わぷ!」


「え?」


 アリスは膝への衝撃と、小さな悲鳴を受けて視線を下げると、そこには三歳ほどの獣人の男の子がいた。 


 獣人だと一目で気付いたのは、その頭に茶色の熊か狸ような耳がペタンとしなだれながらもついているからだ。


 よく観察してみると、橙色と茶色のグラデーションのある尻尾が垂れ下がっていたことから、狸の獣人だとわかった。


 


「ごめんなさい、まさか人…いえ、獣人の子がこの家を使っていると思わなくてーー」



 アリスが片膝をついて身を屈め、男の子の身体の両脇をかかえて立たせると、男の子は初めこそ驚いてフリーズしていたものの、ふるふると震えて目に溜めた涙をほろほろと溢れさせながらアリスに懇願してきた。




「マ…ママをたすけて」



「ママ?」



 

 アリスは小さく首を傾げて、泣いている男の子を抱っこしながら、指差す方向へと歩みを進める。


 その先には簡易的な箱があった。


 中を覗くと、布が敷き詰められている上に、白い毛の先が黒く、目元に赤い模様のある狐が丸くなって横たわっていた。


 尻尾は幾重にも折り重なり、普通の狐ではないことがわかる。



「この子が、あなたのお母さん?」



 腕の中にいる男の子に問いかけると、しゃっくりをしながらもコクリと頷いた。


 その時ーー



「アタシは〝この子〟などと言われる年齢ではないわ。小娘」

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