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ようこそ異世界転移課へ  作者: 聖音ユニア


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攻略開始

「アトラが死んだ、一撃だ、ハデス!」

「なんだこいつ、触れられたら終わりだぞ!」

「ボスモンスターを相手にするんじゃなかった、俺達レベル2じゃ、無理なんだよ!」

「今すぐ退くぞ、攻略なんてとてもじゃないが無理だ!」


 阿鼻叫喚。右も左もわからぬ状態で混乱が人の間を嘲笑しながら伝播する。

 目の前の巨大な存在を前にして、誰もが縮み上がった。最初は、上手くいっていたはずなのに、何故、こんなことに――


   †


「それでは、研究者の皆さんはこちらへ。今回はギルド代表として私、レンヤ・スカイが護衛いたします」


 ゴブリン迷宮の入り口で、俺は今回のダンジョン攻略に同行する研究者たちに今一度安全確認を行っていた。どれだけ最善を尽くしても平気で死ぬのがダンジョンだ。

 その上、研究者たちも理解している。俺が守れるわけがないってことを。だからこそ、今回は端の方にウォッチの部隊が控えている。

 特に会話もなく、全員が黒い鎧と顔全体を覆う兜に似たものを被っている。最新の技術を惜しげもなく使い、噂によるといくつか平気で法に触れている装備らしい。

 リーダー格の人間だけ濃い紺色の鎧を着ているようだが、会話はない。

 一応、彼らが俺達転移者を護衛と同時に攻略にも参加するというのが事前の説明だ。

 そして、さらに右を見ると――


「スカイ君。いよいよ攻略だね」

「アスハさん。ああ、さすがに緊張するけどな」


 アスハさんたち転移者たちが、見たこともないような装備を丁寧にチェックしながら号令を待っていた。

 転移者たちの中心で大きな剣を地面に突き刺す城マントにグレーの鎧を身に着けた角刈りの男がいた。

 鎧の上にマント。刺々しい籠手。動く度に金属音が鳴るはずの靴を履いたまま静かに立っていた。眼鏡をくいっとかけ直すと、彼は剣を引っこ抜いて肩に担いだ。

 今回の攻略作戦の総指揮を執る男、円卓会議に三人いるレベル3の一人、ハデス。


「揃ったか? 俺はこの攻略戦の指揮を執るハデスだ。オリオンの人間なら知っているだろうが、お前たち帝国人は精々身の周りの転移者とエンドールのバカ位しか知らないだろうから自己紹介だ」


 あのエンドールさんを馬鹿呼ばわりする位には、この人は実力者なんだろう。

 何せ、レベル制限のあるオリオンがレベル3の特権を与えた人間なのだから。逆にこの位の自信を持っていても不思議じゃない。


「安心しろ、お前たちはだれ一人殺させはしない。今日このダンジョンで死人が出るとすれば、ボスモンスターと俺だけだ」

「ボスモンスター……」

「ダンジョンの奥にいる、最期のフロアを守る守護者だよ。これまでの調査でまず間違いなく最奥部に存在してるって話なの」


 アスハさんの説明は、転移者側が持っている情報。俺達ギルドはもちろん、ウォッチ屋バランスが知っているかも怪しい情報だ。公式に出ない以上、噂の域を出ない話だ。

 思えば俺が転移者とダンジョンに向かうのは、記憶がある中ではこれが初めてか。


「なになに、アスハのお友達? あ、てかあれ、この間言ってた気に――」

「ちょバカバカバカバカ!」


 丁度、レイテシアが飲んでいたようなミルクティ色の長い髪をした少女の口をアスハさんが血相を変えた様子で塞いだ。こんなに慌てた様子を初めて見たかもしれない。

 少女はじゃれつくようなアスハさんを笑顔で避けて、俺の元へ寄って来た。


「はじめまして、転移者のアトラです。ギルドのスカイ君、だよね。いつもありがと、私たちのためにギルドで働いてくれて」

「いいえ、こちらこそ、いつもクエストを受けていただきありがとうございます」

「あはー、超いい人じゃん。良かったね、アスハ」

「だからほんと、黙って、アトラちゃん」

「もう、良いじゃん別に。これで、もう最後かもしれないんだから」

「アトラちゃん!」

「私らはいいかもしれないけど、他の人は違う。守らないと、この先キツイよ。だから、しっかり守ったげな。もちろん、私も頑張るけどね」

「分かってる……彼は私が守る」

「アスハさん、悪いけど俺は俺を守る程度には特訓してきたよ」

「期待してる」

「お前たち死語は慎め。いいか、今回の攻略のメインは俺達転移者だ。ギルドは研究者を守り、ウォッチは帝国人全員の保護と俺たちの監視だ。精々死なないようにしてろ。一応新入りたちが守ってくれる。そこのアトラと、アスハだ。顔だけは覚えておけ」


 ハデスの号令に転移者たちは主たった異常に統率の取れた動きをしていた。

 俺達がギルドで事務作業をしている間にも、彼らは日々ダンジョンでの実地訓練に励んでいたんだろう。

 俺達は転移者とウォッチについて行く形でダンジョンの薄暗い入口に入った。

 何度か入ったことのある場所だが、信じられない位開発は進んでいない。ここまで進みましたよという松明を置いたところで少ししたらゴブリンが全て撤去しているし、キャンプを作ろうものなら無限に湧くゴブリンの襲撃に遭いかねない。


「良いか、寄り道は研究のみ。基本は拠点化せず梅雨払いして通路を作りながら一気にボス部屋へ行く。お前ら、ゲームじゃねえからな、ついて来い」

「あいよ、ハデス隊長殿」

「アスハさん、この間から言ってたゲームとかNPCってどういう意味?」

「あー、こっちの世界にもチェストとか、いわゆる遊びのゲームってあるでしょ? 私たちの世界にもこういう風にダンジョンを冒険するゲームがあるの。NPCはまあ、お助けキャラクターみたいなものかな」

「ありがとう」


 通りで、転移者たちが余裕なわけだ。遊びとは言え、たぶん彼らは攻略の仕方がある程度分かっているんだ。これは相当心強いな。

 先頭を進む大剣使いのハデスはわき目も降らず突き進んだ。研究者たちもどのタイミングで調査を開始すればいいのか分からない様子だった。

 ここまでは俺も来たことがある。間もなく、ゴブリンたちに罠にかけられた場所だ。

 案の定、大量の侵入者に対し、ゴブリンたちは咄嗟の守りを見せ――

 違う……!

 俺達の動きを完全に読んだゴブリンたちは隊列を組んで待ち構えていた。

 一体いつからこの戦列でいたのか分からないが、統率が取れた小賢しい動きでこちらの準備が整う前に攻勢に出た。

 最悪の状況だったが、転移者を信じていた俺は慌てる研究者たちを宥める。


「大丈夫です。アレは、レベル3ですから」

「まったく、数だけ大量に揃えて、んなもん、烏合の衆に過ぎんだろうって」


 眼鏡をかけ直したハデスは地面に手を付ける。

 足元の影が伸びて、ゴブリンたちの法に向かう。


「捕まえた。俺の影に溺れて死ねや」


 ゴブリンたちが立っていた地面が沈み込み、慌てた様子でゴブリンが手を振って逃れようとする。

 これが、ハデスのスキルなのか?

 スキルについて、説明されないと商才が一切分からない。大戦に勝利した転移者側が、スキルを完全な秘匿事項にしたからだ。

 いきなり使われるとそれだけで初見殺しになる。逆に、何度も使っているのに原理が分からないスキルもある。エンドールさんがいい例だ。

 さて、足もとに溺れるゴブリンたちはしかし、仲間の体を踏み台にして攻勢に出た。


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