最奥部
「小賢しい真似をしてくれる」
「ハデス、左右からも来てる。俺らの足場を使うつもりだ」
「はっ、来い」
大剣を振るい、たったひと振りで数匹のゴブリンが両断される。
一撃必殺にして強烈な一振り。威力に物を言わせた強烈な剣捌きは一瞬で全てを終わらせた。
ふざけた威力に消し飛んだゴブリンたちは灯を巧みに利用して影の死角を作り、尚も突貫を続ける。
妙なのは、ハデス以外が戦っていない。索敵とヒールに徹している。しかも距離が離れて短時間でも回復できるとかいう性能の良いヒールだ。
「数が多い……ハデス、一度こっちの連中を退かせるぞ」
「判断は任せる。俺は、進む!」
飛び出すハデスの動きに合わせて支援魔法とヒールが飛び交う。戦列を飛び出したハデスは囲まれるどころか薙ぎ倒して前へ突き進む。
ヘイトがハデスに向くが、まるで好都合とばかりに、凶悪な笑みを浮かべて猛進を見せた。
驚異的な破壊力の前に、立ちはだかる巨大な影がふたつ。
「なんだ……アレは……」
一言で表すなら巨人。ゴブリンの十数倍以上の大きさ、10メートルはあるだろうか、とにかく巨体が二体。
思わず震え上がってしまう程の化け物が我が物顔でこちらまでやってくる。
巨人には首が付いており、足もとのゴブリンが引っ張るが、巨人が走ると同時に足元のゴブリンが蹴散らされた。
「アレはホブゴブリン。知能はない代わりに巨体と尋常じゃない膂力を持つ」
アスハさんは腕を組んでゆっくりとした様子で巨体を見上げた。
「んなもん、さすがに一人で相手に出来いないだろ……」
「大丈夫。あの人は、強いから」
眼鏡をかけ直したハデスは再び笑みを浮かべて地面を蹴る。
突き進む彼を止めようとするゴブリンは影の沼に止められ、捉えることはできない。
辛うじてマントを掴んだゴブリンは蹴散らされ、ハデスはホブゴブリンの眼前に飛び上がる。
恐ろしいほど高い跳躍。一瞬でホブゴブリンの鼻先に飛び出したハデスは、脳天からバカ上段の一振りを叩き落とす。
頭から腹、腹から股を一気に引き裂き、地面へ強烈な斬撃が叩きつけられる。
遅れて、ホブゴブリンが徐々に真っ二つになって倒れる。
山の崩壊を見送ることなく、ハデスは次なる得物に目を向ける。
ほぼ直角に曲がって今度は胴体ほどに低めの跳躍を見せると、剣を横に振りかぶった。
仲間の死を前にして、知能が低いとはいえ本能的に危機を察知したホブゴブリンは棍棒を前に出すが――
「無駄だ、馬鹿が」
ハデスは棍棒ごと、ホブゴブリンを両断した。
地面に立ったハデスは指を鳴らす。ホブゴブリンの死体が二つ転がるのとほぼ同時に、ゴブリンの群れが完全に影の中に吸い込まれた。
すぐに他の転移者が駆け寄り、何か魔法をかけている。たぶんヒールと、もしかしたら魔力やスキルを使ったことへの疲労を回復しているのかもしれない。
スキルは魔力とは別の生命力を使うらしいから。
鮮烈すぎる戦いを見せ、圧倒的な速さで俺たちの数年を踏破して見せたハデスは生き一つ乱れてない。
傑物の誕生を目の当たりにして、俺にある疑問が浮かんだ。
「なんで……今まで何もせずに……」
「……レベル3をオリオンから離せなかったから。騎士長はオリオンから離れられないし、ハデスさんは今まで別の任務にいたの。今はもう一人がレベル3になって変わったからこうやって攻略に出てる。アトラちゃんとか他の人も、其別任務について行ってたから動きに淀みはないよ」
「別の任務って?」
「他国にダンジョンがあるかの調査と……他国で傭兵業を行う転移者の捕縛だよ。この間の、ルフス兄弟みたいなの、少なくはないから」
「……なるほど」
「ハデスさんの戦いは、戦力を分散させるんじゃなく、ハデスさん一人にヒールを回してハデスさんが単独で敵を撃滅するっていう作戦だから」
「なんてワンマンな……まあでも、それが上手くいくのか」
「そうだよ。ここ、覚えてる?」
「二度目に出会った場所だよね」
「そう。スカイ君が私を守ってくれた、助けてくれた場所。あの時の仮面とかまだ持ってるの?」
「持ってきてる。絶対誰にも言わないでくれ」
「言わないよ。さ、行こ」
まさかダンジョンをこんなに我が物顔で歩けるとは思わなかった。
その後も迷宮とゴブリンをいなしつつ、奥へ問題なく進み続けた。
トラップやゴブリンの奇襲を前にして臆することもなければ褪せることなく、転移者の攻略組はひと固まりで対応して見せた。
場慣れしているしとにかく落ち着いている。
しかし、問題はかなり奥まで進んだ時に突然起こった。
「アトラ、抜けてんぞ!」
「ごめん!」
ゴブリンの一団がハデスの横をすり抜け、転移者の包囲網をかいくぐった。
しかし一応、後列にはアスハさんがいる。問題はないと思ったが……。
ウォッチの一人がゴブリンの頭を掴んで地面に叩き伏せ、空いた腕から横に刃を出現させる。傍から見たら腕に突き刺さったように見える刃をゴブリンの首に這わせて横に引いた。血が飛び散り、ゴブリンはいとも簡単に絶命した。
他のウォッチもいつの間にかゴブリンを沈黙させ、何事もなかったかのようにゴブリンの死体をその辺に捨てた。
何だ……確かにゴブリンは適切な訓練さえすれば帝国人にも倒せる人間はいるかもしれない。だが、余裕が過ぎる。これが、非合法な力という奴なのか?
「やるじゃない。彼らって、スカイ君と同業なんだよね」
「そう見えて実は全然知らないんだよね。一応、後輩のレイテシアのお父さんが総帥らしいけど」
色々と他の話は伏せておいた。今のところ関係ないはずだ。
ウォッチはホブゴブリン戦では静かに控えていたところを見ると、ゴブリンやスライムより上のモンスターだと歯が立たないということかな。
「おいアトラ! 真剣にやれ! 帝国人は一人も死なせるなってアルスの厳命だろうが!」
「ご、ごめんって、大丈夫、もう失敗しないから」
「俺のせいだ。もう後ろにやらせねえ。どうも、おかしな様子の連中もいるみたいだしな」
ウォッチへの警戒が一気に高まったような気がするが……ウォッチは転移者を監視するためにいるんだ。ある程度強くなければ話にならない。先輩がそうだったように。
俺達は調査を若干進めつつ、足早に奥へ奥へと進んでいく。
途中、後ろを取ったゴブリンにあわや襲われかけたが、アスハさんたちがしっかりとカバー。ゴブリンたちの知恵を使った戦術をことごとく破壊して見せた。
「着いたな。ここがボス部屋だ」




