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ようこそ異世界転移課へ  作者: 聖音ユニア


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25/39

借り

「そうだ。あいつがまだ新米の頃、レンドアのダンジョン調査が行われ、お前と同じようにたった一人だけ生き残って帰ってきた。カロ―シアをお前の上に就けたのはそういう意味だ。スカイ! いい加減子供みたいなことを言うのは止めろ、帝都に戻るんだろう」

「今戻ったって悔いが残るって話をしてるんです、課長!」

「まあ、私としてはどちらでも構いません。帝都で認定をとっても構いませんが、その場合は賭けは私の価値でよろしいですね」

「あんたは……何がしたいんだ」

「真実が知りたいだけです。レンヤ・スカイ。あなたがかつて帝都のダンジョンで何を見たのか」

「だからそんなものは――」

「おっと、お邪魔だったかな」


 話に割って入ったのは、円卓会議代表にして会議が抱える騎士団長、アルス・エンドール。

 なんでこんなところに。しかも今のタイミングで来たら何をされるか分からない。

 辺りを見渡したが、特に騒ぎは起きていない。さすがに面と向かって文句を言うには分が悪いと考えてか、町民はエンドールさんを見ても黙ったままだ。


「いらっしゃいませ、カウンターはあっちですよ」

「君に用があったんだよ。アスハ君から話を聞いてね、君の強さを僕は直に見た。長い間戦ってきた経験と強さを裏付けに、君へ贈り物だ」


 出してきた封書には、円卓会議の紋様とエンドールさんのサインが書かれた書類が入っていた。滅多に見ないが最近見たお陰で目がまだ覚えている。

  エンドールさんは俺に近づいて耳打ちした。


「この間の礼がまだだったからね。この位しかできないけど」


 離れたエンドールさんはにっこりと笑い、俺に推薦書を渡しながらコルネ審問官の方。へ向かった。


「攻略部隊の編成が整いました。彼が参加してもまあ、死ぬことはないでしょう。指揮を執るのはレベル3のハデス。奴なら攻略の公算はかなり高い」

「ありがとうございます、騎士長。スカイさん、あなたの特権を戻し、このダンジョン調査を成功させたら帝都に戻すことをお約束いたしましょう」

「わかりました」

「ではグラウス課長、ギルドの審問官が参加しない会議に部長と共にご同席いただけますか?」

「もちろんですが、部下に危険が及ぶような作戦立案には断固反対の立場を取りますよ」


 課長は俺の背中を叩いて、コルネ審問官と共に億の会議室へ向かった。

 あんな強い目も出来るんだな……課長は。自分の保身だけを考えている人だと思っていたけど。俺だって、あと一つ、何か大きな仕事を仕上げる必要がある。

 俺はここで終わる気はさらさらない。ダンジョンを解明して、少しでも多くの人を助けられるような……死んだ父さんと母さんのように立派なギルド職員になる。

 先輩笑うかもしれない、いや不機嫌になるかもしれないが、最初から一貫して俺の願いは変わらない。

 俺の周りの人間をもう二度と、ダンジョンやモンスターの犠牲者にするつもりはない。

 強いギルドを作るため、帝都に、戻る――


「スカイ先輩、一応、おめでとうございますわ」


 仕事を先輩に取られたレイテシアが不安そうな表情で俺の前に現れた。言葉と表情がこれほど合っていないこともない。


「ああ、ありがとう。これでダンジョンヘ行ける」

「……わたくしが、止めてと言ったらどういたしますか?」

「なんで、って聞こうかな」

「あなたでは、死んでしまいます。ダンジョンがどれ程のものか……あなたはまだ分かっていません」

「俺は生き残って帰って来たぞ」

「記憶がないと聞きます。わたくしは……大戦で転移者に祖父母を殺されました。ですが母は……ダンジョンで死んだのです」

「何を言って……」

「父は祖父の件からウォッチを戦える組織にするため、ダンジョン攻略を始めました。当時、最高の技術と武力をバランスの法を完全に無視した非合法な手段で、です」


 効いたことのない話を涼しい顔でつらつらと並べるレイテシアの手を引っ張って奥に連れて行った。こんな話を誰かに聞かれたらまた面倒だ。

 休憩室に連れて行って、こいつのために用意しておいた紅茶を淹れる。速いが小休憩だ。煙草休憩じゃなくて本当の小休憩。


「それ飲んで落ち着け」

「落ち着くのは先輩です。わたくしは……転移者を恨んではおりませんわ」

「そうは見えないけどな」

「それ以上に恨んでいるのが父なのです」


 紅茶に口を着けて一息つく。どうでもいいが、本当にこういう時だけは気品ある姿だな。


「先程の続きですが、父は非合法な部隊を組織しました。私の母は、その一員でした」

「……は?」

「母は元々ウォッチ所属で父に見初められ、わたくしを身籠りました。出産後すぐに復帰する程、ウォッチとして気高く誇り高く、また美しい方でした。しかし、ダンジョン攻略に向かい、全滅したのです」


 全滅ということは、誰一人帰ってこなかったのだろう。俺のダンジョン調査が表に出なかった理由は単純に、ひとり帰ってきたことで全滅の報せは発表されなかった。

 何なら確か当時の新聞だと調査は成功とかいう記事だった気がする。

 生きて帰った俺がこんな状態だ、全滅がどれ程悲劇的だったかよくわかる。


「わたくしは当時小さく、何が何かも分かりませんでした。ですが、これだけは言えます。行く人間が勇気と覚悟を持っていても、待つ人間はそんな物、持てません。先輩が死ねばわたくしは……とても悲しいのです」


 気持ちを吐露したレイテシアに、俺は何か言葉をかけることが出来なかった。

 そんなこと言われることが今までなかった。俺には家族はいない。同期と呼べる人間との記憶もなければ、出世しか考えてなかったから友達もいない。

 今でこそ、同僚や先輩がいてくれるが、待ってくれる人間よりも、先に進む人間の方が圧倒的に多かった。

 俺は転移者も帝国人もまとめて守りたい。

 たぶん、この気持ちは俺の両親も持っていて、持っていたからこそ、俺を置いてでもモンスターに挑んだんだと思う。

 今の俺は若すぎて説明が出来ないけど、理屈や愛情を、時に信念が超える。


「俺が死ぬんだとしたら、最後まで戦い抜いて死にたい」

「死なれたくはないと、言っています。わたくしの父が何故ダンジョンヘの攻略を止めないか、分かりますか、スカイ先輩」


確かに、この件にウォッチが介入する理由はあまり分からないな。いわく、利権のためという話だったが、今さらダンジョンをどう活用するかを、武力という概念を持つウォッチに必要だろうか。

 今回は先輩という、ウォッチの引退者まで今回は連れ出してきている程必死なのも頷けないところだ。


「ダンジョンには、魔道具と呼ばれる宝が埋まっていると聞きます」

「魔道具……?」

「はい。輝石と同じようなもので、ダンジョンにはいつの時代に誰が何のために作ったか分からないとされる武器が眠っているようです。父はその魔道具がほしいのです」

「なんでまた、そんな物を……」

「転移者を殺すため」

「な……」

「転移者を殺せるのは今のところ転移者かモンスターだけです。しかし父はどこからか、転移者もモンスターをも殺す力である魔道具の存在を掴み、人生とウォッチを賭けて探しているのです。そんなものにあなたが殺されるのは……また父に、わたくしにとって大切な人を殺されるのは、耐えられません」

「……なあ、レイテシア。俺は何の因果か二度救われた。一度目は父さんと母さん。聞いた話だと、モンスターが襲って来た上に転移者も間に合わず、俺と他の人を守って死んだ。二度目は、転移者だ。俺はダンジョンで転移者に助けられて、生還したっぽいんだ。だから、俺は行くよ。ごめんな、でも絶対帰って来るから」

「……この紅茶、先輩が選んだのですか?」

「ああ。分かんないから店で一番高いやつ聞いて備えといたんだ。レイテシアと何か話す時があったらと思って」

「南の茶葉ですわね。紅茶は帝国より王国さんの物が良いですわ。淹れ方も粗雑で、せっかくの茶葉が死んでおります」

「わるかったな、分かんなくて」

「なので、帰ってきたら徹底的に教えるのでそのつもりで」

「……ああ。頼むよ」

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