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ようこそ異世界転移課へ  作者: 聖音ユニア


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先住者の不満

「これだから転移者は信じられないんだ!」

「そうだ、ウォッチが倒され、マリック氏にも暴行を働いたというではないか!」

「いつまで我々が土地や生活費のために税金を納めないといけないんだ!」

「ギルドの怠慢だ、ギルドは責任を持て! 誰にとっての平等なんだ!」


 ルフス兄弟にボコボコにされて一日、ギルドには大量のクレームが届いていた。

 発端を作った人間としては気まずいが、ほぼ定型文で返さざるを得ない。

 何も知らないで不満を口にする連中に俺はどうしてやろうかといつも以上にストレスが溜まって仕方がない。


「転移者が減ったせいで事実クエストが回っていません。転移者側も戦える人間が少ない状態なんです。そのためにも税金ってかまあ、補助金? が必要なんです。お金がなくて山賊になる転移者がいても困るでしょう?」

「その補助金の出どころは」

「税金です」

「税金じゃないか」

「まあそうですけど、転移者も実際助けてくれてるわけですし、もう少しこう、ゆとりを持っていただけませんか。この間の書類通しときますから。ね?」

「まあ、スカイ君はよく働いてくれてるからなぁ、今回だけだぞ」

「ありがとうございます。ではこちらにご記入いただいて、窓口変わりましてあそこ、5番へどうぞ」

「ありがとう」


 誠心誠意説明してわかる人もいれば、分からない人もいる。


「ですから、持つ人間が持たざる人間に支援するのはノーブルオブリゲーションの観点から」

「あんたはそうかもしれんが、俺達はただの庶民でどっちかというともたざる者なんだよ。物価高でこれ以上生活がきついとたまったもんじゃないんだよ」

「でしたら生活の質を下げるのも高貴な人間の徳というものですわ」

「かもしれないが役所の人間がそれを言うか。話にならん、上を呼べ」

「先輩」

「あのなあ、そう言うのは謝っとくんだよ。ったく……失礼しました、どういたしました?」

「何度も言わせるなよ」

「申し訳ありません。物価が高いことはギルドとしても憂慮しておりまして、既にデギオン・マリック氏と協議を公に進めています。今しばらくお待ち下さい。転移者の支援については私どもも給料を下げて行っておりますので、ご理解とご協力をお願いいたします」


 ここまで言っても溜飲が下がらないことの方が多い。何を言っても無駄というか、皆も抱え込んだストレスや不満を俺たちに言う以外場所がないんだろう。

 溜息を吐いて小休憩に向かうと、カロ―シア先輩が煙草休憩に出ていた。


「おう」

「お疲れさまっす」

「……認定だな。やれそうか?」

「ええまあ。先輩に特訓してもらったんで」

「スライムや転移者を相手にしても生きてたらしいな。少し早いが、合格だ」

「え?」

「最後はあのアスハの嬢ちゃんか敵と王なモンスターと相手をさせようと思ってたからな。生きて帰ったなら十分だ」

「……倒せなかったっすよ」

「馬鹿が、敵を殺すための力を教えたわけじゃない」

「え?」

「お前が生きて帰って来るための力を教えていただけだ。認定、頑張れよ」

「……はい」


 一緒に戻ると、少しだけクレームの波は消えていた。

 気持ちは分かる。何かある度に俺たちも給料をカットされるし、俺たちの不満の行き場はどこにもない。帝都に行く前に言葉は捻じ曲げられ、大した問題ではないと揉み消される。

 俺達に出来ることは、酒場で愚痴をはく程度のささやかなものだけだ。


「ああと、すみません、たぶん王国語なんですけど、どなたか話せる方―」

「わたくしが通訳いたしますわ」

「あ、レイテシアさん、助かる。頼める?」

「はい……この間の助成金が降りないとはどういうことだビッチ、今すぐお前に俺のでっかいのを――」

「下がれ馬鹿。私が変わる」


 慌てて先輩がレイテシアを下がらせ、俺も溜息を吐きながら業務に戻る。

 最近、この辺境の町には他の国の人間も増えた。大体が出稼ぎだが、オリオンがあるため正味このレンドアで生きることはできないんじゃないかと思う。帝都には外国人は商行為以外で入ることは許されていない。田舎に来るのは帝都に入れず商人としての資格を持たない人々。言葉も覚えてない状態では買い物もままならないだろう。


「お待たせ……いたしました、何かご用でしょうか、コルネ審問官」


 最近姿を見ないと思った人物、コルネ審問官。今日も護衛を引き連れて腕を組み鋭い眼光をこちらに向ける。


「認定を受けるそうですね、スカイさん」

「お約束通りに」

「しかし、ギルドはあなたの認定を認めないでしょう」

「……は?」


 コルネ審問官の横から現れたのは、グラウス課長。彼は眼鏡の奥の視線を逸らしながら、俺の肩に手を置いた。


「スカイ、気持ちは分かる。だがここは諦めろ。人が死に過ぎた。これ以上ギルドは関われない」

「どういうことですか課長、これは俺と審問官の――」


 課長はさらに耳打ちするために体を寄せた。


「圧力だ。バランスじゃない、ウチの上だ」

「ウチのっ……ギルドの審問官ですか?」

「いいやもっと上だ。俺もあったこともない人間だ。昨今の転移者の死を考慮して、これ以上死人を出すな、と。カロ―シアに任せろ。彼女はウォッチの精鋭だ。かつてはダンジョンの調査にも携わった」

「俺は死にません」

「可能性の話だ。ウチで認定は出せない。それでも、コルネ審問官との賭けをって話でお前がまだ帝都に戻りたいって願いがあるなら帝都で認定を受けろ」

「どんだけ時間がかかると思ってるんすか、その間に先輩がダンジョンに行くんすよ」

「そうだ! そうだ、スカイ。カロ―シアが行くんだ。第一、なんでお前が行きたがる」

「そう言う賭けってのもありますが、先輩がこのギルドに来た理由ってたぶん……そのダンジョン調査で何かあったんじゃないんすか」


 これはただの勘だった。先輩は強さと技術が十分ある。なのにギルドにいるのは飛ばされたか、自ら異動を願い出たか。

 後者なら、先輩はダンジョン調査よりももっと他の何かを、ギルドで見つけたんだろう。

 俺と違って、レンドアに先輩は自分の居場所を見出した。

 先輩には世話になった。多くの人を助けた。だったら、先輩を誰が助けるんだ。

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