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ようこそ異世界転移課へ  作者: 聖音ユニア


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23/39

歴史があります

 オリオン――

 かつて50年前の大戦を経て発足した転移者による転移者のための自治組織、円卓会議を作り出したアルス・エンドールが創設した仮設都市。

 戦いの果てに移動、居住の自由を制限された転移者たちの最後の楽園だ。

 アスハはこの楽園に来て以来、ずっと気にかかっていたことがあった。

 オリオンに住む転移者の数が異常に多いのだ。かと言って誰も外へ出ようとしない。

 その理由はすぐに解決した。外はあまりに危険だった。魔力適性もなければレベルも低い冒険者も珍しくはなく、ダンジョンに入った瞬間命を落とす者も多い。

 だから転移者たちはオリオンの中でひっそりと生活をしていた。鬱屈した状況から打開するために大戦が起きたのも頷ける。

 頷けないのはただひとつ、転移者たちが大戦に負けるはずがない。転移者の帝国人へ対する善意だけで抑えられるはずもない。

 理由はすぐにわかった。経済活動が出来ない転移者たちは、帝国人の税金で暮らしている。オリオンの土地も交渉によって徐々に広げられていて住む場所はある。人は慣れるのだ。

 そして、最も大きなもの、それが……オリオン最強の剣士、アルス・エンドールの存在。

 誰も、エンドールを倒すことが出来ない。反旗を翻す者も多い。特に最近は酷い物だった。転移者同士の殺し合い、絶望して自殺を図る転移者。悪いことに転移者用の病院はなく、ヒール魔法と薬による治療以外ない。

 人々は求めていた。何もしない強者よりも、革命を越してくれる指導者を。


「エンドール騎士長」

「どうした? アスハ君」


 鬱屈した状況を憂いたのは何も数人だけではない。アスハも同じだ。

 特に、帝国人とのかかわりの大幅な制限はアスハにとっては許し難い現実だった。

 このままでは、自分を助けてくれた人とカフェに出かけることすら許可が必要になる。

 世界を変えていく力は、今の自分にはない。だからこそ、着けたかった。


「私はまだ、自分のスキルすらまともに扱えません。強く、なるにはどうしたらいいですか」

「君はここに来た時から強さを求めてるね。そんなに帰りたい? 記憶は戻ってないんだよね」

「戻っていませんし何も覚えていませんし、帰りたいから強くなりたいんじゃないです」

「というと?」

「守りたいから強くなりたいんです」

「転移者を?」

「友達を」

「ふ……いいね、そう言うのいいよ。でも君の戦闘スタイルが完成すると僕じゃ教えても無駄になるんだよね……分かった。ダンジョン攻略を実質的に指揮するのはハデスでね。彼にならった方が良いかもしれない。君も攻略に参加するなら尚のことだよ。信頼関係を築くと良い」

「分かりました。後で聞いてみます」

「僕の方からも話は通しておくよ」


 エンドールと別れて、同時にアスハは自分の弱さとも決別するため、砕けた剣を処分しに向かう。

 もう負けない。目の前で人が傷つく姿に耐えられなかった。特に、助けてくれた人だから。強い意志を持つ人だから、余計に自分が許せなかった。

 レンヤ・スカイは圧倒的に格が上の相手でも自分を守るために命を張った。各上どころか同格相手にも引けを取るようでは、彼を守ることなんて、出来はしない。


「……シアちゃん? どうしたの、ここはオリオンだよ」


 剣を処分しながら顔を上げると、帝国のご令嬢が立っていた。

 スカイの同僚で後輩。強い心を持っていて、転移者を嫌っていながらしかし転移者を守るギルドの理念に傾倒した少女。面白い程自分に似ていてアスハは好きだった。

 しかし事あるごとに突っかかってきては突き放されるので嫌われていると思っていた。

 それが、帝国人は近寄りもしないオリオンに来るのは珍しい。


「いきなり連絡をして、申し訳ございませんでした、アスハさん」

「ううん。むしろありがとね、お陰でスカイ君は間に合ったから」

「でも、あなたも怪我を……」

「転移者は頑丈だから大丈夫だよ。シアちゃんこそ大丈夫?」

「わたくしは、何も、しておりませんので……お願いします、アスハさん、私に、戦い方を教えてください!」


 少女の願い。涙を溜めて吐露された想いに、アスハは至って真面目な表情をした。

 はっきりと言って、帝国人が転移者やモンスターには断ち向かない方が良い。本来、自分たち転移者が帝国人に代わってモンスターを倒すなりすればいい。ただ、大戦と帝国人の不満、不安が健全さを捻じ曲げた。もう、歩み寄るには輝石でも起きないと無理だ。

 ここは任せてと言っても、今のアスハでは何の信頼もない。ルフス兄弟も結局、最強の剣士が捕縛してしまった。何も出来なかった自分に出来ることはない。


「む……」


 無理と言おうとして口を噤んだ。自分が同じことを言われて諦めない。

 何より、そんなことはレイテシアが百も承知のはずだった。今さら言って、何になる。


「……私はカロ―シアさんみたいにうまく教えられないけれど、魔力の身体強化で自衛する方法なら教えられる。カロ―シアさんよりもその辺の知見は転移者の方が深いから。だけど、シアちゃん……」

「分かっていますわ。でももう、家の力とお金の力だけでは何も守れませんの。わたくしは、強くなりたい」

「……分かった。だけど私も特訓しなきゃだから、少ししかできないかもしれない」

「もちろん、空いた時間を戴ければと思いますわ。お礼と言っては何ですが、オリオンへの継続的な視線をお約束します」

「それはありがたいな。後で騎士長に言っておくね。あとシアちゃん、私もあだ名で呼んでよ」


 これは少々おふざけが過ぎたかなと思ったが、レイテシアは一瞬思案したような表情をした後に、頬を少し赤らめながら口を開いた。


「で、では、あーちゃんというのはいかがでしょうか」

「ふふ、かわい。じゃそれで頼むね」


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