圧倒的な力
「待ってて、今ヒールするから」
ヒール魔法を使う白い剣士、アルス・エンドールは安心感のある笑みを見せる。
「お兄ちゃんを、いじめるな!」
「待ってろって言ったはずだよ」
ルフス弟の拳を受けるのではなく、手首を掴んで軽く捻り、地面に叩きつける。
まるで自分の力に押し負けたように不自然な倒れ方だった。
弟が倒れると同時に復活した兄は不機嫌そうな表情で斧を振りかぶるが――
跪き、俺にヒールをしたまま片手でルフス兄の猛攻を退ける。
これが、現転移者ナンバーワンの実力を持ち、オリオンと円卓会議を作った男。
世界に三人しかいないレベル3の男、アルス・エンドール――
「応急措置だ。とりあえず血は止めたけど、今回は絶対に医者に診てもらってくれ。さて、と。ルフス兄弟、ほんっとに50年前から変わらないな君たちは。円卓会議に参加しろと何度も言ったのに、やってることは帝国人いじめか」
「生憎俺らは金もなけりゃ住む場所もねえんでね。分かってんのか青臭い代表様。俺らはこのままじゃ立ち行かねえ。立ち上がろうぜ、今ならこっち側の大金持ちのサポート付きだ」
「金の貰える額で生き方を決めてないんでね。それより、君らをこれ以上野放しにはしておけない。円卓会議の名において、君たち兄弟は捕縛させてもらうよ」
「はっ、やってみなよ、レベル3の力じゃ」
「おっそ」
見えないなんてレベルじゃない……まるで、流星群。星が流れるようにあまりに切れな剣線が、ルフス兄を細切れにした。
カチッと、剣を二振り鞘に納めたところで、大量出血――
する前に、ルフス兄は自分の体をぎゅっと納めて再生する。
「別に何度でも蘇ればいい。僕は君を永遠に細切れにして箱に納めて土に埋めるよ。同級生でタイムカプセルを生めるみたいに」
「平成一桁男が下らねえ」
「ありがとう、昭和だよ」
転移者同士には独特の会話というか言語がある。まるで同郷同士の会話、方言みたいで理解はできない。
しかし、会話の最中も襲い掛かるルフス弟の攻撃。
さっきまで俺もアスハさんもまったく手も足も出なかった二人を、彼は涼しい顔で完全に抑え続けた。というよりも、上から単純なフィジカルで叩いた。
「これだからチート野郎は」
「ゲームのやりすぎだよ僕ちゃん。さて、おとなしく――」
「そこまでに、してもらおうか」
現れたのは……デギオン・マリック。そして、黒い鎧に身を包んだ、ウォッチだ。
「彼は私の用心棒でね。あまりいじめないでもらいたいんだが」
「こちらの問題です。あなた方は大人しく静観してください」
「さもないと、どうするかね? 君たちはもう、転移者を一人傷つけてしまっている。これは大きな問題になるが?」
「そんなものはもう起きている。最近の転移者の失踪事件とその兄弟の活動、もう言い逃れは出来ませんよ」
「証拠はあるのかな? 確たる証拠もないのに、この帝国人たる私を傷つけられる物かな?」
「その不愉快な態度が何よりの証拠と存じますが。兄弟の身柄はこちらで拘束させてもらう。円卓会議のルールを破り、帝国人を傷つけ、同胞を殺す奴を許すわけにはいかない」
「では、私も私の財産を、守るとしよう」
ウォッチが兄弟の前に立ちふさがった。
馬鹿な、何が起きてる。誰が誰を、守ってるんだ。
間違いなく、悪はマリックで、正義委はエンドールさんにある。だが、一太刀エンドールさんがウォッチに手を出せば――
「関係ないと、言っている」
ウォッチを全員気絶させ、ルフス兄弟の前に一瞬で立ちはだかるは、最強の壁。
速すぎて見えないとかじゃない。分かっているのか、アルス・エンドール――
「それ以上はダメだ! あんたはこんなところ、ご……こんな、ところで汚名を被っていい人じゃない!」
「ありがとう、ギルドの人。あなたたちのように、全員が全員、僕たちと分け隔てなく接してくれていたらこうはならなかったのかもね。さあ、時間だ、ルフス。僕の世界に来い」
水面に波紋が広がるように、白い何かが足元から広がった。
触れた瞬間……体が動かない。誰も彼もが、同じだった。
アレだけ暴れていたルフス兄弟も、嫌らしい笑みを浮かべたマリックも、全員、止まった。
動けるのはただひとり、最強の転移者、アルス・エンドールただひとり。
「スキルも魔法も自分を認識していなければ使えないし、自分自身、認識できなければ動かない。意識だけは魂に直結するから知覚は出来るだろうけれど。じゃあ、連れて行くよ」
ルフス兄弟を魔力で運び、彼はアスハさんに触れた。
アスハさんは意識を取り戻し、俺の方へ駆け寄る。
様子を見かねてか゚、エンドロールさんは俺に触れた。途端に、体が動くようになる。
「スカイ君、ごめんね……私のせいで、大けがを……」
「いや、俺こそごめん」
「彼女に感謝するんだね。会議中に血相を変えて抜け出したから僕が追いかけて来た。僕のスキルは、今は体の自由が利かなくなる以外は無害だから安心して。すぐにオリオンに戻るから、ついて行けないけど」
「騎士長、私が病院に連れて行きます」
「ああ、そうしてあげると良い。じゃあ、先に戻ってる」
余程の速さで動いたのか、一瞬で姿を消すエンドールさんの姿を俺は見つけることが出来なかった。レベル3の実力は計り知れない。最早、人間じゃ無いレベルだ。
「今すぐ病院に連れて行くね」
「ごめん――」
「先輩!」
精一杯顔を上げると、不安そうな、悲しそうな表情を浮かべるレイテシアが見えた。
手で胸を抑えて俯く彼女になんて声をかけたらいいか分からなかった。俺が弱いから、責任の一端を背負わせちまった。
俺が強ければ、こんなことにはなっていないのに……いやもう、いい。悔やむのは止めよう。全てを諦めることができるほどに、この人たちは、強いんだ。
俺は、レイテシアの頭の上に手を乗せた。
「何も気にすんな。呼んでくれてありがとな、助かった」
「先輩……わたくし、怖くて……先輩が、死んでしまうと思って……」
「俺は死なねえよ。スライムと、転移者とやり合って生き残ったんだ、かわいい後輩残して死ぬかよ。つ……病院には行く」
本当に死にかけた。マジで危なかった。油断があったわけじゃない、全力を以ってしても、単純に誰にも勝てなかっただけだ。
強くなるとかの次元じゃない。もう俺は、戦い方を変える必要が、あるのかもしれない。




