小遣い稼ぎ
彼女の美しい剣技委は見惚れるものがある。この一か月、何度か手合わせしたりもしてもらったが、魔力を身体強化に使うやり方も教えてもらった。
帝国人の中でも俺は魔力を戦いに使えるほど多くはない。というかそんな奴はほぼいない。単純にものを浮かせるだけでも大したものなのだから。
「……わたくしでは、あなたに助けられてばかりなのですね」
「なんだ?」
「いいえ。ただ、家柄なんて、何も助けてはくれないとこの間気付いたばかりなので」
「気にするな。俺たちと転移者は言ってしまえば物が違う。だからこそ、互いに助け合うべきなんだよ」
「ですが、実際に土地や、彼らの生活費の一部を出すのに国民は困惑していますわ。艇庫国は大きいが故に敵が多すぎる。モンスターや他の国、その上転移者まで余裕はありません」
「だから、俺たちが出来る目の前のことを一所懸命に解決すんだよ」
向かった場所は街の外。ウォッチが警護する範囲内ではあるが転移者がモンスターを狩り尽くしているお陰で比較的安全だ。
木々が生い茂り、開発が進んでいない田舎の端。元々はダンジョンが存在するお陰でオリオンが、そして需要が生まれただけの町だ。大きくは決してない。
手つかずの自然はモンスターを多く呼び込む。例えば、一見何もなさそうな安全な森や水場にも、潜んでいる。
「レイテシア!」
背中を引っ張り、引き寄せる。
さっきまでレイテシアがいた場所に青いゼリー状の塊が降ってきた。近くの草場が、表面の溶解液で煙を上げて解ける。
スライム――
恐らく大した知識はなく、捕食することが直接攻撃に繋がる単純なモンスター。強度は決して硬くなく、転移者からしたら一撃で屠れる雑魚。
しかし俺達から見たら中々死なない上に歩くだけで植物が枯れる厄介すぎる害獣だ。
あとこいつ、一匹じゃない上に――
降ってきたのは、赤いスライム。着地と同時に、その場が爆ぜた。
爆ぜた際の爆発を利用して更に高速移動し、木から木を爆ぜ、最終的に恥がく特攻を仕掛ける馬鹿厄介な赤いスライム、レッドスライム。
味方を守るためだとでも言いたげに、爆発しながら攻め立てる。爆発もそうだが爆炎も厄介だ。その上、スライムもマシ元から這い寄って来やがる。数が、多い――
「先輩!」
「お前は先に戻れ!」
「ですが先輩は――」
「お前を守れただけで十分だ、行け!」
「は、はい!」
レイテシアの背中を見送って、すぐに顔を守るために腕を顔の前に出す。
爆発……本当に容赦がない。これだけでぶっ殺される。
持ってきていた剣でスライムを斬り飛ばす。魔力強化も十分忘れていないが、やはり一撃では倒れない。
だが、前の俺に比べて明らかに吹っ飛ぶ距離が違うし、俺も動けている。
攻撃ではなく単調な飛びつきを落ち着いてはたき落とし、隙を突いて飛んでくるレッスラも突き刺して応戦する。
直線的で速いだけの攻撃なら、徹底的に隙を突いてくる上に致命的な一撃を加えて来る先輩に比べたら――
「ぬるい!」
叩きつけ、串刺しにする。殺しきれないなら、何度も攻撃を繰り出す。
俺の身体強化は未完成だが、アスハさんに教わり、先輩が完成させてくれた。
攻撃の瞬間、移動の瞬間のみスポットで使う方法。これなら、少ない魔力でも戦える。
先輩が訓練の中、散々教えてくれたことを今こそ使おう。
「お前らの攻撃は致命的だ。だから、俺は絶対当たらない」
当たれば死ぬ。ゴブリンに叩かれるだけで、転移者にちょっと疲れるだけで俺は死ぬ。
弱さの自覚。伸ばせる部分の限界、諦めるところを諦めてようやく、この場に立てる。
まずは、連撃で仕留めて――
「おもしれえことやってんじゃん、小僧君」
目の前で……俺と良い勝負をしていたスライムたちが、ほんの一瞬で消し飛んだ。
見えない攻撃、風、風圧、何が起きたか分からない。まるで、見えない攻撃が、全てを持って行きやがった。
現れたのは、巨躯の男……二人組、ルフス兄弟。
「たっく、お前さん、ホント邪魔ばっかりすんなぁ。頭きたから全部殺しちまったよ」
「何を……なんだ、あんたら……」
「へへへ、お兄ちゃん、こいつホントに馬鹿だなあ、殺しちまおうよ、さっき殺した、雑魚みたいにさあ」
「ああ? お前ら、何言って……ちょっと待て、その赤色のスライム……」
スライムは捕食物や環境によって色を変える。俺たちギルドが最も嫌煙するスライム、それは……動物の血肉を食らって進化する、ブラッドスライム。血の色に染まったスライムは、最期にはその血肉で土壌を潤し、花を咲かせる。
奴が食っているのは……間違いなく……人だ。
「便利だよなあ、スライムってのは、人様殺してもすぐ消してくれるんだからよぉ」
「へへっ、お兄ちゃん丁度良かった、こいつも殺せば、もっとグチャグチャになるよ?」
「まあ待て弟。マリックの旦那はさすがに帝国人に手を出すなと言っていた。しかしまあ――」
背中に回る、奇妙な悪寒とプレッシャー。振り向くよりも早く体が反応して剣を背後に回すが、剣ごと手斧で吹き飛ばされる。
大木に背中を打ち付け、剣が落ちる。死ぬ、ところだった。
魔力で身体強化をして、ギリギリ受け身を取っていなければ、死んでいた。
こいつ本当に……殺すことにためらいがない。
「何が……してえんだ、あんたら、その人……転移者、だろ、身内同士で、何を……」
「あ? 決まってんだろ、転移者殺せるのは転移者しかいねえからだよ」
「こうやって転移者を殺して回れば、物流が滞って街には不満と生活苦が雪崩れ込む。そんなことも分かんないとか君、バッカだねぇ」
「おいおい弟よ、相手は国家のために働く馬鹿な公僕様だ、そう言ってやるな」
そう言う……ことか。デギオン・マリックは、金稼ぎのために人殺しまで平気でやってのけたって訳だな畜生……。
だが、小銭稼ぎだけじゃない、まだ何か裏がある。いいや、もうそんなことだってどうでもいい。今はここを生き延びないと……。




