スライムは雑魚ではありません
攻略自体は一週間前から告示があった。町は今攻略記念を筆頭にした攻略景気に沸き上がっている。お陰で物価高は忘れ去られ、それどころかその景気を作ったのはデギオン・マリック本人だという。
本当に町一番の金持ちの名は伊達じゃないというか、目敏い話だ。
「ええ。お父様も新設のウォッチを投入すると忙しそうでしたわ。それが何か?」
「ギルドから先輩が出る」
「カロ―シア先輩が? いくら強いと言っても、相手は転移者をも容易く殺すダンジョンのモンスター。無事ではすみません……まさか、それでスカイ先輩が?」
「ああ。Bランクになれば先輩と変われるし、帝国に帰る機会も復活するんだと」
「……あの、質問なのですが、先輩は帝都に戻りたいのですか?」
「ああ。そうだ。帝都は先進的な技術もあれば研究も進んでいる。俺にとってはこれ以上ない環境なんだ」
「そのために死んでは堪りませんわ」
「死なねえよ。そのために訓練をしているわけだしな」
「ちょっとちょっと、スカイさあ、お前、最近お仕事が捗ってないんじゃない? コルネ審問官も出入りしているから、休んで雑談する暇があるなら働け、働けお前は!」
「課長……コルネ審問官には素晴らしい上司だと言っておきます」
「休憩行きな? 君の体が一番大切だからね」
何だこいつはマジで……もう怖い。情緒がどうしようもなってない。
訓練を長く続けたせいで多少の残業ももう何も思わない。ある程度の目標があると人は頑張れる。
俺はギルドの仕事が好きだ。だからこそ、田舎ではなく、もっと中枢で人のために頑張りたい。そのための布石なんだ、今の時間は。
「転移課の方でどなたでもいいので相談は入れる方いますか?」
「あ、俺が行きます。お待たせしました、どういったご用件ですか?」
やって来たのは、薬屋のお嬢さんだった。割かし看板娘の地位をシスターと背っているという噂がまことしやかに語られている。
確か、アスハさんがダンジョンに入った時もこの人が教えてくれたっけ。
「その、ご相談というか、私がいつも薬の材料を取る採集場にモンスターがたむろっていて……」
「でしたら、クエストボードに――」
「もう2週間以上前から出しているんですが、一向に受けて下さらなくて……いつもモンスターを狩ってくれる転移者の方の姿も見えなくて……」
「わかりました、ちょっとこっちでも調べて解決します」
「お願いします……最近の薬草不足で、私のお薬が必要な方が増えまして……もうどうしようかって」
「すぐに対処します。一応、こちらの書類にご記入を」
おかしい……転移者にとってクエストボードの仕事は生命線だ。なんせ、それ以外の経済活動が許されていない。唯一、円卓会議が作り出した発明のいくつかの権益は認められているが、精々その程度だ。
輝石を取り出して、アスハさんに連絡を繋げる。
『はい、アスハです』
「アスハさん、俺だけど、今ちょっと大丈夫?」
『あー、ごめんなさい、今から会議で、急ぎ?』
「そっか、最近転移者の人たちがクエストを受けてないって話が出てて」
『騎士団では引き続き帝国人のためにクエストは優先的に受けるようこの間話があったばかりだけど……わかった、会議でちょっと聞いてみる』
「ごめん、今度飲みに行こう」
『うん。認定、頑張ってね、応援してる』
アスハさんも情報を持っていない、か。だとしたらいよいよおかしいな。
俺も現場に行くっていうか……先輩に話を聞いてみるか。
「先輩、弱めのモンスターがうろついてるんですけど、クエスト受注者がいないみたいで」
「なに? 転移者の数は増える一方だぞ、どうしてそんな問題が起きる。向こうでは研修らしいものは行ってないのか。ギルドの権限内で状況調査だ。何かあったら帰って報告しろ、状況に応じてウォッチか転移者のケツを叩く」
「分かりました」
「わたくしも行きますわ、先輩方。新人研修にはもってこいでしょう?」
なんでそんな自信満々な表情が出来るのか全く分からない。
レイテシアはこういう時放っておくと何をしでかすか分からない。俺が連れて行った方が面倒事は避けられそうだ。
事務仕事をあらかた片付けて、引継ぎを終えた後に外へ向かった。
ギルドに広い裁量権があってよかった。ウォッチはこういう事態でも問題が起きなければ動かない。バランスの法でそう義務付けられているし、バランスは自らが課した法で武力を保持できない。だからコルネ審問官も結局何かしたいならギルドかウォッチの協力を仰がないといけないから外遊に出ている。
「先輩、雑魚モンスターってどれなんですの?」
「スライム」
「ですから、スライムは決して雑魚ではございませんよ?」
「知ってる。ただ、放ってもおけないのは事実だろ。めちゃめちゃヤバそうならアスハさんに飛んできてもらうよ」
「……あの転移者、強いんですの?」
「ああ。少なくとも俺や先輩よりも」




