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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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在りもしない国 ④

「動くな、こいつの首を折るぞ」


「出来ませんよ、まだ条件が揃っていないでしょう。 王子、少しお待ちください」


「で、デス……」


 王子の身体を押し倒し、今にも首をへし折らんとするイオルド。 キューさんが見たら胃に穴が開く光景だ。

 だが彼はまだ王子を殺せない、彼の目的を果たすためには「王子」と「本」を揃えなければならないからだ。


「ミカ、それでも万が一の場合は止めてくださいね」


『か、過信はしないでくれぇ……』


「分かっています」


 ミカのポルターガイストはユーコさんのものより出力が弱い。

 イオルドが本気で王子を絞め殺すつもりなら止められないかもしれないが、少しでも猶予が稼げるだけでも十分だ。


「イオルド、一応警告です。 大人しくその手を離して床に伏せてください、あなたの目的は果たせませんよ」


「ふん、わかった口を利くな」


「あなたの目的は改変の影響で失われた家族を取り戻すこと、違いますか?」


「…………」


 心底面白くなさそうな顔と沈黙は肯定と受け取っていいだろう。

 恋人の線もあったが正解だったようだ、探偵には時にこう言ったはったりも必要になる。


「あなたは本を介してヴァルソニアの過去改変という特性を知覚していた、そして王族の死が改変を引き起こすトリガーであることも」


『そ、その話はさっきこいつが語ってたぞ……王子に聞かせてた』


「そうでしたか。 王子、ここから先はあなたが培ってきた常識の外にある話をしますが、お耳汚し失礼しますね」


「で、デス……」


「では……過去改変は王族の死という都合の悪い事実を存在ごとかき消す、王族に関わった人間も巻き込まれたことでしょうね」


 王子は理解が及ばないながらも、私たちの会話を必死に理解しようと押し倒された体勢のまま耳を傾けている。

 イオルドも黙って傾聴しているが下手なことを言えば殺されそうな殺気を向けている、私の背後に兵士たちがいなければとっくに殴りかかっていただろう。


「その中にはあなたの家族もいた、なのであなたは改変された過去を取り返そうと今回のクーデターを決行したのでしょう」


「……ヴァルソニアの改変はそんな融通が利くものではない」


「そのための制御装置として必要だったのがあの本です」


「…………チッ」


「あなたはあの本を使い、何度も小規模な改変行動を行っていた。 その性能を考えれば王子の死による大規模改変も御せると踏んだのでしょう」


 ……まあ、ここまでは実際に改変を行使したカフ子の所感から導いた推測だ。

 なんだか今回の私は何もしていない気がする、陀断丸や後ろの兵士たちの威を借りなければこんな大胆な推理ショーもできないし。


『あれ……それなら王子より王様を殺した方が早いんじゃないのか?』


「おそらくすでに王に即位している者は改変の対象外なのでしょう、でなければ老衰による代替わりもできません」


『あっ、そっかぁ……』


「王子に兄弟はいない、下手に殺せば最後のチャンスが不意になる。 なのであなたは王子を殺せません、その手を離してください」


「私が自棄になる可能性は考えないのか?」


「なりませんよ、国家転覆まで目論んだあなたが一時の感情ですべてを台無しにするわけがない」


「…………」


 眼を瞑り、何かに思いを巡らせるイオルド。

 そして大きく息を吐き出すと、彼はゆっくりと両手を上げて王子から離れた。


「リュシアン王子、お前は私がどこで寝食を過ごしているか知っているか?」


「なにを……」


「ヴァルソニアの南にある丘の上、海を一望できる屋敷がある。 そこが私の住まいだ」


「…………」


「独りでは広すぎる、私の家だ」


「……イオルド、あなたは――――」


「疑問だった、だが答えが出ないまま見て見ぬふりをし続けた。 だがあの時、本に触れて私はヴァルソニアの真実を知った!」


 高ぶるイオルドを取り押さえようとする兵士たちの動きを片手で制止する。

 私は彼の痛みを突いた、ならば彼の独白を聞かなければならない。


「私には家族がいた、愛する妻と子供たちがいた! だが私はなにも知らない、何の感情も浮かばない! なんなんだこれは、私たちはいったい何なんんだ!!」


  “私もすべての情報を咀嚼したわけではないですが、彼の話は本当だと思います。 あの本の中には改変の履歴ログが残っていました”


 今まで情報過多で処理墜ち気味だったカフ子が空気を読まない補足を入れてくれる。

 イオルドの供述を保証してくれるのはありがたいが、今は目の前の話に集中させてほしい。


「ヴァルソニアという国は存在しないだと!? 納得できるか、私たちが虚構の存在など!!」


「……そのことですが、どうやらまったくの虚構ゼロから生まれたわけではないようです」


「…………なんだと?」


「ここからが本題です。 ヴァルソニアの原点、そしてこの城の秘密について1つご提案が」


『わ、悪い奴の口ぶりだ……』


 なんてひどいことを言う幽霊だ、ただ黒須先輩プロに鍛えられただけの営業トークなのに。 これはあとでじっくりお話しなければならない。


「オホン! ……イオルド、あなたが抱える問題も一部は解決できるかもしれません。 そのためにも王子」


「な、なんデスか?」


「ちょっと申し訳ないんですけども、この城のお姫様になってくれませんか?」


「……で、デスゥ!?」

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