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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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在りもしない国 ①

「……質問いいかい、この人が乙姫様ってことでいいのかな?」


「ギギ、その通り。 我々はこの人の代わりを探している」


 壁一面に飾られた巨大な額縁を見上げ、キューさんは胃のあたりを抑える。

 もはや時代背景にそぐわないカラー写真程度では驚かないが、問題は被写体である人物だ。

 目じりを下げて柔和にほほ笑む銀髪の女性、はだけた着物の胸元から覗くほくろが非常にアダルティだ。


 何よりキューさんの胃を痛めつけているのは、カラー写真だからこそよく映える日に焼けた健康的な小麦肌だろう。


「わー、すっごいギャルっぽい。 ってか王子様と似てムゴモガー!?」


「似てない似てない、日焼け以外全然似てないなぁ! 王子はもっと身持ち固いよワッハッハ!」


「それはそれで乙姫様に失礼とちゃうか? それに山田の肩持つわけとちゃうけど、うちも似てると思うわ」


「雰囲気はともかく、外見的な特徴は一致してますね……」


 日焼けした肌と髪色、この2点だけでもエビさんたちが王子を見初める可能性は十分ある。

 女性ならば誰彼構わず捕まえてお姫様と扱うほどだ、少なからず乙姫様との類似点があれば、より熱烈な歓迎を受けるだろう。


「もし王子が見初められれば、ヴァルソニアへ帰ること叶わず一生この深海に……」


「やめてくれおかきちゃん、ただでさえ胃が痛いところに縁起でもない未来を予想するのは!」


「せやけど今知れたのはよかったわ、こうなったら王子見つけ次第とっととずらかるで」


「けどさーパイセン、どうやって帰る?」


 忍愛さんの疑問もごもっとも、なにせここはほとんど光も届かない深海だ。

 竜宮城を覆う膜の外は超低温かつ超水圧の領域、とてもじゃないが生身で生還できるものではない。


「それについてはおいらが何とかしてみるよ、乙姫様が駆け落ちしたなら外に出る手段は何かしらあるはずだ。 君、もうすこしここを調べてみても?」


「ギギ、構わない。 好きに調べて、好きになってほしい」


 なるほど、どうやらここまでの案内は彼らなりのプレゼンだったらしい。

 竜宮城を詳しく紹介すればきっとこの場所を好きになってくれると。


「しかしちょっと暗いな、ここって照明はないのかい?」


「ない、乙姫様いないとなにもできない。 今は最低限の設備だけ、動いてる」


「数百年単位の年月を非常電源だけで? よく壊れなかったな、ぜひ参考にしたい」


「電気必要ならまたパイセンにバチバチやってもらえば?」


「変電設備があればそうしたいな、悪いけど付き合ってくれウカっち」


「そりゃええけど、王子も探さなあかんやろ?」


「そちらは私が担当します、おおよそ王子が運ばれた方向は把握しているので」


「じゃあボクはエビちゃんたちにチヤホヤされてくるから……」


「ブチ殺したろか」


「まあまあ、忍愛さんにはここの兵士たちを引き付けてもらいましょう」


 ウカさんは怒っているが、忍愛さんには忍愛さんにしかできない役割がある。

 現状(妥協扱いとはいえ)お姫様である彼女の言葉は、エビさんたちを動かす力がある。 私たちが動いている間、忍愛さんには全員の目を引き付けてもらいたい。


「けどおかきちゃん、君が単独行動になるけど大丈夫か?」


「陀断丸さんがついています、それにミカも合流できればなんとかなりますよ」


「ねえボクも単独行動になるけど心配の言葉とかない?」


「風邪とか引かないようにね」


「よかった、バカとは思われてないみたいだ」


「アホとは思っとるから安心しい」


「ああそうだ、ちょっと待ってくれおかきちゃん」


 さっそく王子の救出に向かおうとする足をキューさんが引き止める。

 振り返った私の胸元に放り投げられたのは、タイプライターから切り取ったような手のひらサイズのボタンだった。


「今即席で作った玩具だけどね、ボタンを押すとおいらの手元に信号が送られてくる。

 モールス信号は打てるかい?」


「ボドゲ部の必修技能だったので一通りは」


「素晴らしいね、できれば王子の他にもSICKのメンバーが囚われてないか探してほしい。 おそらくイオルドたちを制圧していた面々も一緒に落ちているはずだ」


「わかりました、ではまたあとで」


 貰った通信機をポケットに突っ込み、再び王子を探しに研究所の出入り口へ駆け出す。

 するとエビさんもウカさんたちから離れ、私の後ろを追いかけてきた。


「ギギ、姫サマ、ついてく」


「いえ、私は姫様ではないのですが……忍愛さんについて行かなくていいんですか?」


「ワシの姫サマ、あなたに決めた」


「決められても困るんですけども……まあいいです、できれば王子の救助も手伝ってくれますか?」


「ギギ、姫サマがそういうなら」


 ……なんとなく、この人(?)たちに悪意がないのは分かる。

 ただ自分たちを導く姫を探し求め、偶然近くを通った私たちを呼びこんだのだろう。 方法は乱暴だったが。

 エビさんは「王子を助ける」ということの意味が分かっていない。 無知と純粋に付け込んで逃げる手伝いをさせる形になってしまった、罪悪感に胸が痛い。


「あー……では私たちが捕まっていたような牢屋がある場所を案内してください、たぶん城内にいくつか点在してますよね?」


「その通り、姫サマ賢い。 ほかに、手伝えることは、あるか?」


「うーーーん……なら乙姫様のことについてもっと教えてください、彼女の行方とか純粋に気になるので」


「乙姫様、ずっとずっと遠くの海に行った、追いかけられなかった。 そこで国作る、言ってた」


「………………ん?」


「日本じゃない国、誰にも侵されない国、()()()()()()()()、作る。 そう言ってた、覚えてる」


「ん…………んんー……?」

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