お姫様ナンバーワンバトル ③
「うーん、まさかさらに地下があるとは……どれだけ広いんだいこのお城?」
「内部構造もかなり複雑ですね、一度迷うと大変ですよこれ」
「おかきとはぐれたっちゅうテロリストは大丈夫なんか?」
「どうでもいいよー! あのエビちゃんたちが探してくれるんでしょ? なら死ぬことはないって」
「イオルドだけならともかく王子の安否に過去改変本の行方も……まだまだ不安は残っていますね」
地下へ続く長い石階段を降りるたび、連動するように私の気持ちも沈んでしまう。
手持無沙汰になるとよくない考えばかり浮かんでよろしくない、イオルドの追跡はミカに任せているが大丈夫だろうか。
「というかこのエビちゃんたちに聞けば王子様もどこにいるか知ってるんじゃない?」
「おいらもさっき聞いたけどわかんないってさ、兵士間で報連相できてないんだよ」
「私も捕まったらまず牢に放り込まれましたからね、とりあえず確保してからゆっくり話を共有するつもりなんでしょう」
「外敵がいない弊害だなぁ、警戒心も統率もなにもあったもんじゃないや」
「ギギ……着いた」
「っと、ようやくか。 おいらの足も限界だぜ」
そんな話をしている間にも階段を降り切り、私たちの目の前に立ちふさがったのは、竜宮城にそぐわない近未来的な扉だった。
扉の横には、如何にも「認証してください」と言わんばかりのカメラとタッチパネルが設置されている。
「こりゃすごいな、タングステン合金だ。 放射線だって遮蔽してくれるぜ」
「どう見ても浦島太郎の時代にはそぐわない代物ですね、これはいつから存在していたんですか?」
「ギギ、はじめから」
明確な答えではないが、この老人エビから見て”はじめから”というなら相当昔からある扉に違いない。
そのうえここまでハイテクな電子ロックともなれば、十中八九オーバーテクノロジーだ。 当たり前だが取っ手もなければ押しても引いても開かない。
「ギギ、その扉は外から開けない。 姫サマ以外には」
「じゃあダメじゃん、蹴破っちゃう?」
「姫サマ(代理)、ここに顔」
「おい代理をつけるなボクはまだ本物のつもりなんだからな!」
文句を言いながらも忍愛さんが指示通りに扉横のカメラに顔を近づける。
すると自動的にカメラがフォーカスを合わせ、忍愛さんの顔を認証。
その数秒後、ブブーという認証失敗の音を鳴らして壁から突き出てきたロボットアームが器用に両手でバッテンを作った。
『オ姫様度68点! ダメデスダメデス! 三下根性滲ミ出テマス!!』
「おいこいつから殺していいのかな」
「引っ込んどき68点」
「68点言うな!! そういうパイセンはどうなのさ!?」
怒った忍愛さんがウカさんの肩を掴み、無理やりカメラの前に引っ張り出す。
しかし再びカメラは認証失敗の音を鳴らし、壁から生えたアームが今度は「やれやれ」と言わんばかりのジェスチャーを見せた。
『オ姫様度69点! ケモ耳加点デスガ性根ガヤンキー……』
「あ゛?」
「オ姫様度87点!! 実ニ惜シイデスネ!!」
「おい!! 機械が脅しに屈するんじゃないよ!!」
「うーん、判定基準はよくわからないけど搭載AIの出来がいいね。 人間臭いところとかおいら好みだ」
「点数はともかくこれってつまり顔認証ですよね? こっちのタッチパネルはおそらく指紋認証でしょうか」
「ならおいらの出番だね、30秒ほど待ちな」
コキコキ肩を鳴らしたキューさんがどこからかドライバーとスパナを取り出すと、目にもとまらぬ早業でタッチパネルのカバーを取り外す。
外装が一枚剥がれれば、その下には素人目にはよくわからない基盤が1枚。
しかしキューさんはこれにも迷うことなく、あれやこれやと器用に手を加えていった。
「うーん綺麗なはんだ付けだ、製作者の性格が見えるね。 ウカっち、ちょっとここに電気流して」
「ほい来た、静電気レベルでええか?」
「それぐらいでいいよ、バチっと一発決めちゃって」
基盤の一部にアルミホイルのような部品を噛ませ、繋げた銅線にウカさんが電流を流す。
そして一瞬火花が散ったかと思うと、あれほどうんともすんとも言わなかった扉は自動的に開かれ、パンパカパーンと軽快な音楽が流れ始めた。
『オメデトウ! オメデトウ! オメデオメデオメオメオメオメメメメmmmmm』
「おっと、ちょっとやりすぎたかな? 後で直すから許してくれよ」
「さっすがキューちゃん、機械相手なら無敵やな」
「ワッハッハもっと褒めてくれたっていいんだぜ! さあさみんな入った入った」
浮かれるキューさんが先行し、その背中を私たちがぞろぞろと追いかける。
ひとたびタングステン扉を潜るとこれまでの古風な城景から一転、怪しく泡立つ培養槽や電源コードが根を張るマッドな研究施設が広がっていた。
「おおう……なんというか、すごいですね」
「海の底に水槽って無駄じゃない? 二度手間だとボク思うんだけど」
「ギギ……中の水が特殊、我々はこの水槽の中で生まれる」
「へぇ、君たちの生まれ故郷ってわけか。 そりゃ興味深いな、あとでサンプル取っていいかい?」
「少しだけなら、良い。 あと、アレが姫サマの写真」
老人エビが指を刺した壁には、一面を埋めるほど大きな額縁が立てかけられていた。
よほどの自信家だったのか、あるいは海産生物たちが崇拝の意味を込めて作ったのか、ともかく額縁には見目麗しい女性のカラー写真が収められている。
「これは……おかきちゃん、ちょっとまずいかもしれないな」
「……ええ、早急にミカと合流しましょう」
結論から言えば、その女性の写真は私とは似ていなかった。
ただ――――モナリザのような構図でこちらを見つめているような女性の肌は、リュシアン王子やイオルドと同じく、こんがりと日に焼けていた。
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――――……
――…
「うぅ……どこなんデスかここ……?」
一方そのころ、おかきたちとは別の牢屋に放り込まれたリュシアン王子は膝を抱えて泣いていた。
牢屋の中に同居人はおらず、見張りすら立っていない。
本来王子を見張っていた兵士は皆、脱獄したおかきたちを追ってこの場を離れていた。
「命を狙われたり、投獄されたり、迷惑をおかけしてばかりデスぅ……! ヴァルソニアの王族として不甲斐……」
「――――見つけたぞ、王子……!」
「……デス?」
一人いじける王子を捕らえる鉄格子がガシャンと揺らされる。
入り組んだ城内を駆けまわり、幸運にも兵士とエンカウントせずここまでたどり着けた男は、荒い呼吸を整えながらぎらついた眼で王子を睨みつけていた。
「さあ、私と一緒に来てもらうぞ……リュシアン王子……!」
「い、い――――イオルド!?」




