お姫様ナンバーワンバトル ②
「お姫様ナンバーワンバトルを挑む!!」
「いや二度言わなくても聞こえてますけど、聞かなかったことにしていいですか?」
日本語として聞き取れたものの内容としては理解できなかった。
なんだろう、もしかして忍愛さんはこの空間からよくない影響を受けて頭がよろしくないことになってしまったのだろうか。
「気持ちは分かるぜおかきちゃん、だけど残念なことに彼女は正気さ」
「山田、ええかげんにせんと怒るで。 おかきも困っとるやろ」
「うわーんやだやだやだやだ! こんなにちやほやされる機会滅多にないもん、本性バレるとすぐみんな扱い雑になるんだもん!!」
「バレて困るような本性にしなきゃええやろ」
「それは肉じゃがから肉とじゃがを抜けと言ってるようなものじゃないですかね」
「なんてこと言うんだ新人ちゃん」
「そもそもお姫様バトルってなんですか……もしかして周りの彼らと何か関係してます?」
私たちのやり取りを前に割り込むタイミングを失ってしまった海産生物たちは、どうしようかとお互いに顔を見合わせながら、私たちを遠巻きに取り囲んでいる。
そして忍愛さんと彼らの口から出てきた「お姫様」というワード、関係性があるとすればここだ。
「おかきちゃん、さっきこのが竜宮城だって話しただろう? どうも城主である乙姫様が失踪したようでね」
「浦島太郎と駆け落ちしたらしいで」
「駆け落ち」
あのなんの教訓も得られないバッドエンド昔話の裏話に思わず復唱してしまった、歴史に隠された衝撃の真実だ。
「というか浦島太郎って実在していたんですか……?」
「いやー伝承のモデルとされる人物はいたらしいけどおいらも詳しいことは……ただ少なくとも彼らは浦島太郎と乙姫の存在を語っているからね」
「ギギ! 姫サマ! 姫サマー!」
しびれを切らした海産生物……もとい乙姫の元配下たちが手に持つ武器を掲げて沸き立つ。
なるほど、この場に集まっているのは忍愛さんを含めて絵に描いたような美女ばかり、お姫様を求める彼らにとってはより取り見取りのバーゲンセールか。
「事情はなんとなく分かりました、しかし忍愛さんがお姫様ではだめなんですか? 見ての通り美少女ですよ」
「新人ちゃん……」
「たしかに中身はちょっと残念ですがそこは黙って座っているだけで華があるというものです」
「新人ちゃん?」
「ギギ……作戦タイム」
私のプレゼンになんと返事を返したものかと海産生物たちが円陣を組み、議論を始める。
人間サイズの人型甲殻類たちがワサワサ集まる様は人によっては発狂ものの光景かもしれない。
「ギギ……どうする?」
「お姫様ポイント50点……論外……」
「性格が悪い……」
「絵にも描ける美しさ……」
「あの太ももでお姫様は無理でしょ……」
「おい!! 聞こえてるぞ雑魚ども!!!」
「魚類じゃないし雑魚は不適切じゃないかな」
「そもそもなぜ甲殻類ばかり集まっているのでしょうか」
「そこはどうでもいいんだよ! 僕が50点なら新人ちゃんは何点なのさ!?」
「35億」
「死!!!!」
簡潔な断末魔を上げて忍愛さんがその場に倒れ伏す。
その目からあふれ出る涙はあっという間に大きな水たまりとなり、城の廊下を濡らしていった。
「生まれてきてくれてありがとう」
「“清楚”が身から染みだしてる」
「メカクレで加点34億」
「絵にも描けない美しさ」
「ロリisベスト」
「中学生超えたらババア」
「新人ちゃん!! こいつらここで滅ぼすべきじゃないか!!?」
「奇遇ですね忍愛さん、なんだか私もそうするべきかと思えてきました」
「まずいぜウカっち、このままじゃ収容対象が絶滅しちまう。 止めてくれ」
「はいはいそこまでや、おかきもこれ以上は収集つかんから止めとき」
ヒートアップする私たちの間にウカさんが割って入る。
危ないところだった、ウカさんの制止がなければこの場で海鮮バーベキューが勃発していたかもしれない。 命拾いしたな。
「というわけでお姫様ナンバーワンバトルの勝者はおかきちゃんということで、そもそも君たちはお姫様を選び出してどうしたいんだい?」
「おいボクはまだあきらめてないからな!!」
「ギギ……我々、お姫様いる、嬉しい。 ずっと一緒にいる、竜宮城、栄える」
「つまりお姫様に選ばれるとこの深海にずっと閉じ込められると」
「さーて冗談はここまでにしてそろそろ帰ろっか、世界平和のために」
「しゃらくさいわ」
「残念ながらまだ帰るわけにはいかないけどね、王子たちも探さないと」
「キューさん、その件でしたら私からちょっとお話が……」
鮮やかな掌返しを披露する忍愛さんの傍ら、キューさんたちにこれまでの出来事を共有する。
海産生物たちも目的の割には手荒な真似はせず、私たちの動向をただ遠巻きに見つめていた。
「にゃるほどね、たぶん王子も姫様候補で捕まってるってわけか」
「なんや字面がややこしいな」
「イオルドも王子を探すために単独行動を……すみません、私がついていながら」
「いや、情報としては十分だ。 というわけでおいらたちは君たちが捕まえた捕虜と会いたいんだ、案内してくれるかな?」
「ギギ……」
キューさんのお願いに再び海産生物たちの作戦会議が始まる。
しかし今度は長い。 内容もさきほどのような性癖座談会などではなく、私たちに聞こえないよう声を潜めた本気の会議だ。
「うーん、こまった。 せっかく穏便な関係を維持できているんだ、できれば手荒な真似をして壊したくはないんだけどな」
「山田生け贄に捧げて何とかなるならそれでもええけど、おかきはあかんな」
「ねえパイセン、ボクらの友情は永遠だよね???」
「所詮フィクションの産物であるおいらたちは絵にも描けるレベル、彼らが求めているのは“絵にも描けない美しさ”だ。 この中じゃおかきちゃんが一番適している」
「私も深海暮らしはごめんですね……そもそも乙姫様ってどんな方だったんでしょうか?」
「ギギ、乙姫サマの写真、ある。 見たいか?」
私たちの話を聞いていたのか、海産生物たちの輪から高齢と思われる個体がひょっこり顔を出す。
白いひげを蓄え、腰が折れ曲がったエビ。 なるほどこうして見ると長寿の縁起物として扱われるのも納得だ。
「写真が現存してるのかい? いや待て、そもそも当時の技術でどうやって撮影を……?」
「地下の研究所に写真、ある。 ついてくるといい」
「ほーん、研究所かいな……研究所?」
「ギギ、乙姫様の研究所。 ワシら、そこで産まれた」




