お姫様ナンバーワンバトル ①
「……話を続けても?」
「命が惜しくないのか、お前は」
「もちろん死にたいわけではないですよ、ただこのあたりの事情ははっきりしておきたくて」
ガタガタ鞘を震わせる陀断丸さんを手で押さえる、こんなところで刃傷沙汰など起こしたくない。
イオルドの後ろに立つミカも慌てふためきながら、胸倉を絞め上げられている私の身体を少し浮かせ、呼吸が閉塞しないようにしてくれている。
2人がいなければ私もこんな人の神経を逆なでるような真似はしなかっただろう、言っちゃ悪いが今の私は虎の威を借る狐だ。
「イオルド、あなたは王子を殺してわざと過去改変を起こそうとした。 本来なら制御できないものですが、“本”を用いれば介入の余地がある」
「だからなんだ、その世迷言を続けるなら首の骨を折るぞ」
「では変えたい過去とはなにか? さすがに詳細までは分かりません、ですが過去改変の特性を考えるなら、例えば死……」
イオルドが拳を固めて振り上げる、見た目が女子どもだろうが手加減する気は一切なさそうだ。
だが、これ以上の乱闘はさすがにシャコの看守も見逃してはくれない。 すぐに牢の鍵を開け、私たちの仲裁に入ろうと扉を――――
「ミカ、今です!!」
『あ、あいよー!』
「ギ、ギギッ!?」
シャコの人が扉を引く力に合わせ、ミカが内側から扉を押し込む。
そして想像以上のパワーで開けられた扉に面食らった看守が尻もちをついた、その隙をついて私たちは牢を飛び出した。
「イオルド、あなたも早く!」
「ギ、ギギ! 待って、姫サマ(仮)ー!」
「なっ……チッ、文句は後にしてやるぞガキめ!」
「誰がガキですか誰が!! 二度と言うんじゃねえですよ!!」
いっそ見捨ててやろうかとも思ったが、咎めた私の良心に感謝してほしい。
ともかく運び込まれた際に出入り口から牢屋までの道のりは覚えている、来た道を戻れば外には繋がっている。
目隠しも拘束もなく、武器も取り上げない海産生物たちの甘さに助けられた。 そういえば「姫様」と呼ばれた気がするが一体何だったのだろうか。
「おい待て、王子はどうする気だ!?」
「一度追手を振り切ってから立て直します、私たちの扱いからしてすぐに身の危険が及ぶことはないと思うので!」
「そんなことはお前の勝手な推測だろう!」
「あっ、ちょ……!」
イオルドは帰路から外れ、入り組んだ廊下の角を曲がっていく。
私が足を止めて追いかけようとした時にはもう姿は見えない、逃げ足が速すぎる。
「ミカ、追いかけてください! 私はこのまま脱出するので見つけ次第さっきの岩場で集合を!」
『だ、大丈夫なのか!? 死なないか!?』
「物理的に見つからないあなたが一番安全ですよ! それに二手に分かれた分だけ私への追手も減って……」
「「「「「うおおおおおおおお姫サマー!!!!」」」」」
「全員こっち来たぁ!!?」
単純に考えて追いかける人数の半分は減るはず、という考えは廊下を埋め尽くす追手たちに踏みつぶされた。
曲がり角の先へ消えていったイオルドなど目もくれず、全員が全員私目掛けて猛進してくる。
幸い足の速さは私とあまり変わりないが、どこまでも私を追いかける執念を感じる。
「な、なんで!? イオルドが見えてなかった……いやそこまで目が悪いわけが……」
『姫、まずは走ることに集中を! 幸い道幅は狭い、数が多くとも敵は1人2人同然!』
「そ、そうですね……なら逆に外へ出ず城内で撒くべきか……?」
『否、このままなら追手の足並みがバラつくはず。 そこを振り向きざまに1人ずつ斬り捨てれば』
「幕末的な解決方法は求めていませんが!? うわーん、ミカ送り出さなければよかったぁー!」
「――――ちょぉ待ったァー!!」
廊下の先から反響する聞き覚えのある声に、私を追いかけていた追手たちの身体がビクリと止まる。
この名状しがたい生物たち竦ませる凄み、そしてバチバチと稲光を放ちながら近づいてくる人影の心当たりは1人しかない。
「……ふぅ、無事やなおかき?」
「う、ウカさぁん……!」
「おいらもいるぜぃ、なんか大変だったみたいだね」
疲労がたまった脚が崩れ、その場にへたり込んでしまう。
窮地に次ぐ窮地の末、ようやく出会えた見知った顔に緊張の糸が途切れてしまった。
幸い2人にも怪我を負っている様子はない、どうやらシャコやエビたちに襲われることなく済んでいたようだ。
「ほらお前ら散った散った! 見せもんとちゃうでまったく……おかき、立てるか?」
「う、ウカさん……キューさん……何なんですかこの空間……?」
「それがねおかきちゃん、住民に聞き込みしたところどうやら竜宮城らしいぜ」
「竜宮城……ってあの竜宮城ですか?」
「そゆこと、そしてもう一つ面倒なお知らせがある」
「新人ちゃーーーん!!」
どこかゲンナリしたキューさんの頭を飛び越え、私の目の前に着地したのは、煌びやかな着物を纏った忍愛さんだった。
透き通るほど薄い羽衣をたなびかせる姿は、なんとなく空想上の乙姫様を連想させる。 私なんかよりよっぽど姫様呼びがふさわしいんじゃないだろうか。
「し、忍愛さん? どうしたんですかその恰好……」
「細かいことは良いんだよ! そんなことより新人ちゃん――――君にお姫様ナンバーワンバトルを挑む!!」
「………………はい?」




