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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第15章 最後の審判
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15-1

 


 陽が長くなり、汗ばむようになった。ローブも夏物の薄手のものになり、ハインリヒ様のリボンも明るい色を選びがちだ。ちなみに今日は去年イリスで買ったエメラルドグリーンのリボンである。


 ハインリヒ様は最近はニコニコと笑っていることが多い。お陰で正門の玄関ホールに群れる女性が朝から増えたが、その後ろで手を繋いで歩く私には殺気怨念憎悪嫉妬渦巻くどす黒い視線が刃のごとく刺さっていた。


 右手の薬指には大きなアイスブルーの石が嵌められた指輪がしっかりと存在を主張しているからだ。


 18才の誕生日を寝てすごしてしまった私に、プレゼントに欲しいものは無いか何度も聞かれたが、もう十分頂いているし、何もいらないとハインリヒ様に告げると、数日後ニコニコと笑うハインリヒ様に突然「右手を出せ」と言われて嵌められたのがこの指輪である


 その場を去ってすぐに外そうとしたが、なんとこのリング、外れない。どんなに引っ張っても外れない。よく見ると指輪にハインリヒ様の魔力がこびりついている。つまり、人為的に魔術で外れないように作られた指輪を嵌めたのだ。


 以降、何処に行くにもこの目立つ指輪と共に行動せねはならなくなった。


 私は少しでも呪いのような女性達のおどろおどろしい視線の数を減らすべく色々と工夫を凝らしている。主にレナルドから貰ったサミュエル様のお古の装着である。


 怪しげなハート型のサングラスをし、頭に金色のトサカかついた帽子を被り、ハインリヒ様に手を引っ張られて登庁すると、完全に連行された変質犯罪者のようで、ヒソヒソと叩かれる陰口も、以前は「ピエロ女」だったが、最近は「頭の狂ったピエロ女」に改名されていた。



 弟子会では、今年度初受験を控えたレナルドか日々猛烈に勉強をしていた。


 レナルドにもララには、一応ハインリヒ様と恋人関係になってしまったことはこっそりと打ち明けた。


 一般的な人間の「友達」の場合、大事なことは本人から打ち明けるべきで、第三者から後で聞かされると酷く気分を害するものだと、ハインリヒ様から教えられ、2人が大事ならきちんと報告してこいと言われたからだ。


 ララとレナルドはしどろもどろに説明する私をキョトンと見つめ、「え?もうずっと前から恋人なんだと思ってた」と言われた。


 ララとレナルド曰く、アルレット様もサミュエル様もハインリヒ様が私に恋をしていることを温泉地に行った時には既に周知した上で、あの部屋割りになったとういう。


 如何せん解せない部分もあるが、ともかく、2人ともにはきちんと自分から報告できた。


 レナルドがノートをガリガリと書く横でララはぽけ~っと宙を見つめたまま私に言った。


「ねぇ、ティアナはさ、このまま本当に魔術師資格試験受けるの?」

「え?さあ。受けても落ちるの目に見えてるよ。ララは?」

「·············あのさ、私、魔術師の弟子辞めるかもしれない」


「え?なんで!?」

「は?何だそれ!」



 私もレナルドも、一気に他の雑念が消え失せ、ララを見た。


「まだ、誰にも言ってないんだ。アルレット様にも」

「········何かあった?サラマンダーの時の足の怪我がまだ痛むとか」


 ララはかつてサラマンダーの対処に同行して火の粉による怪我を足に負っている。傷痕はいまも黒くその足に跡を残していた。


「ううん全然。むしろこれを実験台にして色々試してる感じだし」

「どういうこと?」


 ララは少し俯きながらポツポツと話し始めた。


「あのね、私アルレット様に憧れて、あんな風になりたくて弟子入りしたんだけどさ、2年過ごしてわかったことがあって·······私、アルレット様のように美しくありたいのであって、魔術師になりたかった訳じゃなかったみたいなんだ」


「ララ······」


「私ね、アルレット様にお化粧の仕方とか教えもらってたんだけど、やっていくうちに魔術師の勉強よりもそっちに熱が入り始めちゃってさ。サラマンダーの対処で怪我を負った時、魔物による外傷の痕をカバーするための化粧品があるって言ったでしょ?」


「うん」


「私ね、その化粧品を使って、魔物の外傷がある人のメイクアップとかやってみたいな·······とか、ずっと思ってて·······や、でも、出来るかどうかわかんないんだけど·······」


「出来るよ!!」

「ティアナ·········」

「ララなら出来る!だって私にメイク教えてくれたじゃない!」


 そう。絵心のかなり際どい私に懇切丁寧に技術を仕込んだのはララとアルレット様だ。毎日会うララには特に、流行の色や技術をずっと教えて貰ってきたのだ。


「·······ティアナも、レナルドも······もし、私が弟子会辞めても、全く違う職業になっても、友達でいてくれる······?」


「当たり前じゃない!」

「俺だってずっと友達だぞ!」


 レナルドは隣で若干涙ぐんでいた。


「レナルドはこのまま魔術師を目指すんだよね?」


 ララの問いにレナルドはこくりと頷いた。


「俺が、代わりに立派な魔術師になってやる」

「そっか。じゃあ、皆で集まる時はごはん奢ってね」

「ぐす······飯くらい幾らでも奢るよ」

「特上ステーキね」

「お前もかよ?!」


 目元を腕で隠しながら、レナルドは口をへの字に曲げて震えていた。


「·········ティアナは、どうするの?本当にハインリヒ様のメイドになるの?」

「いや·······それは許可しないって言われてる」

「じゃあ、魔術師を目指すの?」

「··········私もね、もしかしたら弟子会やめるかもしれない········あ、あのさ!2人ともこのこと、ハインリヒ様にもサミュエル様にも、アルレット様にも言わないでくれる?3人だけの秘密にしてくれる?」


「もちろん。私達は親友だよ。秘密は守るよ」


「俺も絶対に言わない·······今後どうするか、ティアナはもう決めているのか?」


「まだちゃんと決めた訳じゃないけど······ヴァンゲンハイム家から出ようかと思ってる。ハインリヒ様のこと大切だから、これ以上迷惑かけられないし」


「でもお前、ハインリヒ様と恋人同士なんだろ?」


「うん······まだ少し悩んでる」


 弟子会の授業終了後の講義室の隅で私は、迷っている悩みをほんの少し友達に打ち明けた。



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