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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第14章 魔女の断罪
123/139

14-5

 


「真実?」

「そうです」


 ハインリヒ様は訝しげに私を見たが、私はわざと目を背け床に視線を落とした。


「順を追って話します······私、ずっと夢の中で歴代の魔女の記憶を見ながら、色々と思い出していたんです。アレクシス様には、私がエレオノーラだった頃に予想の範囲としてお話をしたこともありますが······。まず、『審判の魔術師』を最初に作ったのは、私です」


 思ったよりも声がはっきりと出た。でも怖くて顔があげられない。


 2人とも声で反応を返さず、私はそのまま続けた。


「当時2代目『贄の魔女』のローザであった私は、初代の魔女の死に際感じた後悔を晴らすべく、仮王城で王城付魔法使いとして人間に関わることを決めました。そこで、私の上司になったのがヴァンゲンハイム家初の当主ニクラス様です」


 未だ反応を返さない2人に、私は一瞬顔をあげようとして、止めて、手をぎゅっと握った。


「ニクラス様は凄く頭の良い方で、魔法から魔術の過渡期で混乱していた世を、魔術庁を建設したり、結界魔法陣を作ったりして、この国の安定と繁栄に大きく貢献されていました。私は傍でチョロチョロと邪魔するだけだったけど、随分と優しくして頂きました。暫くすると、師弟制度を利用せずに魔術を学ぶ者も増え魔術による犯罪が王都内に蔓延るようになったんです。だから······だから私は······」


 ニクラス様を助けようと────·······


 悪意があった訳じゃなかった。ただ彼を助けたかった。


 頬を流れるものを感じたけど、無視をした。泣いて許されることじゃない。


「私が······『審判の魔術師』として魔術犯罪を取り締まることを提案しました。悪魔であるノエルと友人関係であることを告げたのはこの時が初めてです。数年で終わると思っていたこの制度が、当時の国王の命によりヴァンゲンハイム家の当主となるものが代々引き継ぐことが正式に決まってから、ニクラス様はいつまでも私とノエルに頼れないと、あの『記憶を奪う魔法陣』を自身で完成させたんです」


 ほんの少し、右手が震えだした。未だ俯いたまま、2人の顔を見れず、左手で震えを押さえ込んだ。


「すぐに私は、私自身を喚ぶ召喚魔法陣を作りました。『記憶を奪う魔法陣』をニクラス様にもその子孫にも使わせる訳にいかなかった。何度転生しても、自分の責任を果たさなければと、ニクラス様に転生の秘密を打ち明けて、魔力が宿る13才に満たない場合にはノエルが代わりに応じるように契約をし、寿命の前に私は死にました」


「·············」

「·············」


 ハインリヒ様も、アレクシス様も何も言わなかった。


 右手の震えは止まらなかった。


 左手の甲には、ポタポタと水滴が落ちていた。


「そこから、何度も生まれ変わり、その度にヴァンゲンハイム家を何とか『審判の魔術師』から開放しようと模索する人生を繰り返したけど、頭の悪い私は結局ノエルとの契約を元にしか前進できずに、それでも9代目『贄の魔女』エレオノーラとなって初めてヴァンゲンハイム家を開放する手段を作り上げました。『魔力を最低限に押さえる魔法陣』です」


「魔力を押さえる········?」


 初めて声を出したハインリヒ様に、思わず彼を見た。不思議そうな訝しむような、そんな顔をしていたけどハインリヒ様は私を蔑んではいなかった。


「作り上げてからアレクシス様に魔法陣を託しました。そして、ノエルには、国王陛下の夢枕に立って『お告げ』を何度もしてもらいました。『審判の魔術師』制度を止め、魔術裁判所を設置するようにと」


「夢枕にって······まさか国王に代々お告げを下す『白い神』ってノエルのことだったのか······?」


「建国から5年目の魔法対戦でクレンペラー王家側の魔法使いを一瞬で消したのはノエルの仕業です。これは図書室別室に保管してあった魔女の手記に書いてあります」


 ハインリヒ様は一人唸っていたが、アレクシス様は眉を下げて私を見たままだ。


「·········公式に魔術裁判所が出来て『魔力を最低限に押さえる魔法陣』を使用すれば、記憶も残したまま、魔術だけを使用不可の魔力値にして、裁判と服役後に一般社会に戻すことも出来ます。もう、あなた達ヴァンゲンハイム家が震えながらあの仮面を被ることをしなくていいいんです」


「·······エレオノーラに託されて、僕も死に物狂いでことを進めた。魔術裁判所は来春から開廷が決まったよ」


「そうでしたか······アレクシス様には迷惑ばかりかけてしまいました」


『審判の魔術師』はもういらない。

 魔術師の裁判が執り行われれば、公明正大に罪を裁ける。


「わかったでしょう?ハインリヒ様········私は、300年もの間、あなた達に『審判の魔術師』を強いた罪人なんです。私、あなたに好かれるような綺麗な人間なんかじゃないんです」


「···········」

「···········」


 沈黙が流れる中もう一度深く頭を下げた。


「ヴァンゲンハイム家に心からの謝罪とお詫びを······そして·······」


 流れた涙を拭かずに顔を上げた。


「どんな罰でも受け入れます。お二人に私の罪を裁いて欲しいんです」



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