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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第13章 贄の魔女 【3】
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13ー5 二代目『贄の魔女』ローザ 5

 


「ローザ!何でだよ!」


「あなたみたいな高貴な人に私みたいなのをくっつけてはダメです。私は罪を重ねたもの」


「それは······俺がそうさせたんだろ」


 ニクラス様について10年が経った。13才だった私は今では23才の大人になっていて、ニクラス様から求婚を受けていた。


「ニクラス様、どうか冷静になって。貴族令嬢から沢山の釣書が来ているじゃないですか。あなたには幸せになる権利があるの」


顔を見ないで俯いたまま言うと、肩を掴まれそのまま長い腕に強く抱き締められた。


「お前に全ての罪を被せて、俺だけ何処かの女とのうのうと生きて行けと言うのか?『審判の魔術師』はもうお前にはさせない!頼むから······ローザ、······愛しているんだ······」


「私もあなたが好きです。だからこそ、あなたには幸せになって欲しいの」


精一杯の笑顔を向けた筈なのに、目が潤んでしまう。ニクラス様は私の肩に顔を埋めたまま、背に回した腕を解いてはくれなかった。


「俺はお前を諦めないぞ。絶対だ······!覚悟しておけローザ。必ず首を縦に振らせて見せる」


 王都は、『審判の魔術師』の存在が噂され、大きな魔術犯罪が格段に減った。最初は噂だけとされていたが、現に大きな魔術犯罪者は、魔術と犯罪に関する記憶だけを失い、二度と魔術が使えない状態で発見されていた。


 この『審判の魔術師』を知る者は国王と王専属魔法使い、そして魔術庁長官のシュトライヒ公爵様だけだ。


「私が死ねば、『審判の魔術師』も居なくなる。ニクラス様は、何の咎も無いのだもの。平穏に暮らせるわ、そうだよね?ノエル」

「わかんない」


 ノエルはプイとそっぽを向いて猫になり何処かに消えた。


 ニクラス様の求婚は予想外だった。今まで、こんなに人から好かれた経験の無い私は、ニクラス様が遠回しに私に好意を伝えてくれたことにも気づかず、好きだと何度言葉を貰っても信じずはぐらかし続け、ついにニクラス様は強硬的に婚姻を結ぶと迫ってきたのだ。



 ある時、仮面とフードを被って外出しようとするニクラス様を見つけ、私は弾けるように彼の腕を掴んで止め、そのまま自室に戻した。


「『記憶を奪う魔法陣』を完成させたんだ。だから、もうローザが『審判の魔術師』を続ける必要なんか無い」


 見せてもらった魔法陣を見て、私は愕然とした。すぐにノエルを呼んで見てもらうと彼は淡々と効果を説明した。


「記憶は無くなるだろうけど、人間として生きる全ての術も忘れるよ。廃人を作るにはいい魔法陣なんじゃない」


「冗談じゃないわ!聞いたでしょニクラス様。記憶の操作はノエル以外に出来ないわ······人間がやってはいけないの!」


 項垂れたまま彼は静かに言った。


「仕方ないさ。どのみち俺たちが亡くなった後、王命が下ればヴァンゲンハイム家がこれをやらなくてはいけないんだ。いつまでもローザとノエルにやらせるわけにもいかないんだよ······」


「亡くなった後って······?『審判の魔術師』はこれからも続けなくてはいけないの?今だけの存在なのではないの?」


「誰かが続けなければ······また建国時の魔法大戦の二の舞だ。いつか、魔術で大きな戦いが起こってしまう。初期段階で犯罪を止めるには確かに有効だ······正式に、代々のヴァンゲンハイム家当主が密かに担うよう、王命が下ったんだ」


「私···私のせいだわ······私があんな考えを実行したから······」


「違うよローザ。俺が君に頼りすぎてしまったんだ。これは全て俺の責任だ」


 抱き締めたニクラス様は僅かに震えていて、私は彼に癒しの魔法で落ち着かせてそのまま眠らせた。




 私のせいだ

 世界で唯一、私を好いてくれたこの人を悲しませた

 この人の子々孫々まで巻き込むなんて


 関わるべきではなかった

 でも、もう後戻りは出来ない


 ならば、未来のヴァンゲンハイムの子に私が出来ることは一つしかない



 私は大きな用紙をもちだした。


 魔力を込めながら丁寧に、丁寧に円を書き、間違えの無いように私だけの構築式を書き込む。


 発動条件は、少量の魔力でいい。ヴァンゲンハイムの子達の叫びに必ず答えてあげなくては。


 3日3晩かけ、飲まず食わずで私は完成させた。


「何をしているんだ、ローザ!呼んでも部屋から出てこないし······なんだそれ、何だよその魔法陣は」


 無理矢理鍵を開けられた部屋の中にいたボロボロの私は、ニクラス様に笑いかけた。


「········誓ってほしいんです。ニクラス様。決してこの事を口外しないと」


「ローザ······?」


「私はね、来世も必ず『贄の魔女』として生まれて来るの。来世もそのまた来世も。これは絶対の運命。私が決めた運命なの。だからヴァンゲンハイムを継ぐ子供達に絶対に『記憶を奪う魔法陣』を使わせないで。私を呼んで。私にさせて」


「どういう事だよ、ローザ」


「私はまたノエルと友達のまま転生するの。私は永遠に『贄の魔女』だから········誓って、ニクラス様。秘密持ったまま、国王にも誰にも言わないと。ヴァンゲンハイムを継ぐ子供達に私を喚ばせると」


 震える手で完成させた魔法陣の書かれた大きな紙を手渡すと、精一杯の笑顔を作った。だけど後から後から涙が零れてまた顔を歪めてしまう。


「この魔法陣で私を呼んで。何度生まれ変わっても、何度忘れても、必ず私はヴァンゲンハイムの子達のために動くから。誰も泣かないように、誰も傷つかないように。必ず私を呼んで······お願い!ニクラス様」



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