13ー3 二代目『贄の魔女』ローザ 3
ニクラス様は、国王様の甥に当たる高貴な方だという。現在は伯爵位を賜っているが、領地は持っていないらしい。
「名目だけだよ。俺は数少ない王家筋の魔法使いだから。爵位と同時にヴァンゲンハイムの家名を賜ったから、今はただの一代貴族に過ぎない」
自嘲気味に喋りながら、ニクラス様は私に地図と魔法陣が記載された本を見せた。
「この地図だと、今は仮の王城があるのがここだ。これから数年かけて、こちらに本物の城が建設される」
指差しながらニクラス様は説明し、私は頷いた。
「だから、城を中心に王都の守りを固めようと思う。大きな対魔結界を王都に張れたらと思うんだが、魔法使いが今はどんどん減少していて、恐らく後世まで残せない」
「減ってるの?魔法使い。なんで?」
「こら、ローザ!敬語!······知らん。高い魔力を持った子供がどの地方も生まれなくなったらしい。お前のような若い魔女も今は貴重な存在だ」
「魔女が貴重······そもそも嫌われてる存在だからいらないんじゃない····いらないと思いますが」
「何を馬鹿な。魔女程多種多様な魔法を知っている者はいない。お前に会えて俺は幸運だった」
珍しく口角を上げるニクラス様は、魔女の存在を否定しないでいてくれた。それだけなのに、私は嬉しくなって、ほんの少し目が潤んだ。
魔女の存在を否定しない人を、初めて見たからだろう。
「その本の絵······」
「ああ、魔法陣だ。ローザは魔術は知っているか?俺の先祖の魔法使いが魔法を古語を使って文字化することに成功してな、魔法使い程の魔力が無くとも魔法のように魔力を使うことが出来るんだ」
「さすが、ニクラス様のご先祖。あんな妖精の映像を文体化するって研究熱心ですね。その絵、召喚魔法の時に出る模様に似てますね」
「······召喚ま····お前、召喚魔法まで知ってるのか」
目を開いてニクラス様は私を見た。知っているというか、実体験をしたというか、初の召喚魔法で私は生け贄になったのだ。
「うん······じゃない、ハイ。私ね。生け贄にされたんですよ、ニクラス様。ちなみに私の二つ名は『贄』です。『贄の魔女』」
「なんだそれは。よく生きていたな」
「まあ、それは前世の話なので」
「ぜ······っ?!なんか今すごい事言わなかったか?」
「忘れてください。で、その召喚魔法の模様が魔法陣になったんですか?·····ああ、違う······中を少し書き換えてる········ふーん、よくこんなの思いつきましたね。凄いなあ」
ニクラス様が見せてくれた大きな分厚い本には、円状の複雑な紋様の図に古語で書かれた構築式といわれるものびっしりと書き込まれていた。
「お、お前。まさかこれを見ただけで魔術の原理がわかったとか言わないよな······?」
「難しい事は頭悪いのでわかんないですよ。うーん。召喚魔法をベースに使って、中の召喚対象を変えて呼び出すのが魔法陣ってことですか?火ならこの文字を火に変えて、水なら水に書き換える」
「合ってる······」
「なら、対魔結界も魔法陣で呼び出しちゃえばいいんですよぉ」
ヘラヘラと笑い両手をアホみたいにぷらぷら振って話していると、ニクラス様は私を見ながらふう、とため息をついた。
「······お前、本当は凄い天才なのか?それとも突き抜けた只の馬鹿か?どちらにしても、今は新しく魔法陣がかけないんだ。これ、文字が古語だろう?しかも結界魔法の内容なんか今の魔法使いじゃ理解出来ないからそもそも文体化出来ないんだよ」
「私出来ますよ。結界魔法。対魔結界を呼び出す文体をここに古語で書けばいいんですか?」
「古語を······かけるのか?」
「書けますよぉ。教えて貰ったんです。前世で」
「本当に······何者なんだよ、お前」
「ローザですっ!王城でニクラス様の下で働く魔法使いです!お給金貰えるので働くのは好きです!」
元気よく手を挙げて答えると、ニクラス様は更に深いため息を洩らして顔を伏せた。
「まったく······ローザ······あのな、お前、俺の専属の魔法使いにならないか······?見てて危なっかしいっていうか、対人間同士だと社会慣れしてなさすぎて不安になる。それだけの魔法種を使いこなしているのに警戒心が薄いっていうか。子供が爆弾持って遊んでるみたいだ。他の魔法使いに悪用されかねないぞ?」
「······ニクラス様は私が邪魔じゃないのですか」
「そんな訳あるか。お前程の魔法使い、今はそうそういないぞ?俺にはお前が必要だローザ。俺の専属になれ。ちゃんと、社会のことも教えてやるから。敬語もな。お前は魔法のことを俺に教えてくれ」
ニクラス様の言葉に他意はない、それはわかってる。だけど······
いらないと言われ続けた私に、出ていけと言われ続けた私に、彼は言ったのだ。
誰も言ってくれなかった、たった一言を。
生まれて初めての言葉に、気がついたら涙が頬を伝っていた。
「······っ······あなたに····仕えます」
「お、おいっ!なんで泣いているんだよ······っ」
「この命が尽きるまで、私はあなたに仕えます······あなたが私を必要としてくれるなら、私はいつでもあなたの為に······ニクラス・ヴァンゲンハイム様」




