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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第12章 ラルヴァ
112/139

12ー8

 


 なんて甘いのだろう。花の蜜のようだ。


 ほんの少し、触れただけの唇と唇。


 離れてしまうと、途端に寂しくなって、また少しだけ首を伸ばして頬にキスを落とした。


「ティ······ティアナ?!」

「はあ·····もっと欲しい········」


 とくとくと、高鳴る胸が切ない。もっと触れたいのに。もっと声が聞きたいのに。


「なななな······欲しいって····っ!」

「ハインリヒ様······」

「う······ノエル!!ティアナは何か変な幻覚を見ているのか?!」


 ノエルの視線を感じた。何でかな、お腹空いたのかな。でも今はハインリヒ様を見ていたいの。


「········いや、ちゃんとお前が見えてるよ。花が降ってるような幻覚は多少見てる。でも今のティアナには寧ろお前しか見えてない」


「さ······催淫効果でもあったのかラルヴァには」


「そうかもね。でもおかげでティアナには今余計な考えが無くなっているんだよ。人間としてのしがらみや、魔女としての運命や責務も消え失せてる」

「·······じゃあ、ティアナは······」

「本能と本音だけしか見えない·······良かったね。完全にお前はつがいの雄として求められてる」

「つ······つがい?!?!」

「何を驚いているんだよ。お前はティアナをつがいにしたがっていただろう?」

「つがいって·······!!」

「僕もう行くよ。つがいになる様を見られるのは嫌だと魔女は決まって言うから」

「······おい!ノエル!」



 ノエルと話をしていたハインリヒ様はゆっくりと視線を私に移した。


 そんな困った顔しないで·······


「ハインリヒ様·······ハインリヒ様······」

「ティアナ、俺がわかるか?大丈夫か?」

「わかる······私の········大好きな人·····」

「········!!」

「キスを、してください·······」

「うっ·······!待て、ティアナは今素面じゃないんだ·····落ち着け俺······」


 ハインリヒ様が、白いお顔を赤く染めて声を荒げている。私に触れてくれない。こんなにお願いしてるのに。


 悲しくて、ホロリと涙が出た。


「ハインリヒ様が、私にキスしてくれない······触ってくれない······」

「え?!いや、だからな、お前は今······」

「私の事が嫌いなんだ········」

「ち、違うぞ?!俺はティアナが大好きで·····!」

「悲しい······ひっく·····うぇ·····っ」


 後から後から涙が溢れ出し、止めることが出来ない。


「······!俺のせいか·····?ああ、もう······っ」


 離れていた顔と顔が、緩やかに距離を縮めた。


 私の頬を長い指が滑り、少しばかり震えていた大きな手を、私の頬と手のひらの熱で挟むと、嬉しくなって笑った。


 静かに覆い被さる花の(かんばせ)が、鼻と鼻が触れる距離でやっと瞼を落とすと、私もそっと瞳を閉じた。


 ほんの少し、唇と唇がくっついて、またすぐ触れた。角度を少しだけ変えて、また触れるとさっきよりもハインリヒ様の熱を感じて、甘い吐息がだんだんと早く浅くなり、口づけはどんどん深くなった。


「······は·····ティアナ······っ」


「······ハインリヒ様······嬉しい······」


 口づけか交わされる程に、吐息は乱れ、絡まる舌に2人の唾液か混じり合い、口元から垂れ胸元に落ちた。


 ほんの少し目を開けると、同じようにうっすらと目を開けたハインリヒ様と視線が交わった。


 瞳は潤んでいて、目元が薔薇色に染まっている。


「·····ん·····はぁ····っ」


「ティアナ······!ああ、好きだ······大好きだ」


 手と手が繋がれ、指と指が絡まり、また深く口づけが交わされた。


 呼吸をしようと、唇を離すと、またすぐに彼の唇が追いかけてくる。


 甘くて、苦しくて、切なくて、愛しい。


 私は、こんなにもあなたが好きだったのね。


 どうしてずっと遠ざけてたのかな

 何でずっと拒んでいたのかな


 2人の熱が重なると、こんなにも満たされるのに

 私はこんなにも欲していたのに


「ハインリヒ様······私·····私······」

「わかってる······俺も愛してる·······」

「眠い··········」

「あ······え?」



 曖昧になる現実と夢。


 目の前の幸せが嘘か信かわからぬまま、私の意識は闇に落ちた。



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