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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第12章 ラルヴァ
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12-7

 


「ティアナ!大丈夫か?!」

「ハインリヒ様!」


 ラルヴァは、未だキーキー小さく鳴きながら墓場の隅に疼くまっていたが、ハインリヒ様は私の元にかけより無事を確認してから、またラルヴァに視線を向けた。


「おかしいな······まともに光の魔法陣を浴びてまだ動いて······ティアナ···!もしかして、お前、噛まれたか?!」



「う······わかんない····です。でも、なんかチクってした·····!」


「········!くそ。しばらく幻覚をみるかも知れない······!ユニコーンの角を出せ。あとノエルを呼べるか?」


「はい······」


 ハインリヒ様は、焦っているように見えたが、私は別に具合が悪い訳じゃない。ノエルを呼ぶと、私を見下ろすように彼は宙に現れた。


「·······ちっ」


 現れて早々ノエルは舌打ちをして、ゆっくりと辺りに視線を向け、ラルヴァを捉えた。


「目障りだ」


 ボソリと呟くとラルヴァの身体は破裂し、粒子となって消えた。


「ノエル······私、大丈夫かな」

「······腕出して」


 制服の腕部分を捲ると、針で刺したような赤い咬み後が2つ見て取れたが、ノエルは無表情のままその腕に咬みついた。


「いだいいだいっ!ノエル!痛い!」


 ノエルが顔を上げるとさっきよりも深い咬み後が腕に残り、ノエルの唇は私の血で赤く染まっていた。


「ユニコーンの角。早く舐めて」

「え?ああ、うん」


 ユニコーンの角を舐めると、傷はゆるゆると塞がり、次第に跡形も無くなった。



「すまない、ティアナ」

「ハインリヒ様が謝ることじゃないです。あんなすばしっこいのに。でも、聖水効かなかったのかなあ」


 血がついた唇をペロリと舐めたノエルはふん、と鼻を鳴らした。


「ティアナはそんないい匂いさせているんだからあいつらにはご馳走以外何でもないよ。聖水で火傷しようが毒を食らおうがそれ以上に、食べる価値が君にはあるんだ」

「う、そんなんだ。ごめん、ノエル」

「早く呼べっていつも言ってるのに。あんな生き物のマーキング痕なんかつけられて。不快だよ」

「すみません、ノエルさん」


 ハインリヒ様も、じっと私の腕を見ながらノエルに問いかけた。


「すまない。俺がいたのに·······ノエル、ティアナは大丈夫だろうか?」


「吸えるものは吸って消した。魂も綺麗なままだし、寿命にも影響はない。だけど、僕を呼ぶのが遅いから血が巡ってしまった。少なからず幻覚は見ると思う」


「幻覚······」


「アイツひ弱な癖に体液に人間の精神を揺さぶる作用があった。夜の夢にも影響があるかもね」


 不機嫌なノエルを見ながらこんな状況にも関わらず気になっていたことを聞いてみた。


「ねえ、ノエル。ラルヴァって結局悪魔の幼体じゃないの?」

「知らない」

「ノエルの小さい頃はあんなだったの?」

「僕は僕が存在した(できた)時から僕のままだ」


 ノエルはラルヴァが私に咬みついたのが、よっぽど気にくわなかったのだろう。ユニコーンの時とはまるで違って不機嫌さを顕にしていた。


「アイツ、美味しくて綺麗な僕の魔女に余計なものを入れた。僕の魔女に勝手にマーキングした。消さずに焔で永遠に焼いてやればよかった」


 ノエルはブスっとしたまま私を抱き抱えてからハインリヒ様をちらりと見た。


「早く移動したほうがいい。ティアナにいつ幻覚が始まるかわからないんだ」

「········!わかった。直ぐに屋敷に戻ろう」


 私達は3人で屋敷の私の部屋に転移した。


 自室を見るなり安堵した私は、とりあえずローブとブレザーを脱いでハンガーにかけていると、身体がどくん·····と大きく揺さぶられるように鼓動を強め、思わずその場に膝をついてしまった。


「······っ!」

「ティアナ?どうした?」


 どくん、どくんと心臓がうるさい。それなのに頭がだんだんと霞がかり、ぼーとする。


「ティアナ?おい、大丈夫か?とりあえずベッドに運ぶぞ」


 抱き抱えてくれたハインリヒ様からふわりと彼の匂いがした。私の大好きな匂い。私の大好きな······


 ベッドに降ろされるとふわりと雲の上に乗っているような心地がして、身体が溶けるような感覚を覚えた。


「ティアナ?おい、しっかりしろ」

「ハインリヒ様········」


 真っ白な空間の中に花が降っているように見えた。おかしいな。花の幻影魔法なんか使っていないのに。


 長い美しい絹のような髪の上に舞い散るように薄紅色の小さな花弁がひらひらと落ちるのが見えた。


 私がハインリヒ様に朝着けたリボンと同じ色。


 そっと手を伸ばして、ハインリヒ様の頬を撫でると彼の頬もまた薄紅色にふんわりと染まり、濃紺の瞳を見つめると、彼の目には私しか写っていなかった。


「嬉しい·······」


 今、彼の目には私しかいない。私にはハインリヒ様しか見えない。


 過去も未来も立場も関係ない。

 私が誰かなんて、何をしてきたかなんでどうでもいい。


「ティアナ·····お前、どうした······?」


 ふわふわと揺れるアイスブルーの雪のような長い睫毛が酷く愛しい。真っ白な肌に映える赤い形の良い唇が私の名を紡いでくれた。


 恋しい、愛しい。


「ティアナ?」


 片腕をついて少しだけ起き上がり、首を伸ばすと触っていた美しいお顔が目の前に広がって私は嬉しくて微笑んだ。


「大好きです、ハインリヒ様」


 赤い赤い唇に、私は自分の唇を重ねた。



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