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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第12章 ラルヴァ
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12-6

 


 私が対処に絶対同行すると言い張ると、ハインリヒ様は準備するものがあるからと言って依頼の2日後の夜に現地に行くことになった。


 当日の通常勤務後、別棟の転移門に行く前に命じられたのは、教会から頂いた聖水を体中に塗りたくることだった。


 ラルヴァにとって聖水は毒に等しい。私の血や魔力を奪われない為の策ではあったが、一般の人間ならともかく、私の魔力はどうしたって魔物を惹き付けるので聖水ぐらいでむこうが諦めるかはわからないとハインリヒ様は言った。


 魔術庁のシャワー室で体中に聖水を塗ったが、春とはいえ水を体に塗って温まる訳がない。くしゃみをしながら執務室にもどると、ハインリヒ様は既に自身に聖水を塗り終えられて執務机で書類仕事をしながら待っていた。


「体に全部塗れたか?」

「濡れしました······イッキシ!!」


 鼻水を垂らす私を笑いながら、ハインリヒ様は両耳のエンブレムキーのロックをかけてくださったが、そのまま耳朶を指で弄び始めた。


「ハインリヒ様?」

「············」

 触っていた耳朶を、エンブレムキーのピアスごと口に含まれたくちゅ······と音が脳内に反響した。


「ハインリヒ様?!」


 口を離すとそのまま頬に突然ちゅっ······っと軽いキスを落とした。


「すまないな。夜の聖水は寒いかも知れないが、少しでもラルヴァのお前への興味を削がないと」


「······えと····あの······いま、耳が······ほっぺたが······!!」


「うん?耳がどうした?ほっぺたが、何?」


 片眉を上げて笑うハインリヒ様を見ながら、私の顔面温度は一気に上昇し始めた。


「あう······」


「ふふ、これは個人的な魔除けだよ。さて、別棟に行くか。気を引き締めろよ」

「え?あ、ハイ!」


 仕事モードに入ったハインリヒ様はローブを翻し、ローファーの踵を鳴らして足早に別棟に向かい、未だ顔の火照りが取れない私は口をぎゅうっと一文字に結んだまま彼の後を小走りで追いかけた。



 カルナ地方の小さな町に降り立った私達は、現地でラルヴァの目撃者が多い墓地に来ていた。


 夜の墓地だなんて、その状況だけで怖いのにさらに吸血鬼の幼体だなんてホラーそのものだ。


 点々と見える白い墓石が闇夜にぼんやりと見え、私の酷く恐怖感を煽る。


「うう~、なにこれ怖すぎる~」


 下弦の月がほっそりと空から白い光を落とし、私はハインリヒ様の背にびったりとくっついてローブの端を握りしめていると、ハインリヒ様は優しく笑いながら質問してきた。


「さて、じゃあラルヴァについて覚えたことを言ってみろ」


 ここに来る2日間の間に教本と『魔物大図鑑』を調べろと言われていた私は頑張って覚えた記憶の引き出しを開けた。


「えっと······ラルヴァは吸血鬼の幼体と言われてて、吸血鬼程の催眠や吸血行動はないけど、相手に楽しいものや好きなもなのの幻覚を見せる力が強くて······幻覚を見せた隙に魔力を食べます。で、動き回るのは夜です。昼は苦手」


「そうだ。魔力を中心に吸われるが突然吸血行動にでることもあるから注意しろ。そのために、わざわざ教会から聖水を取り寄せたんだ。昔は悪魔の幼体と言われていたが、悪魔は召喚魔法も無くこんな簡単に姿を現さないからな」


「あ、確かに。ノエルが来た時は力の強い魔法使いが数人がかりで召喚魔法発動してましたし。召喚するものの中で一番難しいって前世で教えてもらいました。それなのにノエルったら『うるさいね』って言って、召喚者全員消しちゃったんですよ」


「そ········それは、まあ今は置いといて。属性と対処法は?」


「ラルヴァは闇属性の魔物です!だから光の魔法陣で対処しします」


「うん、そうだ。ちゃんと覚えられたな」



 ハインリヒ様は辺りにゆっくりと視線を向けながら墓地の中を歩き始めた。


「うー、怖いぃ」


「ティアナは暗闇や墓場みたいな典型的な場所を怖がる癖があるよな。レプラコーンの洞窟も怖がっていたし。魔術師が暗闇を怖がったら仕事にならないぞ」


「怖いものは怖いです!魔術師はどうせ試験に落ちますもん。早くメイドでの採用してくださいよ」


「ダメだ。メイドにはしないとずっと言っているだろう」


「うう、私失業しちゃう········」


「失業はしないよ。お前はそのまま俺の妻になるんだから。むしろ働かなくてもいい」


「··········なんですと?」


 私がハインリヒ様を見上げた瞬間、シュ······シュ········と空を切る音が聞こえた。


 墓石の間を何か動き回っている者がいる。


 即座にハインリヒ様が戦闘態勢に入り、その瞬間私は彼のローブから手を離し大きく3歩下がり銀の剣を抜刀した。


 ハインリヒ様の両手からそれぞれ大きな魔法陣が展開され、構築式が青白く光を放つと同時に、また、シュ·····と音がし片手を翳すとすぐさま目も眩む程の眩い光があたりを包むとキイイ!と悲鳴にも似た甲高い声が聞こえた。


 捉えた、と私が思っていると、光が落ち着くにつれ黒い物体がもぞもぞと視界の端で動いた。


 シュ······とまた音がし、さっきまで物体が蠢いていた位置には何もいなくなった。


「きゃああああ!!」

「ティアナ!」


 いつの間にか私の腕にぶら下がっていたラルヴァは、全身黒くて顔がしわくちゃの老人の様だ。お腹だけが妙に膨らんでいる手足がガリガリで、体調は60センチというところか。


 剣を持つ方の腕に鉄棒にぶら下がるように掴まっており、剣が振れなくなった私はギャーギャーわめき必死に腕を振るとチクりと痛みを感じた。


 すぐさまハインリヒ様が先程とは反対の手の魔法陣を発動すると先程より大きな光が辺りを包み、キイイ!と高音の奇声が墓場中に響き渡った。



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