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まだ真新しい制服に身を包んだ男性事務官が依頼書を持ってハインリヒ様の執務室に来たが、彼は嬉しそうに私達に挨拶をしながら書類を手渡した。
思わず、何故そんなに嬉しそうなのか聞くと彼はハキハキと答えた。
「ヴァンゲンハイム様はとにかく女性事務官に人気なんです。だから執務室へのお届けは男性に限定されているんですよ。喧嘩になるらしくて。執務室に行った男性職員は、必ず女性職員に今日のヴァンゲンハイム様がどんな様子だったか聞かれるんです。僕にとっては女性とたくさんお話するチャンスなんです!」
確かにこの部屋に女性事務官が来たのを見たことがない。
頭を90度に下げて彼は部屋を出ていったが、ハインリヒ様の女性に人気を改めて知ることとなった。
「モテると思っていましたが、ここまでだったとは。ハインリヒ様を巡って争いまで起きてたんですね」
私が頬に手を当て呟くと彼は頬杖をついたまま鼻で笑った。
「フン·······意味ないだろ、そんなの。好きな女がまるで俺に振り向いてくれないなら、この容姿に価値なんかない」
「私はあなたの容姿を守るためならなんだってするつもりでしたが」
自嘲気味に話していた彼は、私を見上げ指をきゅっと握り首を傾いだ。
「·····『でした』?もう、俺を守る気はないのか?」
「守りますよ。あなたの全てを。私の命をかけて」
「欲しいのは命じゃなくて心だよ·····お前がいくら俺を見てくれなくても、俺はお前を離すつもりはないからな。覚えておいて」
「·······っ」
真っ直ぐに射貫く瞳から私は目を反らしたが、指先に僅かに彼の唇の柔らかさを感じ、私はぎゅっと目を閉じた。
ハインリヒ様は最近、牽制するかのような言葉と態度をとる時がある。まるで見透かされているみたいな気分になる。
指からハインリヒ様の手がやっと離れたが心臓がトクトクと鼓動を早めていた。
「い······依頼書は、何だったんですか?これからすぐに向かいますか?」
話を仕事に切り替えるとハインリヒ様はやっと視線を私から外した。
「いや、すぐではないんだが·······今回は俺一人でいこうかな」
「ええっ?!いくら、私が不出来な弟子でも、置いていくなんて酷いです!」
「いや、そうじゃなくて·······」
ハインリヒ様は困ったように再度依頼書を見てから、私に黙って渡してきたので私も依頼書の中身を一読する。
「ほうほう、カルナ地方で男女合わせてが10人被害に合っていると······幻覚と催眠が得意······読心と吸血行動も···········吸血鬼の幼体??」
「お前みたいな魔女の魔力や血を吸われたら威力が上がる。今回は辞めたほうがいいんじゃないか·········?」
「嫌!行きます!」
「ユニコーンの時もそうだけど、お前って辞めろって言われるとやりたくなるんだな」
はあ、とため息を漏らしながらハインリヒ様は依頼書を片付けた。
ハインリヒ様が行かれるのであればなるべく共に戦いたい。少しでも役にたちたいから。
「モテモテのあなたは私がガードしてあげますよ!ハインリヒ様!どんな女が来ようとも、私が守ってあげますからね!」
「······相手は吸血鬼の幼体なんだけど」
久しぶりにやる気に燃えた私は、日頃のストレスやモヤモヤをこの魔物に向けてやろうと、ぐっと拳を握った。




