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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第12章 ラルヴァ
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12-3 sideハインリヒ

 


 ティアナと仮の恋人関係を築いてから数日経ち、どうしたら彼女の思考を俺に向けられるか悩んでいると師匠から転送魔法陣で手紙が届いた。


 魔術師間だけで行われるこの転送術は転移門の簡易版で、有機物のやり取りは出来ないが無機物のやり取りは魔法陣のみで行われる。


『大事な話がある。王都に向かうので、都合のいい日時を指定してくれ。』

 と書かれた手紙を見ながら、俺は憮然としていた。


 師匠のティアナへの執着が、会う度に増している気がするのだ。彼女にそのつもりが無くとも、師匠のほうはエレオノーラの前世を持つティアナに違う感情を持っているのではと、疑ってしまう


 翌日の夕食前に師匠は屋敷にいらっしゃった。ティアナには話していない。師匠が、屋敷に行くことは秘密にしてくれと言ったからだ。



「すまないな、急に訪問して」

「いえ。如何しましたか?もしや、『鈴蘭』の件でしょうか」


 年明け前に捕まえた『鈴蘭』という名の反政府組織については未だ公の罰は下っていなかった。


「いや、あれは思ったより根深い。最早魔術庁だけで終わらないよ。シュトライヒ公爵が頭を痛めている。もう少し時間がかかりそうだから、僕も色々と計算しなおさなければならないんだ。それよりも、僕が今日来たのはティアナのためだ」


 この一言で俺の中で何かスイッチが入った。いい加減彼女を構うのはやめてほしい。


「師匠·······言いたくないですが、あんまり若い女性ばかりにかまけていると········」


「グズグズしていると、ティアナの方が先に思い出して決断を下してしまうからな。そろそろ急がないと行けない」


「·········何の話ですか·······?」


「彼女は、かつての魔女の記憶がだんだんと甦っているのだろう?どこまで夢で見てるか、おまえは確認したか?」


「··········いえ。その必要が?」


「あるね。エレオノーラが寿命と引き換えにノエルと契約したから、いつ記憶が戻るかはわからなかった。それが何のためか、目的が何か、お前はティアナやノエルから聞いているか?」


「契約の話はノエルから··········ティアナの代を、もって『審判の魔術師』からヴァンゲンハイム家を解放するだろうと」


「まさにそれだ。彼女の魂は転生を繰り返しながら、何度もヴァンゲンハイム家を『審判の魔術師』を解放すべくずっと一人で動き回っていたんだよ。我々の知らないところでね。それを打ち明けられたのは9代目のエレオノーラが逝去する1年半前だ」


 髪を掻き挙げ句ながら頭の中は疑問符でいっぱいになる。


「───·····どういうこですか?」


「これからお前にも関わってくる。一から説明しよう。これは私の主観だが········全てが終了した暁には、十中八九彼女はヴァンゲンハイム家と縁を切ろうとするだろう」


「··········冗談でしょう?········」


 頭がグラグラする。ティアナが、俺のティアナが、この家を離れる?彼女が居なくなる?



「落ち着け、ハインリヒ。ティアナはまだ全てを思い出していないのなら、今からでも充分間に合う。僕の宿題が完了しなければ、彼女は最後の一歩は踏み出せないはずだ」


「どうして········宿題ってなんの·······」


「彼女が大事なら、腹をくくってもらうぞハインリヒ。こちらの出方如何で、我々ヴァンゲンハイム家は永遠に『贄の魔女』を失うことになるんだ。それだけは何としても止めたいんだ」


「······何故ですか?彼女を利用するため?」


「······エレオノーラを永遠に愛しているからだよ」


「────·····それはつまり········」


「安心しろ。今世の彼女をお前から取り上げるつもりはない。二人が結ばれるのであれば僕は心から祝福するよ」


 師匠は眉を下げて笑った。いつもの敵を仕留める獣の気迫はそこにはなかった。目尻の皺に刻まれたのは、月日と彼女を思う優しさだけに見えた。



「·········師匠?」


「むしろ、お前には意地でもティアナと一緒になって貰わねばならん。それこそ首に縄をつけてでもな」


「縄って·······」


「さて、そろそろ本題に入ろう。お前には一番動いて貰わなければならないからな」


 師匠の口元は、消えたはずのしたたかな笑みをたたえていた。



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