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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第11章 贄の魔女 【2】
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11ー10 十代目『贄の魔女』ティアナ 10

 


 翌朝、私は気が付くと自室のベッドに寝ていた。


 ハインリヒ様もノエルも既に近くにはいなかった。目を擦りながらシャワーを浴びに行き、まだ日が登る前だけど登庁用の制服に着替え、ブレザーだけは椅子に掛けておいた。


 魔術庁の制服は、昨日着たまま寝ていたけど皺にもならずにきちんとハンガーにかけられていた。ハインリヒ様かノエルが、気を遣って着替えさせてくれたのだろう。


 お腹が空いた私は、そのまま食料庫に向かった。保管庫からリンゴを失敬し、食料簿使用欄に「リンゴ×1、ティアナ」と書いた。


 ここに来たとき、フォルカーさんにメニューの材料は毎日管理しているから、食料庫から食材を持っていくならちゃんと知らせてくれと頼まれていた。


 ヴァンゲンハイム家に住んでもうすぐ9ヶ月が経つ。家人の皆ともだいぶ仲が良くなった。これならいつ弟子を止めてもメイドとして働けそうだ。


 リンゴをシャリシャリと口に含んだまま、外の空気を吸いたくてニットを羽織り石畳の庭に出た。


「わあ、寒ーい」


 空はたった今明けたばかりで、紫がかっていて朝日がやっと光を放ち始めたところだった。空気は冷たいがとても澄んでいて、深呼吸すると背筋がシャキッと真っ直ぐになった。


「今日も楽しく過ごしたいな」


 白い息のまま、一人で呟いていたら

「魔女、見~つけタ!」

 と可愛らしい声が聞こえた。下を見ると、プランターの葉に小さな生物がくるくると踊りながら飛んでいた。


「おはよう!魔女だってよくわかったね。あなたは何の妖精?」

「氷だヨ!霜、降らせタ。綺麗!綺麗!」


 陽気な妖精に私はくすりと笑う。


 氷の妖精が動く度に、キラキラと小さな氷が草葉について、まるで小さな宝石が散りばめられたみたいに見え、思わず 「なんて綺麗」 と口から漏れてしまう。


 私も一緒に氷の魔法を使うと、小さな氷の塊がキラキラと光り、形を変えてウサギになった。氷のウサギは石畳の地面をピョンピョン跳ね回る。


「魔女の魔力、イイ匂いだね」


 フワフワと浮きながら私に近づき、妖精はうっとり呟いた。


「おはよう、ティアナ」


 人の声に驚いて、妖精はあっという間に姿を消した。振り返ると、ハインリヒ様が室内着にガウンを羽織って庭に来ていた。


「いまの、もしかして妖精か?少しだけど初めて見たよ」

「あ、見えましたか?はい。氷の妖精だそうです。ほら」


 氷のウサギをハインリヒ様の足元まで、ピョンピョン向かわせると、ウサギはその場でダンスを躍り、お辞儀した。


「はは、元気なウサギだ。······キレイだな」

「はい。氷の魔法はとても綺麗です。日の光が反射して余計輝いて見えます」

「ああ、そうか」

「今日も朝日が綺麗ですね。ハインリヒ様」

「······ティアナの目には、この世界はどんな風に見えている?」


 ハインリヒ様は、ゆっくり昇る朝日を見ながら静かに言った。


「この世界······ですか?綺麗に見えますよ。昔から空は青いし、太陽は輝くし、夜空には星が瞬きます。鳥は囀ずるし、妖精は笑います。変化はしても根源は変わらない。魔法と同じですね、元は1つ。それでもまた別々の輝きを放って、一瞬で違う物になるんです。儚くも美しいです、だから輝いて見えます」


「お前は意外と詩的なんだな。······ティアナに出会えて良かった。俺にも今日は、世界が輝いて見えている」


「それは良かったです。そういって貰えると私も嬉しいです」


 ニコニコと笑う私に、ハインリヒ様もフッと笑みを洩らした。


「·······次は、必ず俺が『審判』を行う」

「無理される必要はないんですよ、ハインリヒ様」

「無理などしてない。でも、やっぱりお前に隣にいて欲しい」

「勿論ですよ。私はあなたの弟子だから。いつだって一緒です」

「·······ふふ。魔女なのに、弟子ね」


 ハインリヒ様はくすくすと笑うので私もヘラりと笑い返した。


「じゃあ今日も楽しく生きていきましょう?」

「楽しく?」

「私の今世のモットーです!楽しく、面白おかしく生きたいのですよ」

「楽しく、はともかく、面白おかしくはどうなんだ?」

「前世で死ぬほど泣いてますから、今世ぐらい笑って生きたいじゃないですか。知ってます?人生は笑ったもの勝ちなんです。今世、私は死ぬ間際に、何度も笑った記憶を思い出しながら死ねるんですよ」

「·······そうだな。お前なら、楽しく生きれそうだ」


 笑っていたのも束の間、風か吹き初めて私は両手で腕を掴んでぶるっと震えた。


 冷えるからそろそろ屋敷に戻ろうと、ハインリヒ様がドアの方に促した時、さらりと揺れる髪を見ながら私は言った。


「あ、そうだ。ハインリヒ様。お願いがあるんですけど朝、お(ぐし)を梳かすの、私にやらせてもらえません?」

「髪?······何で?」

「あなたの髪キレイだなってずっと思ってて。キレイだと、毎日触りたいって思うじゃないですか」


 ハインリヒ様の白いお顔が一気にブワッと赤く染まる。


「ば······バカか!お前は!」

「馬鹿なのは認めます。教本の暗記したところまた忘れちゃったし」

「·····一週間かけて教えたのに······?」

「うーん。魔術って変に難しいですね!」

「変なのはお前の方だよ。じゃあ、家人達がいる前でならやらせてもいい。お前は何をしでかすか分からないから」

「じゃあ、朝食後のダイニングで。·······やっぱりハインリヒ様のお部屋に伺ってやったほうが良くないですか?」

「俺の部屋に勝手に入るな。人の目のあるところでやれ」

「はぁい。·······夜は?」

「夜はダメ。教本勉強して早く寝ろ」


 ハインリヒ様に手を引かれ室内に入りながら、目の前の絹のような流れる髪を見つめ、キレイな髪のハインリヒ様には、キレイなリボンを着けて飾ってみたいな、と密かに企みながら私は部屋に戻った。



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