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事例01-6 被告:仁科 飛鳥

―――――――――――――――――――――――――――――


冒険者紛争調停 申立受理通知


ダンジョン管理庁 東京都北区ダンジョン管理局 地方調停所


相手方(被告)

氏名:仁科 飛鳥 様


【件名】冒険者紛争調停 申立受理および出頭要請のお知らせ


このたび、

あなたを相手方(被告)とする冒険者紛争調停の申立て が、

申立人(原告)より提出され、

本日付で正式に 受理 されました。


本件は、

 冒険者契約法

 ダンジョン探索規律法

 能力者管理法

に基づき、地方調停官が調停手続を行います。


事件番号:R20-131172-03号

担当調停官:一ノ瀬 理人(0384号)


―――――――――――――――――――――――――――――


「まずは基本的な確認から始めます。あなたの氏名、帰属する管理局、所属パーティ、冒険者のランク、登録能力を教えて下さい」

「……はい。名前は仁科 飛鳥(にしなあすか)、北区のダンジョン管理局に所属するランクDで、パーティは『鳳』です。剣術の能力です」


 飛鳥(あすか)が答える。しかしどこか気落ちした様子で縮こまった彼女は、理人(りひと)を見下せるほどの、その女性にしては大柄な体躯とは裏腹に幼き少女のように小さく見えた。


「能力分類番号Ⅰ-A-02の戦闘技術超越ですね。ありがとうございます。では今回の申立内容について書面でも通知いたしましたが、改めてご説明いたします」


 理人(りひと)はこれまでと同じく、本件が協力義務不履行というパーティ解消理由に対して、継続的に支援魔法をかけていたと主張、不当として申し立てが行われた旨を説明する。


「この主張に対する仁科さん、あなたの主張をお聞かせください」

「は、はい。……えっと、よくわからないんですけど、翔真(しょうま)から支援魔法をかけられていた覚えはないです」

「つまり、井上さんの主張は誤っているということですね」

「え? あ、その。誤っているとかはちょっとわからない、です」


 飛鳥(あすか)が目を泳がせる。まるで彼女の内に広がる不安が目に見えるようだった。


「仁科さん落ち着いてください。虚偽の申告を行った場合に罰則が科される旨をご説明いたしましたが、それがあなた自身の認識として正しい場合、つまり誤解では当てはまりません。あなたの主観で答えていただければ良いのです」

「は、はい。その、すみません。……わかりました」


 理人(りひと)飛鳥(あすか)に飲み物を勧める。勧められるがままに飛鳥(あすか)は湯呑みに右手を伸ばす。動き始めにかすかに硬直し、自らの左肩へと視線を向ける。それはほんの一瞬の出来事だった。彼女は手に取った湯呑みを傾け、中身を軽く口に含む。彼女の様子は僅かではあるものの落ち着きを取り戻していた。


「改めてお聞きします。仁科さん、あなたの認識では『継続的に支援魔法をかけていた』という井上さんの主張は誤りである、ということでよろしいですか」

「はい、そのとおりです。あ、いや、まったくそのとおりというわけでもなくて、その、最初はちゃんと支援、受けてました」

「最初というのは?」

「その、パーティを組んで初めての探索のとき、です」

「パーティを組んで1回目の探索のとき、ということですね」


 飛鳥(あすか)が首肯する。彼女もまた、明確な身体能力の向上を経験したとのことだった。


「2回目以降の探索ではどうでしたか」

「その、翔真(しょうま)が使ってたところを見た覚えはないです。でも私、前で戦ってるし、あまり周りが見えてないって雲雀(ひばり)にもよく言われてて」

「確証は無い、ということですね」

「はい」

「しかし、初回では身体能力が向上した感覚があったのですよね。それはなかったのですか?」

「あ、そっか。うん、それも多分なかったです」


 理人(りひと)はメモを取る。やはり彼女もまた、翔真(しょうま)が支援魔法を使っていたことを否定した。これで被告の3人が揃って否定したことになる。もちろん第3者で無い以上、数にあまり意味はない。しかしながら、三者三様の証言内容で大筋が一致したということの意義は大きい。むしろ完全一致していたほうが口裏合わせが行われた可能性が高く、信憑性は下がっていただろう。


「痛っ」


 飛鳥(あすか)が左肩を抑え、顔を歪める。傷が引きつったか何かに過ぎず、痛みは一瞬だったのだろう、肩を抑え続けながらも彼女の顔はすでに平静を取り戻していた。


「傷は重いのですか」

「あ、いえ。私のはちょっと痛むぐらいで、痕も残らないそうです」

「よろしければ傷を負った経緯を伺っても?」

「え? それって関係ありますか?」


 飛鳥(あすか)がきょとんとした顔で尋ねる。


「それはわかりません。それを判断するためにも差し支えなければお聞かせ願えますか」

「……はい。と言ってもお恥ずかしい話で、この前の探索で失敗してしまったんです。いつも余裕な相手だからって油断して、いつもなら避けられた攻撃なのに避け損ねちゃって……自信失くしちゃったなぁ」

「……この前、というのはいつのことでしょうか」

「え? えっと、翔真(しょうま)とのパーティを解消した日ですね。契約解消してそのまま3人でダンジョンに入ったので確かです。これって関係あるってことなんでしょうか」

「それはまだわかりません。しかし、本日お答えいただいた証言とダンジョン管理局が保有する資料とを照らし合わせることで見えてくることでしょう」

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