事例01-4 被告:路上 隼人
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冒険者紛争調停 申立受理通知
ダンジョン管理庁 東京都北区ダンジョン管理局 地方調停所
相手方(被告)
氏名:路上 隼人 様
【件名】冒険者紛争調停 申立受理および出頭要請のお知らせ
このたび、
あなたを相手方(被告)とする冒険者紛争調停の申立て が、
申立人(原告)より提出され、
本日付で正式に 受理 されました。
本件は、
冒険者契約法
ダンジョン探索規律法
能力者管理法
に基づき、地方調停官が調停手続を行います。
事件番号:R20-131172-03号
担当調停官:一ノ瀬 理人(0384号)
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「路上 隼人さん、本日はあなたを相手方とする『パーティ契約の不当解消』の申し立てに関する個別聴取となります」
「待ってくれよ! 不当?! おかしいだろ! ちゃんと規則通りにやったはずだ!」
筋骨隆々の大男である隼人が理人に掴みかかるようにして食って掛かる。
「落ち着いてください、路上さん。本日の聴取は事実関係の確認と争点整理を目的としています。あなたを裁く場ではありません。その手を離し、あなたに落ち度が無いということを存分にご説明ください」
「あ、ああ……。すんません」
隼人は手を離し謝罪の言葉と共に頭を下げる。直情的ではあるものの、決して礼儀を逸しているわけではないようだった。理人は隼人の左腕へと目を向ける。そこには包帯が巻かれていた。
「では、改めまして。本日の聴取にあたって、まず重要な注意事項を説明しますので、必ずお聞きください」
定型の注意が読み上げられる。それを聞く隼人の顔にはかすかに不安の色が浮かんでいた。
「それでは、個別聴取を開始します」
その言葉と共に理人が起動したボイスレコーダーを机の上に置いた。
「まずは基本的な確認から始めましょう。あなたの氏名、帰属する管理局、所属パーティ、冒険者のランク、登録能力を教えて下さい」
「路上 隼人、北区ダンジョン管理局の所属で、パーティは『鳳』でリーダーやってる……あー、やってます。ランクはDで身体能力強化っすね」
「ありがとうございます。では今回の申立内容について書面でも通知いたしましたが、改めてご説明いたします。
・原告、井上 翔真さんと被告、路上 隼人さん他2名は、冒険者契約法に基づきパーティを組んでいた。
・被告3名は協力義務不履行を理由とし、パーティメンバー過半数の賛同をもって原告とのパーティ契約を解消。
・原告はこれを不当とし、申し立てを行った。
これが申し立てに至った経緯となります」
「なお原告は、協力義務不履行という理由に対して、継続的に支援魔法をかけていたと主張しています」
「はぁ?! やっぱりおかしいぜ! あいつは何もしないで俺達に寄生してた。それなのに不当だとかふざけんなってんだ!」
「すると路上さんは、原告が支援魔法をかけていたという事実は無い、と主張されるということですね」
理人の言葉に、隼人は力強く肯定を返す。翔真と隼人の主張は互いに平行線だった。
「あいつはずっと何もしないで俺達に寄生してた! 何度も最初みたいに支援魔法をかけろって言ったのに、あいつはずっと無視し続けた。直接戦えねぇんだからその分支援魔法を使うのが筋だろ! だから俺達はあいつを追い出したんだ!」
『最初みたいに』その言葉に理人が反応する。『最初は認められていた』原告、井上 翔真もまたそのようなことを述べていた。
「路上さん、『最初みたいに』とのことですが、原告も最初は協力的だった、ということですね」
「は? ああ、そうっすね。最初に組んだときはあいつもちゃんと支援魔法を使ってた。それは確かっす……です」
「その辺り、詳しくお聞かせください。特に、最初は協力的だった原告がどのように変わっていったのかを」
理人が一段と真剣さを増して尋ねる。相対する隼人は、かつてレッサーオーガに睨まれたときの記憶を思い出し、慌てて頭を振る。しかし、その姿はどことなく小さくなったかのようだった。
「あ、ああ。そう、ですね、さっき言ったように最初はあいつもちゃんと支援魔法を使ってて、俺もいつも以上に身体が軽いって感動した覚えがあります。2回目の探索のときは……あれ? どうだったかな。使ってたような……」
「はっきりと覚えていない、ということですか?」
「そうっすね。組んで最初の探索で思った以上に上手く行って、すげぇハイになってた覚えはあるんすよ。それで2回目が次の日でそのままのテンションで突っ込んだんであまり覚えてないというか……」
若さと過剰な成功体験からくる全能感といったものだろう。経験の浅い冒険者にはよくある話だ。そこで命を落としたり冒険者としての道を閉ざす者も多い中、今もこうして冒険者を続けている彼らは運が良かったと考えるべきだ。
(いや、これは原告の支援魔法の副作用の可能性もあるか?)
他者強化能力には高揚感を与える副作用を持つものも多い。理人は要確認としてメモを残す。
「それで3回目か4回目だったか? 強そうなやつがいたから支援魔法を使うよう言ったんだ。そしたらあいつは『もうかけてる』みたいなことを言ったんだ。いつの間に、と思ったし最初に支援魔法をかけられたときのような身体が軽くなる感じもなかったんだけどよ、まあ俺が気づかなかっただけかも知れねぇからそのときは何も言わなかったんだ」
理人はメモを取りつつ、翔真の言葉を思い返す。
『3回目ぐらいの探索だったかな。それぐらいからもっと支援をって言われるようになったんです』
両者の主張は一致している。
「でもよ、それからもずっと同じで、魔法使ってる様子もねぇのに『もうかけてる』って、それだけ繰り返しやがったんだ」
「『もうかけてる』その部分、原告である井上さんが何と言っていたか、正確に文言を覚えていますか?」
「は? そうだな……。確か『ずっとかけてるじゃないか』だったか? 少なくとも最後はそう言ってたはずだ……です」
『ずっとかけてるじゃないか』理人は、その言葉が重要な手がかりであるという予感とともにメモに書き記す。
「その後についてはいかがでしょうか」
「そのあとは同じようなやり取りの繰り返しだな。それでいい加減俺も、飛鳥も雲雀も我慢ならなくなってあいつを追い出すことに決めたんだ」
「なるほど。そのやり取りは何回ぐらい繰り返されましたか?」
「5,6回ぐらいはやったはずだな。パーティ組んでダンジョン潜ったのが10いかないぐらいのはずだからな。そのはず……です」
隼人の言葉を受けて、理人はパーティ『鳳』のダンジョン入退出記録との照合を行うことをToDoとしてメモに残す。
「大変参考になりました。ところで、気になっていたのですが、その腕、負傷されたのでしょうか」
「あ? ああ。この前の探索でヘマしちまったんだ」
「それは原告とのパーティ契約の解消後ということでしょうか」
「そうっすね。あいつ追い出す手続きして、そのまま3人でダンジョンに行ったんだけどよ、なんか妙に動きづらくてこのザマさ」
「差し支えなければ詳しくお聞かせいただいても?」
「なんというか、身体が重い感じがして妙に疲れるし、攻撃も当てづらいって感じだったな。俺はそんなもんだったけど、飛鳥や雲雀はもっと深刻で全然避けられないし、攻撃もパワー不足になっちまって普段なら倒しきれるのに反撃もらっちまってたりって感じだったっすね」
パーティ契約を解消した直後の負傷、必ずしも関係があるとは限らないだろう。パーティメンバーを追い出すという行為が本人たちの自覚以上にストレスになっていた可能性もある。しかし、全員が全員、重度の不調に陥るというのも異常である。何らかの因果関係があるとみるのが自然だ。理人は重要な証言としてメモを記録するのだった。




