事例01-3 原告:井上 翔真
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冒険者紛争調停 申立受理通知
ダンジョン管理庁 東京都北区ダンジョン管理局 地方調停所
申立人(原告)
氏名:井上 翔真 様
【件名】冒険者紛争調停 申立受理のお知らせ
あなたより提出された
『冒険者紛争調停 申立書』 について、
本日付で正式に 受理 いたしました。
本件は、
冒険者契約法
ダンジョン探索規律法
能力者管理法
に基づき、地方調停官が調停手続を行います。
事件番号:R20-131172-03号
担当調停官:一ノ瀬 理人(0384号)
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「私の名前は一ノ瀬 理人、本件を担当する調停官となります。本日は井上 翔真さん、あなたから申立のありました『パーティ契約の不当解消』に関する個別聴取となります。まず重要な注意事項を説明しますので、必ずお聞きください」
「は、はい!」
ガチガチに緊張した翔真の様子に、理人は内心の苦笑いを噛み殺しながら話を続ける。
「本手続は刑事手続ではありませんので、いわゆる黙秘権はありません。しかし、答えたくない事項については回答を拒否することができます。 ただし、その場合は調停官が提出資料や客観的証拠に基づいて判断を行うことになります。」
「えっと?」
「答えることで井上さん、あなた自身にとって不利になる、と思われた場合は答えなくても良い、ということです」
「わ、わかりました」
緊張しているものの、その瞳に理解の色が浮かんだことを見て取った理人は注意事項の読み上げを続ける。
「また本手続において、虚偽の申告を行った場合、冒険者紛争調停法 第13条およびその他法令に基づき、冒険者ランクの調整、行政処分、罰金などの対象となります。事実と異なる申告は絶対に行わないでください」
その他、調停を行うにあたってのいくつかの義務などの説明を行い、一通りの注意事項の読み上げを終える。
「注意事項は以上です。それでは、個別聴取を開始します」
これからが本番だと示すように理人がボイスレコーダーを起動し、机の上に置く。その表面にかすかに魔法陣が浮かび上がり、それが魔法による妨害を防ぐための機能が組み込まれていることを示す。その光景に自然と翔真の背筋が伸びる。
「まずは基本的な確認から始めましょう。あなたの氏名、帰属する管理局、所属パーティ、冒険者のランク、登録能力を教えて下さい」
「えっと、はい。俺の名前は井上 翔真、Dランクです。管理局って冒険者登録した場所で良いんですかね」
「はい、特に異動の手続き等を行っていなければ登録された管理局になります」
「なら、ここ北区のダンジョン管理局ですね。パーティは『鳳』を追い出されてからは特には……。能力は支援魔法です。あー……他者、身体強化だったかな」
「分類番号 『Ⅲ-B-01』、『CIR』が『B』の『他者強化』ですね。基本的な確認は以上です。それでは申立を行うに至った経緯をご説明いただけますか」
翔真が説明を始める。その流れは申立書の通り、支援魔法による支援をずっと行っていたにも関わらず、役立たずだと言われてパーティから追い出されたというものだった。
「俺、パーティ組んで最初の探索のときからずっと支援魔法をかけ続けてきたんですよ。それで最初はちゃんと俺の力を認めてくれてたのに……」
「当初はその支援の恩恵を認められていたのですね。当初から何か変えたことなどはありますか?」
その言葉に翔真は、記憶を探るように考え込む。だがすぐに力なく首を振り答える。
「俺、最初の頃からずっと支援魔法を変わらずかけ続けてますし、特に何かを変えた覚えはないです」
「そうですか。では被告の側にパーティ結成当初から何か変わったところはありましたか?」
「それならあります。3回目ぐらいの探索だったかな。それぐらいからもっと支援をって言われるようになったんです。その言葉に俺はずっと『目いっぱいの支援魔法をずっとかけてる』って返してる……いや、返してたんですが……」
「その際の具体的な言葉などは覚えていますか?」
「確か……『支援しろよ』とか『サボってんじゃねぇのか』とかだったかな」
その言葉に、かすかな違和感を覚え理人は、メモを取る手を止め思考に沈む。
「酷いですよね。さっきも言ったようにずっと俺支援魔法かけてたのに」
何が引っかかったのか、その理由を探す。――『何もしていない』『パーティ組んで最初の探索のときからずっと』『ずっと支援魔法を変わらず』『支援魔法をずっとかけて』『サボって』『ずっと』――
「調停官さん?」
翔真の伺うような声に理人は思考の海から浮かび上がる。
「井上さん、あなたの能力について確認させてください。あなたの能力の詳細、あなたの知る限りを」
「……? わかりました」
翔真が怪訝な顔を浮かべながらも答える。
「ただの支援魔法ですし、特別なことは無いと思ってますけど……。発動条件は意識を集中して呪文を唱える、ですね。効果は能力の強化、ですね。登録のときの検査でも言われましたが、あまり強くはないです」
「具体的には?」
「1割いかないぐらいみたいです……。あ! でも、あいつらはそれ以上に強化されていたと思います」
これも記録通りか、そう思っていた理人は、その言葉に驚愕を覚える。
「なんですって?」
「えっと、何か証拠があるわけじゃないんですけど、最初の頃は検査のときと変わらない感じだったのが、だんだん効果が強くなってる気がしたというか」
「それは、彼らがより強い効果を受けているように見えた、ということですか?」
「あー、いや。能力が目覚めたときと同じ感じですかね」
理人が忙しなくメモを取る。ダンジョンや能力といった空想のような存在が現実となったこの世界に、しかし『鑑定』のような便利な能力は確認されていない。ならば能力の覚醒、そして使い方や効果を知るのか。それは脳裏に浮かびあがるのだ。覚醒と同時にこんな能力が使える、こうすれば使える、といったイメージが脳裏に浮かぶのだ。その後、ダンジョン管理局の指導の下での検査でもって効果の検証を行い能力者として登録される。
「それはつまり脳内にイメージが浮かんだ、ということですか?」
「そうですね。能力を使うと畑に種を植えたようなイメージが浮かぶんですが、植えたその種が芽吹いた感じというか……。あいつらにはずっとかけ続けてたからですかね、その芽がだんだんと育っていく感じで……。別れた最後のときにはそれが若木って言えば良いんですかね、小さな木みたいになってたイメージがありました」
「それは非常に興味深い話です」
能力のイメージの変化、それはあまりにも重大な話である。ともすればこの事件の確信に触れる鍵ともなるだろう。もしもこのイメージの変化が実際の効果量の増大を意味しているなら、データベースにある『軽微』という評価そのものが根底から覆ることにもなる。理人はその異常性をメモに書き記す。
――『データベース:5~10%(静的)、証言:成長、芽・若木(動的)』――
「珍しいんですか?」
「ええ。いわゆる魔法系の能力では、経験を積むことで新たなイメージが浮かび新たな魔法を得る、ということは少なくありません」
理人がメモを取る手を止め答える。
「しかし、同じ魔法でイメージが変わるということは少ないでしょう。少なくとも私は聞いたことがありません」
「そうなんですか。俺てっきり、こういうものだと思ってました」
このような認識のズレというものは得てして問題に繋がりやすい。調停においても非常に重要な要素となりうる。理人はしっかりとメモを取るのであった。




