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事例01-2 現代日本の冒険者

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 ――氏名:井上 翔真(いのうえしょうま)、冒険者番号:200177(Dランク)、能力者番号:861223、能力分類番号:Ⅲ-B-01/CIR:B 他者強化、登録日:2038/03/21、所属パーティ:なし――


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 ダンジョン管理局の冒険者データベースから申立人『井上 翔真(いのうえしょうま)』の登録情報を引き出す。


『能力分類番号:Ⅲ-B-01/CIR:B』


 それは井上が他者に対する強化を行うことができる能力者であることを意味する。先頭のローマ数字は能力の大別を表し、『Ⅰ』であれば主に身体に作用するもの、『Ⅱ』であれば物理現象を引き起こすものとなり、『Ⅲ』という数字は他者や物品に強化や付与を行う類の能力であることを示す。続くローマ字は能力が影響を及ぼしうる対象を示し、『A』であれば本人、『B』は他人である。そして最後の数字は能力の細分を表しており、『Ⅲ-B-01』の3つが揃うことで他者強化能力であることが示されているわけだ。


 ここまでで能力の分類が示されているならば、『CIR』とは何か、と多くのものは思うだろう。これは『Combat Impact Rating(戦闘影響力評価)』の頭文字を取ったものであり、能力の戦闘力への影響度を示すものである。ダンジョン探索というモンスターとの戦いを余儀なくされる環境での活動が求められる冒険者の存在、そして能力という生物学的限界や物理法則を超越した力を管理する必要性。これらが絡み合った結果、その能力が戦闘にどれだけ寄与するのかをわかりやすく示す指標として設けられるに至った。


 ここで注意すべきはあくまでも能力がもたらす戦闘力への影響度ということだ。つまるところこれは、能力の強弱や能力者自身の戦闘力を示すわけではない。『CIR』は基本的に『A~E』の5段階で評されるが、一番上位の『A』には自己身体強化や元素魔法といった直接的に戦闘に寄与する能力が該当し、『B』は他者や物体を強化する補助的な能力が該当する。そして『C』以下ともなればもはや戦闘力そのものには影響しない。


 申立書との矛盾はないことを確認した理人(りひと)は引き続き能力者データベースを開く。


 ――氏名:井上 翔真(いのうえしょうま)、能力者番号:861223、能力分類番号:Ⅲ-B-01/CIR:B 他者強化、登録日:2035/09/10

 能力詳細:発声と精神集中による他者の身体強化。効果発現時に効果対象となった人物に発光が見られるが数秒で消失。効果量は軽微であり、5~10%程度の身体能力向上を確認。効果の持続時間については計測不能、長時間の持続が可能と推定、本人の意思による解除が可能――


 能力者としての登録から冒険者の登録まで間があるものの、経歴を見れば大学時代に流行りの能力覚醒ツアーに参加、その際に能力者として覚醒し登録。その後、大学卒業後に改めて冒険者になったことが読み取れる。特に珍しい話ではない。それよりも――


「『発声と精神集中』、そして『効果発現時に効果対象となった人物に発光が見られる』か……」


 効果量は『5~10%』とお世辞にも大きいとは言えず、自覚できなかったとしておかしくはない。だが能力を使用する際に発声が必要で、なおかつ効果発現時に発光するとなれば気づかないということはないだろう。またその光が数秒で消えるとあるが、逆に言えば数秒は続くわけで見落とすことはないと考えるのが妥当だ。


「素直に考えれば、どちらかが虚偽の供述をしている、ということになるが」


 だとしても決めつけてしまうのは危うい。そう思い直した理人(りひと)は、ひとまずその考えを棚上げにして被告の確認を進める。


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 ――氏名:路上 隼人(ろがみはやと)、冒険者番号:200170(Dランク)、能力者番号:861218、能力分類番号:Ⅰ-A-01/CIR:A 身体能力強化、登録日:2038/03/20、所属パーティ:鳳(登録番号:060012)――


 ――氏名:春野 雲雀(はるのひばり)、冒険者番号:200183(Dランク)、能力者番号:861231、能力分類番号:Ⅱ-D-01/CIR:A 元素魔法・火、登録日:2038/03/25、所属パーティ:鳳(登録番号:060012)――


 ――氏名:仁科 飛鳥(にしなあすか)、冒険者番号:200184(Dランク)、能力者番号:861232、能力分類番号:Ⅰ-A-02/CIR:A 戦闘技術超越、登録日:2038/03/25、所属パーティ:鳳(登録番号:060012)――


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 全員同じDランク、登録日が近く同時期に冒険者になった者同士で組んだであろうことが伺える。所属パーティ欄を確認した理人(りひと)は、改めて井上の情報画面を開き所属パーティの履歴を確認する。そこには確かについ先日まで被告たちと同じ『鳳』というパーティに所属しており、変更事由欄には『協力義務不履行を理由とするパーティメンバー過半数の賛同による契約解消』という記録が記されていた。これもまた申立書との矛盾はない。


 理人(りひと)は続けてダンジョン管理局に記録されているパーティ契約書の確認に移る。それはダンジョン管理局が発行している標準フォーマットに則った内容で、その離脱条件は『(1) リーダーと当該メンバーの合意』と『(2) パーティメンバー過半数の賛同』というごく一般的な記載であった。ならば手続きそのものに問題はなく、重要視すべきはその『協力義務不履行』という部分になる。この点もまた申立書との矛盾はなかった。


「やはり判りやすい事件ではなさそうだ」


 静まり返った執務室の中に零れたそのつぶやきは、仄かな残滓を残して消えた。


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