事例01-0 とある冒険者の追放劇
「翔真、お前、うちのパーティから出て行け」
身の丈ほどの大斧を背負い、無骨な西洋鎧を身にまとった筋骨隆々とした大男が告げる。その背後には先端の尖ったつばの広い帽子を被り杖を握りしめた小柄な女性と、腰の両脇に細身の剣を2本吊り下げた大柄な女性が並び立つ。
「は、隼人待ってくれ! そんないきなりなんで?!」
向かい立つローブを着込んだ男、翔真が狼狽える。コンクリートジャングルの日本のビル街の只中において、彼らの姿は異質そのもの。だがそれは数年前までのこと。今はもはや当たり前の光景であった。
「当たり前だろ。お前何もしてないんだからよ。寄生野郎なんざお断りに決まってんじゃねぇか」
何を馬鹿なことをとでも言うように大男、隼人は肩を竦める。
「何もって、俺は支援魔法でずっと強化してるじゃないか! 雲雀! 飛鳥! 2人はわかるだろ?! 2人からもなにか言ってくれ!」
「なにか、ねえ。強化なんて受けたことあったっけ? ねえ、雲雀?」
「一番最初だけ。でも、その後は何もしようとしない。『もう、かけた』とか言い訳するけど後ろから見てた私としては何かしてたようには見えない」
話を振られた大柄な女性、飛鳥と小柄な女性、雲雀は揃って否定する。
「そんな、ずっと支援魔法をかけてるじゃないか!」
「いい加減にしろ! 今までの分はきっちり分け前をやるって言ってんだ。それで満足してさっさと失せろってんだよ」
翔真の言葉を隼人が遮り突き飛ばし、翔真はよろめきたたらを踏む。飛鳥と雲雀へと視線を向けるも、2人の目は冷めきっており、隼人と心を同じくしていることは明白であった。
「わかった……」
翔真はガクリと項垂れると、奥歯を噛み締めながらその場を立ち去るのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「さーて余計なお荷物もいなくなったし、ダンジョン探索と行きますか!」
隼人が声を張り上げる。そこは東京都北区の川沿いにある堤防の傍ら。彼らの眼の前には昼日中でありながら、不自然なほどに先の見通せない大穴が広がっている。これこそが10年前よりこの世界に現れるようになった異界、ダンジョンの入り口だった。
「今度護衛依頼受けてもいいんじゃない? あたしたち、ずっと護衛依頼してたようなもんだしね」
「お、そうだな。俺達は護衛のエキスパートみたいなもんだな!」
飛鳥と隼人が笑い合う。その横で一人、雲雀が首を傾げる。
「どうしたのさ、雲雀」
「なんだか違和感」
「えー? ひょっとしてあいつがいなくなって寂しいの~?」
「それはない」
からかいの言葉に対し、雲雀はきっぱりと否定する。
「はっ! 即答かよ。あいつもまあ可哀想にな」
「あはは。で、大丈夫、雲雀?」
「大丈夫。多分、気の所為」
「そうか? じゃあ行くとするか!」
そうして3人はダンジョンへと足を進める。このとき感じた違和感が、目を向けることができていればその未来は大きく変わったことだっただろう。
―――――――――――――――――――――――――――――
「くそ! 何でだよ、おかしいだろ!」
振るった大斧が空を切り、隼人が毒づく。大斧の重さに引っ張られ、その体が揺らぐ。その様はまさに武器に振り回される、と評するに相応しい。
「きゃあ!」
悲鳴が響く。その声の主へと視線を向ければそこには、飛鳥の姿があり、彼女の左肩には大きな裂傷が1本刻まれていた。
「体が重くて、避けられない!」
飛鳥が痛みを堪え忌々しげに見上げるその視線の先には、大きな翼の腕を持つ女性型のモンスター、ハーピーが3羽飛んでいた。
「飛鳥! 隼人! 伏せて! 今焼き尽くす、フレイムバースト!」
少し離れたところで杖を握りしめ精神集中していた雲雀が声を上げる。2人がその指示に従い素早く身をかがめたその刹那、雲雀の握る杖から火炎が吹き荒れる。
「ピギィ!」
甲高い悲鳴が辺りに響き渡る。頭上を飛んでいた3匹のハーピーすべてが炎に包まれ暴れ狂う。
「へ! 焼き鳥の出来上がりだな!」
勝利を確信したつぶやきが漏れたその時――
「ダメ! 雲雀避けて!」
「え?」
呆けた声が返る。その声の主へと炎から飛び出したハーピーが殺到する。その全身は焼け焦げており、辛うじて動けているだけだろうことは明らか。しかしだからこそ、彼女らは自らを追い込んだ者へと最後の力で襲いかかるのだった。




