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第四話:残骸と、シーズニングバイキング

「……ふぅ、御用したてはやはり鮮度が違うな…満足じゃ、佐藤」

深夜二時半、バックヤードのパイプ椅子に腰掛ける佐藤の左肩で、ハラペコが小さな口から「ぷふぅ」とゲップを漏らしていた。

ハラペコがさっき「旨味のエッセンス」を綺麗に吸い尽くした消費期限切れの『特製・ジューシー鶏唐揚げ弁当』

それは今、佐藤の目の前の机に置かれている。

見た目こそ黄金色のから揚げとツヤツヤの白米のままだが(どうやら見た目はそのままにする技を身に付けたらしい)中身は完全に「味」を失っている

「お前が満足なのは結構だけどさ……これ、どうすんだよ」

佐藤は箸でから揚げを一つ持ち上げ、げんなりとした目で眺める、一口かじってみる肉汁も旨味も消え、油だけが残ったスポンジのような食感しかしない。

「贅沢を言うな、佐藤、見た目はそのまま残してやったではないか、胃袋を満たすだけなら、それで十分であろう?」

「まぁいい、こうなることは分かってたからな…今から魔法をかけてやる」

佐藤は深くため息をつきながら制服の大きめのポケットに手を突っ込んだ。

取り出したのは、色とりどりの小さなビニール袋の山。

「見ろ、ハラペコ、これぞ合法のシーズニングバイキングだ!」

机の上に並べられたのは、おでんやホットスナックの横で「ご自由にお持ちください」と敷き詰められている無料の調味料たち。

おでん用の「和からし」アメリカンドッグ用の「トマト&マスタード」そしてフライドポテト用の「小袋七味唐辛子」

佐藤が先程レジ横から「密輸」してきた戦利品だ。

「佐藤、お前、まさかそれらを……」

「そうだよ」

佐藤は「トマト&マスタード」をから揚げにぶちまけた。

さらにおでん用の和からしを二袋分べっとりと塗りたくり仕上げに七味唐辛子を振りかける。

赤と黄色の…とても食欲など湧かない見た目の斑点模様に変貌した元・から揚げ。

それを佐藤は箸で掴んで思い切り口に放り込んだ。

「……うん…分かっていたがケチャップの酸味と、からしの辛味の味と七味の味しかしないーーだが、食える…!」

「正気か、佐藤……」

肩の上のハラペコは、完全にドン引きしていた。

「お前、そんな『ただの油と調味料の塊』を貪って楽しいのか? ーー我、ちょっと本気で引いておるぞ」

「誰のせいだと思ってんだよ…」

佐藤は今度は味が消え去って冷や飯となった白米に無料のマヨネーズを絞り出した。

マヨネーズご飯を力強くかき込む佐藤の姿をハラペコは

「近寄らないでおくかの…いや近寄るしかないんだった我…少しだけ体逸らして」

と、少しだけ身体をのけぞらせて見つめている。

しかし財布がピンチな現状、背に腹はかえられない

佐藤は脳のバグに耐えながらマヨネーズまみれの白米をひたすら口にかき込んだ。

味がしないはずなのにマヨネーズの脂っぽさだけが舌に残る。

「うぐっ……」

喉を鳴らしながら無理やり胃袋へ流し込み、数分後、佐藤はようやく空になったプラスチック容器を机に置いた。


「はぁ…廃棄貰えるようになったのはいいけど結局コイツに吸われるんだよなぁ…」

パイプ椅子にもたれかかりながら天を仰ぐ

「馬鹿者、それが佐藤の使命であろう?」

「勝手に使命にしないでくれ…さてとそろそろ仕事に戻るか…」


検品、品出し、掃除といったいつものルーチンワークをこなす中、佐藤は下腹部に違和感を覚えたが、まぁすぐに収まるだろう…と思っていた…。


午前4時。

ーーまだ大丈夫だ…。


午前5時。

ーーまだダイ…ジョウブ…だ。


午前5時半。

「駄目かもしれんの……」

肩の上のハラペコが、初めて本気で心配そうな声を漏らした。


午前6時。

夜勤の終わりを告げる朝日が差し込む頃、佐藤の顔は絶望の黒に染まっていた。

最初はただの胃もたれだと思っていた。

しかし、空腹の胃袋にダイレクトに叩き込まれた大量のからしと七味は数時間を経て佐藤の腸内を爆撃し始めていた。

「グルルルルッ……!!」  

静まり返った店内に、重低音が鳴り響く。

「おい、佐藤……お前の腹からもの凄い音が聞こえるぞ……?」  

肩の上で、ハラペコが心底不審そうな顔で佐藤の腹を見下ろした。

「交代が来るまであと1時間……。た、耐えろ、俺の肛門……いや、俺の腹……!!」  

自らの腹をぎゅっと抱え込み、一歩歩くごとに襲いくる「波」に耐えながら、佐藤はただひたすらに耐え忍んだ。漏らしたら…終わりだ。

「おい佐藤、一歩進むごとに顔が般若のようになっておるぞ。あと、ちょっと浮いてないか?」

「……黙れハラペコ。今、俺のケツの門番は、人生で一番過酷なワンオペを強いられてるんだ……」


朝日は昇った。だが、佐藤の夜明けは、まだ遠い。


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