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第ニ話:左肩の重みと、コンビニの暴君


マートデラックスの深夜シフト

佐藤聡はレジ横の揚げ物什器を拭きながら鏡に映る自分の姿を見て溜息をついた。


左肩が明らかに下がっている。

四十肩だと言い張るには無理があるほど不自然に、ぐにゃりと。

おまけに名札が傾いている。ハラペコのせいで左肩が下がっているからだ。直し忘れた名札の「佐藤」の文字がやけに情けなく斜めを向いていた。

それもそのはず、佐藤の左肩…そこには一般人には見えない「欲求の塊」が鎮座していた。

「……おい…ハラペコ…ちょっと右側に移動してくれないか…バランスが悪くて腰まで痛くなってきた…腰にまで湿布を貼ると湿布臭くなるんだよ」

「断る! この位置が佐藤の骨の形にフィットして落ち着くのだ!この左肩こそが我にとっての特等席、文句を言うな佐藤」

(幽霊の癖に骨の形にフィットってなんだよ…)

ハラペコは佐藤の肩にどっしりと(実際は氷のような冷たさで)居座り短い脚をぶらぶらさせている。

「第一お前の歩き方はなっとらん、もっと我を敬うようにしずしずと歩け、我の吸い取った『味』が胃の中でシェイクされてしまうではないか」

「幽霊に胃があるのかよ……あーあ…制服に変なシワが寄っちゃったな」

「ふん!お前のようなしけおじには少々ひしゃげた制服がお似合いだぞ、それにそこまで客も気にしないであろう!しけおじの制服など!」

ハラペコは鼻を鳴らしぷいっと顔を背けた。

気に入らないことがあるとすぐにこれだ、佐藤が要望を聞き入れなかったり、正論を言ったりするとハラペコは容赦なく口の悪さを発揮する。

「……そうだ佐藤、あそこにある『カリカリとした茶色の棒』……あれを我に献上せよ!今すぐだ!」

ハラペコが指差したのはレジ横のホットスナック「うま塩フランク(新商品)」だった。

「だめだ…あれはさっき補充したばかりだ、廃棄が出るのは三時間後だよ」

「三時間!? 我を干からびさせる気か! このけちおじ! 血も涙も味もありはしないこの薄情者め!」

「味がないのはお前が吸うからだろ……静かにしろ、客が来た」

自動ドアが開くと同時にハラペコは「ふんっ」と佐藤の首筋に冷気を吹きかけ沈黙した。

佐藤はぐっと下がった左肩を必死に持ち上げ、歪な姿勢で接客を始める。


「いらっしゃいませー……」


(冷たい、重い、そしてうるさい……)

佐藤は心の中で毒づきながらバーコードをスキャンする。

42歳、独身、深夜のコンビニ

ただでさえ重い人生の荷物に生意気な「我様」の体重が加わった。

だがハラペコが肩の上で「次はあれがいい、これがいい」と勝手な夢を膨らませているのを聞いているとどうしようもなく虚無だった深夜の静寂だけはどこかへ消え去っていた。


「……佐藤、さっきの客が買った『チョコのついた菓子』…あれは良い、次回の献上リストに加えておくように」

「……善処するよ、我様」

「よし!苦しゅうないぞ、佐藤!」

下がった左肩にまた少しだけ冷たくて重い期待がのしかかった…しかし佐藤はこの重みを不思議と『悪くない』と感じていた


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