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イギリス爆撃機軍団出撃日誌(14)パリはまだ燃えない

 侵攻準備に協力する爆撃機軍団の目標は、まず操車場と主要駅でした。そして弾薬庫、通信傍受基地。軍需工場にはドイツ奥深いものも、フランスなど近場のものもあり、近場だとOboeの助けを借りた精密爆撃が可能でした。沿岸砲陣地も狙われ、5月9/10日には386機のハリファックスとランカスター、28機のモスキートがカレー付近の砲兵陣地を思わせぶりに爆撃しました。オマハビーチを狙える砲台を爆撃したはずが、雲があってどうもしくじったらしいのは6月4/5日、ギリギリのタイミングでの本命爆撃でした。


 全体に、同じ夜に複数目標に手分けした出撃が目立ちます。


 5月24/25日と27/28日にドイツ国境の街アーヘンを襲った空襲は、もっぱら操車場とその周辺の線路を狙いました。焼夷弾よりも榴弾が多く、それも時限信管交じりで、目標も達しましたが周りにも降って、火災は少ないものの人的被害を出しました。


 さあ、上陸が始まりました。戦略爆撃部隊の直接的な関与はもうおしまいです。アイゼンハワーはアメリカ陸軍航空隊の成果を見て、人造石油工場や製油所のうち、とくに対空砲に厳重に守られたルール地方のものを夜間爆撃するよう爆撃機軍団に求めました。


 V1号の発射基地制圧は、主に狙われたロンドンが喫緊の戦術的目標でないことを考えれば優先度を下げてもよさそうなものですが、もちろん政治的にはそうはいきませんでした。そしてこの任務は最終的に、発射基地のある地域を占領することで9月初めに終了しました。日が長くドイツ奥深くへの爆撃が少なかった時期でもあり、V1号の空中迎撃に駆り出された夜戦型モスキート部隊もありました。


 1943年10月から使われ始めたGee-Hは、ドイツの妨害電波をかいくぐる'電波戦争'の産物で、Dデイのころには精密爆撃のための誘導装置としてOboeと併用されていました。そして無数の護衛戦闘機と共にDデイ前後のイギリス爆撃機が昼間の空を飛んだときは、相変わらず数の足りない電子機器事情であっても「Gee-H装備機が投弾したら投弾する」という簡便な方法が取れました。昼間にフレアとかマーカーとかは要らないのです。逆に地上と機上のドイツ側通信を妨害するランカスター爆撃機改造の電子戦機も飛びました。その妨害装置はAirborne Cigar、略してA.B.C.(ドイツ側呼称はバグパイプを意味するDudelsack)と俗称されました。地上に置かれたころのトランスミッタが葉巻に見えたらしいのですが、機上のシルエットにもちろんその姿はなく、上に2本下に1本の長いアンテナが見えるだけです。


 Dデイ後しばらくは、相変わらず鉄道駅や操車場が目標に加わっていました。トールボーイという12000ポンド爆弾は、コンクリート構造を破壊するもので、このころに鉄道トンネルやUボートブンカーの攻撃に使われました。


トールボーイ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4


 6月12/13日のルール地方にあるゲルゼンキルヒェンへの空襲は、同市の石炭液化工場を狙ったものでした。死者はわずかでしたが工場の被害は甚大で、生産はしばらく停止しました。16/17日には同様に、デュイスブルク北東のシュテルクラーデにあった石炭液化工場が狙われましたが、雲の厚い日で爆弾はばらけました。21/22日にはケルンに隣接するヴェッセリンク市の製油所でやはり厚い雲とドイツ夜間戦闘機の群れに出会い、地上の状況についてははっきりしませんが、爆撃隊は甚大な損害を出しました。


 6月14日のルアーブル空襲(夜間と払暁)、15日のブーローニュ夜間空襲はどちらも港内のSブート(英語でもかっこいい響きがあるのか、米英はドイツの高速艇Sブートを「敵」のEボートと呼び換えました)を掃討するもので、前者には格納庫対策のトールボーイ爆弾も投じられました。


 6月30日のヴィレル=ボカージュ(村)への爆撃は、6月13日にヴィットマン中尉(昇進前)が大暴れした場所ですが、このときはそのあと何度目かの攻勢であるエプソム作戦が中止されかかっているときでした。爆撃機は、反撃のために集まっているであろうドイツ軍を狙って、交通の結節点としてのヴィレル=ボカージュを狙ったのですが、大損害を受け再編しないと攻撃に移れないのはドイツ軍も同じで、爆撃は結果としては空振りでした。


 いろいろなことがつぎつぎにおこります。これはノルマンディー上陸後、地域の中核都市であるカーンでフタをされたイギリス軍がなかなか外に出られず、回り込んでは阻止される繰り返しであったことを反映していて、7月に入ってもしばらくそれが続きます。



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