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イギリス爆撃機軍団出撃日誌(9)暗い夜明け前

 ドイツ夜間防空を切りの良いところまで語ったせいで、ちょっと先へ進みすぎました。1942年夏のイギリス空軍に視点を戻します。出撃全機につけるほどGeeがないというのが当面の問題でした。まあこれには、Geeを操作し計器を読めるクルーが足りないことも連動していたのでしょうが。


 パスファインダー(先駆け)部隊の創設が、事態打開のカギだとする意見がありました。Geeを装備した専門部隊が、後続の目印を出すのです。のちに焼夷弾で火災を起こすようになりますが、最初はフレア(照明弾)が使われました。


 ところがこれに、ほかならぬハリス軍団長が猛反対しました。こういうときのハリスは部下に自分と異なる意見を口にすることを禁止するなど、「正しい」ことのためには手段を選ばない人でした。空軍気質と言いますか、例のダウディング大将もチャーチルが重職につけようとするたび空軍から反対されて流れた人で、その理由は公式には語られないままなのですが、「人の言うことを聞かないところがあったから(=上司としては困った人で、比較的若手である当時の空軍首脳が忌避し、トレンチャードなど元老組も同意見だったから)」という見方があるようです。長年の同僚としてそれがわかっているポータル参謀総長は、パスファインダー部隊の創設を爆撃機軍団に「命令」しました。


 逆に言うと各爆撃機集団には、困難な出撃を何度も生き抜いた、誰が見ても優秀なクルーが散らばっていました。これをひとつに集めて「選ばれた特別なチームになる」ことが、選ばれなかった大多数の士気に障るとハリスは反対したわけです。もちろんそのチームは最も危険な任務をコンスタントに科せられることになり、これもハリスの反対理由でした。4つの爆撃機集団からひとつずつ飛行中隊が差し出され、欠員補充も親集団から来ることとされましたが、どうも優秀クルーが選抜されたのでなく、通常の飛行中隊がそのまま丸ごと移籍してきたのだ……という研究があるそうです。どういうわけか飛行中隊を出さなかった集団もひとつありました。まあ軍隊であろうとなかろうと人事は伏魔殿ですね。


 8月18/19日、パスファインダー部隊を含む爆撃機集団がデンマーク国境に近い北西ドイツのフレンスブルクを襲いました。残念ながら予報になかった風が吹いて航法を乱し、爆弾はすべてデンマークに散らばりました。多くの家屋が被害に遭いましたがけが人が4人で済んだのは不幸中の幸いでした。8月24/25日の出動も、フランクフルト上空の厚い雲で目標が見えず、街に与えた被害はわずかでした。


 8月27/28日、カッセル上空は満月で天気も良く、パスファインダーの目印はよく見えました。ヘンシェル社の航空機工場などが大きな被害を受けましたが、見通しの良い空はドイツ夜間戦闘機にも好都合で、損害率は10.1%にも上りました。


 フレアの目印に代わって、ピンク・パンシーと俗称された、独特の色の炎で(自分が)燃える爆弾が登場したのは8月28/29日のニュルンベルク空襲からのようです。159機の爆撃機のうち、ニュルンベルクに投弾したのは50機ほどであろうと「イギリス爆撃機軍団出撃日誌」は記しています。前日と同じ理由で(まだ満月に近く)損害率は14.5%に達しました。


「イギリス爆撃機軍団出撃日誌(8)一千機の爆撃機があれば!!」で触れたように、この時期にはドイツ夜間戦闘機部隊(とレーダー)の戦果拡大などで夜間爆撃機の損耗率が上がり、1942年半ばから後半にかけて、爆撃機部隊の士気は前後の時期より振るわなかったと言われます。古兵ブレニムとハムデンが爆撃機軍団から去ったのも、この夏のことでした。


 5~8月の6.4機と比べて、8~12月の24時間当たり喪失機数は4.2機にとどまりましたが、これは悪天候の冬場に差し掛かって危険な大都市爆撃が減ったことなどによると思われ、ドイツの大都市に向かうといくつかご紹介したような大損害が待っていました。パスファインダー部隊の導入は、直ちには福音とならなかったのです。


 しかし日本軍の進撃はビルマやミッドウェイで止まり、ドイツ軍は東でつまずき、ロンメルは敗走しました。とはいえトーチ作戦の後、西からチュニジアに迫った連合軍も、補給港を確保しながらロンメルを追いかけたモントゴメリーも、すぐにはチュニジアに攻め入ることができなかったのですが、ようやく1943年に入ると光明が見えてきます。



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