暗黒姫
真相に近付いてきました‥行方不明になった萌は?
それから何時間も俺は萌を探した。
“見る”事が出来ないなら、足で歩き回るしかない。
心当たりを全て回った頃には、既に夜中になっていた。
近くまで行けば、俺の“目”に反応するかと思ったが、それすらも無い。
やはり、どこか離れた所まで行ってしまったのだろうか。
ならば、明日の始発を待って出かけるしかない。
やむを得ず、家に戻る事にした。
夜道をとぼとぼと歩く俺を、満月がまるで嘲笑うかのように中天に輝いていた。
そうして、家の前まで来た時、俺は奇妙な事に気が付いた。
気配、が無かった。
街に溢れる、人の気配。
特に意識しなくても聞こえる、ざわめき。
車の音、繁華街の呼び込み‥普段なら感じるそれらが、全く感じない。
まるで街に俺以外、誰も居なく成ってしまった感じだ ‥。
‥何かがおかしい。
俺は本能的に“目”の力を解放し、周囲を警戒する。
と、大通りの向こうの街灯がふっと消灯した。
隣り合う建物の灯りも全て消え、その一角が闇に包まれる。
‥停電?
一瞬そう思った時、更にもう1ブロック手前の灯りが一斉に消えた。
近付いてくる?
まるで停電が意思を持って俺に向かって来る様だ。
「うふふ‥」
楽しげな笑い声がその、闇の中から聞こえて来た。
更に1ブロック近くの灯りが落ちる。
もう、目の前数十メートルまでが闇の中だ。
そこは俺の“目”でも見通せない。
完全な漆黒だった。
決して単純な停電では無い。
「あは!そこがおウチだったんですね」
目前の闇の中から再び声がした。
ふわり。
闇の中に金色の瞳が漂う。
目前のブロックの灯りが消えた。
いつの間にか、左右も後ろも闇に閉ざされている。
俺の周囲10メートル程を取り囲む闇の壁だった。
「誰だ?」
闇に向かって問う。
「神島さん‥神島さぁん」
闇の中の甘えるようなからかう様な声色。
俺はその声に聞き覚えが有った。
「そこにいるのは萌、か?」
「はぁぃ」
すっ、と闇の中からその闇を纏った様な黒の下着姿の萌が現れた。
萌の瞳は金色だった。
‥普段の萌は濃いエメラルドの瞳のはずだ。
萌は胸元で腕を組み、桃色の唇から柔らかな吐息を漏らしている。
「さ、探してたんだ、萌」
俺は思わず萌から目を背けながら言った。
恥ずかしさとかからではない。
今の萌の姿を見続けるのは‥危険だ。
「ん‥知ってます‥」
「もう遅い‥帰ろう」
「まだ宵の口‥これから‥ですよ」
「な、何を言ってる??」
萌は手をのばし、俺の胸元を微妙に撫ではじめる。
「んふ‥これ‥下さい」
「え、な、何?」
思わず萌を見てしまった。
「しまっ‥」
まるで吸い付けられるように萌の瞳から目が離せない。
萌の薔薇色の唇が呪文を紡いだ。
『チャーム』
そう言って微笑む。
「神島さん、もう逃げられないですよ」
その言葉と共に俺は自分が身動きできない事に気が付いた。
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