夜道の2人
繁盛する喫茶店でしたが、不穏なことが起こり始めます。
事件にはどのような裏があるのでしょうか?
翌日の昼、仕事が遅番の俺は大西刑事と公園で会っていた。
「感情を操られている‥?」
大西刑事は戸惑いを浮かべた。
「ああ、方法まではまだ分からないが‥」
「例えば催眠術等でそれが出来たとして‥何の意味が‥?」
「それが問題なんだ、感情を操っても目的を達成できるかは分からないからな」
俺も同様の疑問を持っていた。
「愉快犯か?」
「可能性はあるが‥それにしては高度なレベルだ」
催眠術で感情を操作すると言うのは、あり得る話だ。
だが、それは催眠中の話で、あの男の様に普段の行動中も影響を与えるのは難しい。
「そこで、相談なんだが‥刑事さんの方で過去に同じ様な事件が無かったか分からないか?」
「‥なるほど、類犯か‥」
「ああ、特に事件後に犯人がなぜそんな事をしたか自分でも分からない、みたいなものだ」
「確かにそれはこっちの仕事だな」
「頼む」
ニュースや新聞で報道される事件はほんの一部だ。
特に重大事件に至らなかった、些細ないざこざ等はほぼ報道には取り上げられない。
だが、警察が出動すれば、必ずデーターベースには残っている。
情報の更新が有ったら連絡する事を約束して俺は公園を離れた。
その日、遅番で店に入ると悟さんが声を掛けてきた。
「譲君、今日はフロアは萌と君だけだ」
「その様ですね」
涼花と風香は期末試験勉強で暫くお休みだ。
「今日は萌と上手くやってくれ」
「あ、はい」
「‥君は萌をどう思う?」
突然、悟さんが聞いて来た。
「人当たりは柔らかいですし、仕事は丁寧で気が利くのでとても助かってます」
「面倒見が良いからね。クラスでも人気らしいよ」
「ああ、確かに。わかります」
「で、仕事じゃなくてプライベートならどう思う?」
「え? 変な事聞きますね‥」
「推測で良いから意見を聞きたい」
「そうですね‥家庭的で優しい良妻賢母タイプだと思いますが‥?」
「ふむふむ、なるほど‥」
「聞くと、悪い印象では無い、かな?」
「勿論ですよ」
「そうか、それは良かった。ありがとう」
そう言うと悟さんは立ち去った。
うーん、何だろう?
彼女自慢なのだろうか??
俺と話した後、悟さんは萌の所に行き、更に何かを話している。
今の件を話したのだろうか、萌はこちらをちらちら見て照れた様子だ。
うーん?
なんだか落ち着かないな‥。
その日、閉店作業が終わって店を閉める時に、悟さんが再び話しかけて来た。
「すまない、急な予定が入ってしまって‥萌を家まで送ってくれないか?」
「そうなんですか? 送るのは構いませんよ」
彼女を他人に送らせるというのも少し引っかかったが、だからと言って萌を1人で帰すわけにも行かない。
これは俺を信頼しての事なのだろう。
素直に引き受けた。
「助かるよ、宜しく」
そう言うと悟さんは足早に出て行った。
「萌、家まで送るよ」
「あ、は、はいっ!」
何故か慌てた様子で返事された。
ドアに鍵を掛け、セキュリティをセットして駅に向かって萌と歩き始めた。
夜空からまるでスライスレモンの様な半月が俺達を照らしていた。
「か、神島さんは‥」
唐突に萌が話し始めた。
「ん?」
「どれくらい前から店で働いてるんですか?」
「そうだな‥もう、4年半位かな」
「結構長いんですね‥」
「まぁ日にちだけは長いよ‥」
「多分覚えて無いと思うのですが‥実は半年くらい前に一度お会いしてるんですよ」
「俺と萌、が?」
「はい」
「おかしいな、人を覚えるのは得意な方なんだけど‥お店で?」
「はい。その時は眼鏡とかしてたので‥」
そう言って、萌は鞄から取り出した黒縁眼鏡を掛けた。
言われると、その姿には確かに見覚えがある。
あれは‥。
「あ、確かに。店内で落とし物を探した‥?」
「そうです! あの時はありがとう御座いました」
「いや、そんな大した事じゃ‥」
言いながら、その時の様子を思い出した。
帰り際にブローチを無くしたと言っていた女性客が居た。
あれは、萌だったのか。
「とっても大切な物だったので、ちょっと焦ってしまって。すぐに護さんが見つけてくれて助かりました」
言われて、少し涙を浮かべながら一生懸命に探していた萌の様子を思い出した。
「見つかって良かったよ」
「本当に! 戸棚の下に落ちていたなんて全然分からなくて‥」
「まぁ、よくあることだから‥」
俺は返事を濁した。
実はその時に“見て”探したのは秘密だ。
「あれ?もしかしてそれでウチでバイトを?」
「はい、とっても素敵だなって」
ヌーボーな雰囲気のウチの店内は女子に評判も良い。
萌も気に入った様だ。
「‥譲さんって」
え?俺の事?
急に言われて戸惑った。
「え? いやいや、悟さんほどじゃ‥」
「悟さん??」
今度は、萌は不思議そうな顔をした。
「あ、違います! 悟さんは‥従兄弟なんですよ! きょ、兄弟みたいなものでっ」
パタパタと手を振り説明する。
「え、そうなんだ‥ごめん、てっきり」
「いえ、私が悟さんに頼りっきりだから‥反省」
萌はペロッと舌を出した。
歩きながら萌はぽつぽつと話し出した。
「以前は私、自分の事が好きに成れなくて‥ちょっと身体が良くなくて」
「分かる、俺も昔は自分が嫌いでさ‥でも、ある事をきっかけに変われたんだ」
「そうなんですね‥運命の出会いですか?」
「まぁね。それが店長なんだ。本当に大した事じゃなかったんだけど」
「分かります‥ほんの少しの事でも世界が変わりますよねっ」
萌は大きく頷いた。
それからも他愛ない話をしているうちに、あるマンションの前に着いた。
いわゆるデザイナーズマンションと言うのだろうか。
エントランスが付いてお洒落な感じだ。
どうやらここが萌の自宅らしい。
「送って頂いてありがとうございました」
萌はペコリ、と頭を下げた。
「うん、またね」
「はい! あの‥」
「どうした?」
「今度、神島さんのお家も教えて下さい」
「構わないけど‥普通のアパートだよ?」
「ぜひぜひ、知りたいです!」
「ん、じゃあ今度機会が有ったら‥」
「はい、それじゃ、お休みなさい」
萌はそう言うと手を振りながらマンションに入っていった。
ウチは本当に普通のアパートだからなぁ。
萌がなぜそんなに知りたいのか、見当が付かなかった。
モチベーション維持のためにもぜひぜひ感想とか教えて下さいませ。
また、連載形式でアップしますので読み逃し無いよう、お気に入り登録も宜しくです。




