29 偽物
「そういえば、どこで89式を入手したのか教えてくれないか」
俺は家の中に入ろうと、玄関を目指して歩いていたが、自衛官の人に呼び止められた。
「ああ、拾ったんですよ」
「...場所は?」
「えっと、確か住宅街の」
「可恶!見られたか...」
は?
自衛官の顔が急に変わり89式を撃とうとしてきた。
「なっ!」
俺はすぐに横に倒れ込む。
立っていた空間に、銃弾が通過していく音が聞こえた。
やばいやばいやばいやばいやばい。
俺は突然の事態に訳が分からず、とりあえず腰からマカロフを引き抜き乱射する。
自衛官らしき男は、俺が拳銃を持っていることに気づいていなかったのか腹部に命中してよろけた。
「くっ」
男はすぐに伏せて、単発で撃ち返してきた。
突然鳴り響いた銃声で、周りにいた人達が驚き悲鳴が上がった。
俺は銃弾に被弾しないように、令一郎の車の影に隠れて、自衛官らしき男に応射する。
近くにいた人達は、悲鳴を上げて距離をとった。
自分1人では厳しいので、近くにいた令一郎とじいさんにすぐに撃つよう言うが、2人は狼狽えるだけで動こうとしない。
くそ、役立たずどもが。何で俺が撃たれなきゃいけないんだよ!
車の影から手だけ出して、マカロフを撃っていると、急にホールドオープンの状態になった。
くそっ、弾切れか。
すぐに、ポケットから手榴弾を取り出してピン抜き放り投げる。
俺は地面に伏せた瞬間爆発し、悲鳴や窓ガラスが割れる音が聞こえた。
周りにいた人達も、死んだかもしれないがどうでもいい。
「うぉ」
横にあったタイヤが、撃たれたのか空気が抜ける音がする。
今すぐここから逃げないと...どこに?
分からない、とりあえずここから離れないと俺は死ぬ。
もう一度ポケットから手榴弾を取り出して、敵がいそうな場所に放り投げる。
爆発音が聞こえた瞬間、俺は隠れていた車から飛び出して、入り口の自分の車まで走る。
「止まれ!」
そんな声が聞こえてきて、単発で俺に発砲してきた。
俺は全速力で走り車を目指すが...
「ぐあぁ」
急に、後ろから突き飛ばされたのか、地面に倒れてしまう。
俺は自分の体を手で触り、状態を把握する。
どこも血がでていないし、怪我もしてないはずだ。地面に躓いたのか?
俺は地面に倒れて、起き上がろうとすると、リュックの中身が出てきた。
...まさか、リュックが撃たれたのか?
そんなことを考えながら、すぐに起き上がり車の運転席に向かう。
必死に走っていると、後ろから連続した銃声が聞こえてきて、急に左腕が焼けたような痛みに襲われた。
「がっぁぁぐっ」
俺は倒れ込みそうになったが、何とか持ちこたえて、ドアを開け車内に入る。
荒い呼吸ををしながら左腕を見ると、前腕部が削り取られたような見た目になっていて、血がドクドクと流れでていた。
「ぐぁああ、くそ痛てぇ」
今、手当てするのは絶対に無理だ。
俺は、ただ逃げることだけを考えてすぐに車を発進させる。
連続した銃声とは別に、単発で俺の車に発砲してくる音が聞こえた。
くそっ、仲間が家の中から出てきたか。
必死に車を走らせてながら、バックミラーを一瞬見ると、もう1人迷彩服の男がいるように見えた。
車の後部で、銃弾がガラスやボディに当たる音がする。
耳の横で銃弾が通っていく音がしたのですぐに頭を下げる。
フロントガラスがクモの巣状に割れた。
くそっ、これはやばい。
何とかしないといけないが、応射するのは無理だ。マカロフは弾切れで89式は後部座席にある。今の俺は、ただ逃げることしかできない。
何より、腕が激痛でとてもじゃないが戦える状態ではない。
そんなことを考えながら、頭を伏せて運転していると...
突然、後ろから異音が聞こえてハンドルが操作しにくくなった。
な、なんで?...まさかタイヤを撃たれたか?
やばいやばいやばい、逃げないと...逃げないと!
逃げないと俺は殺されてしまう。まだ死にたくない!死ねない!そのためには少しでも距離を取らないと。
俺は心臓の鼓動が激しく脈打つのが聞こえる中、必死にハンドルを右手で操作する。
左腕は動かしただけで、激痛が走るので使い物にならない。
真っ暗の中、異音を出しながら猛スピードで道路を走る。
アクセルを強く踏み、暴れるハンドルを必死にコントロールするのに集中していたら、いつしか自分が撃たれていないことに気づいた。
結構、家から距離をとったはずだ。
俺は運転席に座りながら、体を落ち着かせようとするが...
真っ暗の中、急に感染者が飛び出てきてフロントガラスに頭突きしてきた。
「うわっあああ!」
俺は驚いて、アクセルを強く踏みすぎてしまう。
民家のブロック塀に、感染者と一緒に車が突っ込み、俺は意識が飛びそうになる。
感染者を始末するために、急いで後部座席にある89式を取ろうとするが...
「...ぁれ...なんで..」
視界が急に、真っ白になり頭が下を向いてしまう。
下を向くと、水溜まりのように大量の血液があるのが見えた。
ああ、止血...先にしておけばよかった。
俺は...ここで終わりなのか?
そんなことを考えていると、誰かの声が聞こえたような気がした。
「...ま..ょう..兄貴。生..る..面倒...とに...と思.....」
「...う ..な、さ...と奪....うか。....が、生き...しれ...ら..断..なよ。...?..こ...車は...」
誰かが、俺の顔をライトで照らしてくるのが見えた瞬間、俺の意識は消えた。




