27 帰り道
令一郎は顔に怪我をしているのか、顔中血だらけのまま俺の胸ぐらを掴んできた。
「お前がっ!お前が俺と父さんを嵌めたんじゃないのか!」
「は?」
「この襲ってきた奴らは、お前と組んでいて俺の家を乗っ取ろうとしているじゃないのかと聞いている!」
令一郎は俺の胸ぐらを掴み揺すりながら、顔を近づけて大声で吠えた。
...どういう事?
「なぜそうなるんだ?」
俺は腰のマカロフを引き抜くことを考えながら落ち着いた声で話す。
「お前が俺の家に入り込んで、俺と父さんを外に引き摺りだして、殺そうとしたんじゃないのか?どうなんだ?.........何で物資を調達しに来た初日に、襲われなきゃいけないんだよ、お前が家に来てから父さんはお前の...」
令一郎は俺とキスできる距離まで顔を近づけて、早口でぶつぶつと何か喋っている。
......質問の答えになっていない。
言動がおかしいので、今の令一郎は初めて人を殺して混乱しているのだろう。
令一郎の顔を見ると、血だらけで目が虚ろに見える。
俺は、倒れている造次さんに助けを求めようと横に目を向けるが、これは駄目だとすぐに分かった。
造次さんの頭からは、白い中身が出てしまっている。これは医者がいても治せないだろうと素人でも分かる。
俺は戦闘中、チラリと造次さんを見たときは手足が動いていたように見えたんだが......もう駄目だったんだな。
優秀な駒になるかと思ったんだが、先に死なれるのは少し困るな。
まぁ、囮としてはそこそこ役に立ったから別にいいか。
しかし、家に帰ってからはどうしようか?面倒なことになるのは確実だな。
「おい、なんとか言えよ!」
令一郎が俺を揺さぶる。
おっと、そういや目の前にいるアホに返答しておかなければ。
...令一郎の視点から考えてみると、俺は急にこいつの家に転がり込んできた怪しい奴という認識なのかもしれない。
もともと好感度は低かったし、俺に良くない印象を持っていたからな。
出発前の雑談程度で、そんな簡単には仲良くはなれないか。
仲良くなりたいとは思わないがな。
さて、そろそろ答えておくか。
「俺は、襲ってきた奴らと一切関係ない。俺がお前を殺す気なら、89式で今殺しているよ。...なあ、お前も分かっているだろ?」
俺は落ち着いた口調で語りかけるように話す。
「...くそっ......」
令一郎は俺を突き飛ばした。
「おい、怪我を手当てしてやるからそこに...」
俺は令一郎に手を伸ばそうとして...
「触んな!」
令一郎は俺の手を振り払い、造次さんの近くに行った。
はぁ、面倒だな。
こいつをここで始末するか?それでもいいんだが、令一郎の車に載っている物資を家まで運ばなければいけない。
あいつを殺せば、俺は家まで2往復しなければいけなくなる。それは非常に面倒で危険な作業になるので、今は殺さないでおいてやるよ。
令一郎が俺を殺すことはないと思うが、銃を向けてきたらすぐに処理する。今は父親が殺されて、怒りの発散先が俺に来ているだけだろう。
しかし、ここまでぶつぶつと言われるのは不快なので、あとで処理するのは確定だ。
令一郎が家に物資を運び終わったらやるか...。
それと、男達がなぜ襲ってきたのかを聞きたかったんだが後でいいか。
今この雰囲気で、あいつと話をするのは無理そうだしな。
俺はそう思いながら、男達の死体があるところまで歩いていく。
ゴミしかないな。
男達の死体から、何か使えそうな物がないか探してみると、回転式拳銃1丁と斧しかなかった。
M37エアウェイトには、空薬莢しかなく予備の弾は1発も無かった。
弾が無ければただの置き物なんだが、弾薬を入手する機会があるかもしれないので回収する。
38口径の空薬莢は、一応そのまま装填しておく。
ハンドロードの機材なんて、銃砲店や少数の猟銃所有者しか持ってなさそうだが、もしかしたらどこかにあるかもしれないので持っておく。
しかし、面倒なので積極的に空薬莢を回収するつもりはない。
なぜ、1丁しか拳銃を回収できなかったのかは、他の仲間が回収していったのか、上手く逃げきれた奴が持っていたのだろう。
しかし、ガソリンスタンドで銃を発砲するのは、結構心臓に良くないな。内心いつ爆発するのかビクビクしながら撃っていたからもうしたくない。
今になって爆発しなくて良かったと本当に思う。
マジで気化してなくて助かったわ。
その他、男達から斧などの鈍器を数本ゲットした。何かに使えるかもしれないので回収しておく。柄の部分が血で汚れているが綺麗にすればいいだろう。
......。
5.56㎜弾を20発以上消費して、獲られたものが、弾切れの回転式拳銃と斧だけ。
全然割に合わない。
「はぁ」
ため息をついてしまう。
貴重な弾薬を消費した成果がこれでは気分も落ち込むわ。
もっと良いもの持ってこいよ、と思ってしまうが、すぐにそんな考えは消えた。
もしこの男達が、角材や拳銃ではなく自動小銃だったら俺は死んでいた。
男達が貧弱な武装だったのは、俺にとって運が良かったのかもしれない。
俺は地面に片膝を着いた状態で、男の死体の顔を見る。
ガラは悪くなく、もう少し清潔感があれば普通の人の容姿だな。俺が以前コンビニで襲われたときの、チンピラ達のような風貌ではない。
襲ってきた理由が気になるので、あとで落ち着いたときに、令一郎から聞くことにする。
俺は車まで歩いていき、回収した物を中に放り込む。
さて、家に帰るか...ん?
俺は左に頭を向けて見ると、令一郎が造次さんの死体を車に載せている途中だった。
どうでもいいな。
俺は頭を正面に戻して、運転席のドアを開け中に乗り込む。
エンジンを掛けて、発進させようと周囲を見回すと、令一郎が車に乗らずにどこかに歩いていくのが見えた。
あいつどこにいくんだ?
...まさか逃げた男達を始末しに行くのか?
おいおいおい、お前の車に載ってる物資を家に運んでもらわないと俺が困るんだよ。
俺はそう思いながら急いで車を降りて、令一郎の元に早歩きでいく。
「おいっ、どこにいくんだ」
俺は大声で令一郎を呼び止める。
令一郎は俺の声が聞こえたのか、歩いていた足を止めて、頭を俺に向けた。
そして、心底男達を恨んでいるような声で言った。
「あいつらを殺しに行くんだよ」
やっぱりか。
でもな、先に物資を家に運んでくれないと、今日してきたことが全て無駄になる。運んだ後は、お前が死のうが生きようがどうでもいいから、今は車に戻れ。
俺はこいつに、物資を絶対に運ばさなければいけない。運ばないのであれば死んでくれ。
そう考えながら俺は令一郎に言う。
「もう夕方だぞ、これからもっと暗くなって視界が悪くなる。
それに、家で待ってる人達はどうなる?みんな物資を持ち帰ってきてくれるのを待っているんだそ!」
全て俺の物資だがな。
令一郎は、一瞬だけ目を見開いたがすぐに元に戻った。
「ちっ」
舌打ちして、車のところに戻ろうとしているので、俺も自分の車に戻る。
思ったよりあっさり戻ってくれたな。てっきり数分は説得しなければいけないと思っていたんだが。
こいつは、家族を人質に取れば言うことを聞くかもしれないな。
俺はそう考えながら車に乗り込み、家を目指して運転する。




