25 ガソリンスタンド
車を走らせていると、左側にガソリンスタンドらしき建物が見えてきた。
お、これか?
前を走る造次さんの車が、左にウインカーを出して入って行ったので俺もついていく。
運転席からガソリンスタンドを見ると、車は止まっておらず他の生存者の姿も見えない。
感染者がいるならば、俺の車のエンジン音に反応するはずなんだが襲ってくる気配はない。
もしかしたら、この辺りの感染者はどこかに移動したのか倒されたあとなのだろう。
そう思いながらハンドルを左に切り、計量機の横に車を止める。
計量機の反対側には造次さんの車が止まっていて、助手席から令一郎が散弾銃を持って降りてくるのが見えた。
俺は2人と合流するため、89式と腰にあるマカロフに異常がないか確認して車から降りる。
周囲に誰か来ていないか、見回してみるが感染者も人間もいない。あるのは、地面に落ちているチラシのゴミだけだ。
俺は視線をチラシから外して、令一郎の近くに行こうとしたとき何となく嫌な予感がした。
俺の感は全く当たらないが、何処からかジトッとした何かが伝わってきた。
俺は少し不安になり、肩から吊り下げている89式に目を向けて、セレクターがタになっていることを再度確認する。
前まで3点バーストで使用していたが、弾薬の消費を抑えるために単発でやっていくことにした。次はいつ弾薬を補給できるかも分からないので、節約しておいて損はないはず。
しかし、戦闘になれば命が懸かっているので、弾薬を惜しまずに使用して敵を処理する。
例えばの話だが、ここで誰かが襲ってきたらどうしようか?
俺が今いるガソリンスタンドで、銃を発砲するのは危険な行為だが、燃料が気化していなければ爆発はしないはずだ。
車から降りて周囲の臭いを嗅いでみたが、気化したような臭いはしなかった...と思う。
自分でも、気化した臭いは嗅いだことはないと思うので、自信はないが撃っても問題ないはずだ。
気化していなければ爆発はしない、これだけ覚えていれば撃っても問題ないと自分に思い込ませる。
さすがに手榴弾は使う気にはならないがな。
俺はそう考えながら、計量機の前にいる2人に近づいた。
「うん、ちゃんと入ってきているね」
造次さんは発電機を操作しながら呟いた。
俺の目の前にいる造次さんは、発電機で計量機のポンプを稼動させて車に給油中だ。
災害などの停電時に、発電機でポンプを動かす方法を造次さんが知っていたので給油できた。
先ほど、店内を探索したときに見つけた発電機を計量機の近くまで運び今に至る。
大まかな作業は造次さんに全部やってもらった。何でも、若い頃に短期間だけガソスタで働いていたらしい。
俺はやり方が良く分からないから、分かる人がやればいい。造次さんも初めてのことだったらしいので、少々時間が掛かったが給油できているので問題ないだろう。
造次さんの給油作業を俺は横で立って数分眺めていたが、かなり重量のある発電機を台車で運んだので、喉が渇いたような気がする。
車の中にある、調達してきた物資を消費するのは嫌なので、店内にある自販機から水分を補給しよう。
俺はこの場を離れることを造次さんに伝える。
「少し俺は中を見てきます」
俺は造次さんが頷いたのを確認して入り口に向かう。
歩いていくと、窓ガラス越しに令一郎が椅子に座っているのが見えた。
近づいてくる俺に気づいたのか、手を上げてきたので適当に返事しておく。
手動ドアを開けて中に入り自販機のある場所までいく。
俺は銃剣を腰から抜き、自販機の隙間に突き立てようとするが、現実的ではないことに気づいた。
...これどうやって開けるんだ?
隙間に入れたら多分銃剣が折れる。
銃剣では絶対に無理だろと思い、バールとか近くに落ちていないか周囲を見るが落ちているわけがない。
俺は何とかして開ける方法を考え...
「おいっ、誰か来たぞ!」
...誰か来た?
令一郎が俺に何か言ったあと、急いで扉を開けて外に飛び出して行った。
誰か来たぞ、と令一郎は言っていたが、他の生存者なのか感染者なのかどっちなんだよ。
俺はため息をつきながら、姿勢を低くして窓ガラスに近づき外の様子を伺う。
計量機の横で、造次さんが誰かと話をしているのが見えた。
少し距離があって見づらいので、背負っているリュックから双眼鏡を取り出して、何が起きているのか把握する。
造次さんと話をしているのは、40代ほどの男性で、手には斧らしき武器を持っているのが見え...ん?
今、右側の道路から人影が近づいて来たように見えたんだが、気のせいか?
俺は双眼鏡を覗き込み周辺を見回す。
これは......まずい囲まれてる。
俺は椅子に姿を隠しながら、ガソリンスタンドに近づいてきている人間を見る。
右側の道路から3人、目の前にある民家の敷地から2人、左側の交差点からは5人、合わせて10人は目視で確認できた。
これはやばいな。
双眼鏡で顔を見ると、髭が目立って見えたので多分全員男だろう。
男達は全員、斧とか角材?みたいな棒状の武器を持っていて、銃を持っている奴は2人いるのが見えた。
拳銃を持っている2人以外は、脅威にはならなさそうだが、近づいてこられたらやばいな。
しかし、銃を持っている奴は2人だけか?
...もしかしたら俺が気づいていないだけで、どこかにスナイパーがいたりするのか?
俺はまだ死にたくないので、最悪の事態を想定しておいたほうがいいだろう。
俺は男達から目を離して、双眼鏡で造次さんを見てみると、まだ斧の男と話をしている。
さて、どうするか。




