23 小売店
こいつ、なんで散弾銃持ってんだ?もしかして猟銃の免許持っているのか?
俺の横にいた造次さんが玄関まで早歩きで行き、
「なんで令一郎が銃を持っているんだ!」
俺の疑問を代弁してくれた。
「なんでって、爺ちゃんから借りてきたんだよ」
令一郎は何を当然なという態度で答えた。
「そういうことじゃな...」
「別にいいじ...」
何やら言い合いが始まった。
俺は面倒事に巻き込まれたくないので、車庫の前まで歩いていき停めてある車に乗り込む。
運転席に深く座り込みため息をつく。
言い合い早く終わればいいな。
今は昼過ぎなので日没までに帰って来なければ、この家に来たときみたいに真っ暗な中を運転することになる。
暗闇で運転するのは精神的によろしくないので、さっさと出発してさっさと帰ってきたい。
俺は目を閉じて気持ちを落ち着かせる。
なんで今日行くことにしたんだろうね、とまた考えてしまうが先ほど造次さんが理由を言ってきて、ばあさんと令花の衛生用品がほとんど無いそうだ。
それと、今日の晩飯の味付けに使う調味料も昨日で無くなったので、今日調達してこなければ素材の味を楽しむことになるそう。
別に味付けくらい、いいけどねとは思う。
あと、じいさんが最近喉の調子が良くないそうなので医薬品が必要とか言ってた。
自分で取りに行けよ。
理由を聞く限り、別に今日じゃなくてもよくねとは思うが、造次さんはなぜか今日行くつもりらしい。
目的の物を調達したら、すぐに家に帰ると言っていたが不安しかない。
俺は目を開けて、自分の身につけている装備に異常がないか確認する。
腰にマカロフと銃剣、ズボンのポケットには手榴弾2個入っている。
リュックには救急品袋やライトなどが入っていて、調達する物資を入れるスペースを残してある。
弾薬についてだが、マガジンを収納するためのリグが無いので、89式にジャングルスタイルで携行する。
60発撃てることになるが無駄撃ちには気をつける。
残りの予備マガジンは、ポケットではなくリュックに入れておく。ポケットに入れていたら転んだときに怪我しそうだから。
耳栓はさっきしてので鼓膜の保護は問題ないはず。
装備品に特に異常はないな。
俺は頭を右に向けて窓ガラス越しに二人を見てみると、どうやら解決したみたいでこっちに歩いてきた。
「ちっ、こいつも行くのかよ」
令一郎は窓越しに、俺に指を差しながら造次さんに言う。
「令一郎、頼むから仲良くやってくれ」
造次さんは令一郎を咎めるように答えた。
今日だけかもしれないが、一緒に行動するので一応挨拶しておくか。
俺はそう思い車から降りる。
「令一郎君、よろしく」
俺は好青年を装い、令一郎と握手するため手を差し出す。
あれ?
「.........」
なぜか令一郎は固まった。
こいつの目線からして89式を見ている。
数秒ほど経ってから、令一郎は少し興奮しながら聞いてきた。
「その89式本物か!」
適当に受け答えしておくか...。
「ああ本物だ、落ちていたから拾ったんだ」
「頼む!ちょっとでいいから見せてくれ!」
令一郎は俺に近づいてきて、両手を合わせて頼み込んできた。
な、なんだこいつ。ミリオタなのか?そうなのか?
俺がこの家に来て、挨拶したときとだいぶ態度が違うのだが。
俺は少し困惑しながら考える。
そういえば、こいつの前で89式を装備したのは今が初めてだな。
どうしようか?...まだ完全に信用したわけではないので、出来れば見せびらかしたくない。
しかし、この状況で拒否するのは得策ではないような気がする。
そこでこうしよう。
「令一郎君が持っている銃も見せてくれないか?互いに交換して鑑賞しよう。もちろん弾を抜いてね」
俺がそう言うと、頭を上下に激しく振り頷いた。
89式からマガジンを外して令一郎君に手渡す。
チャンバーにはもとから入っていないのを車内で確認済みだ。
令一郎も吊り下げていた散弾銃を俺に渡してきた。
「おぉぉぉ」
令一郎は鼻息を荒くしながら、89式に顔を近づけてじっくり見ている。
銃口をこちらに向けていないので、向けたらどうなるかは理解しているようだ。
もしも、こいつが怪しい動きをしたら腰にあるマカロフを引き抜けばいい。
俺はそう考えながら、令一郎が渡してきた銃を見る。
これは、自動散弾銃か?
銃の側面にある文字を見ると、
BERETTA outlanderと刻印があった。
俺は猟銃について詳しくないので、モデル名やシリーズはよく分からない。
だが、美しい銃だと思う。
令一郎が89式を眺めながら俺に話しかけてきた。
「個人的に416とか欲しいなぁ、でも日本じゃ在日米軍基地にしか無さそうだし、手に入れるのは無理かも」
「令一郎君は西側の銃が好きなのか?」
「うん、そうだな。それと...」
令一郎が話しかけてくる内容に、適当に返答しつつ友好度を高める。今から一緒に行動するのだから、仲良くしておいて損はないはずだ。
雑談して数分後...
「まぁ、なんだ...お前とは仲良くできそうだな」
令一郎はニヤリと笑いながら俺と握手した。
「ああ、そうだな」
俺はその場の空気に合わせて適当に答えるが、ほんの少しだけ令一郎と仲良くなった気がした。
玄関にいる造次さんが、こちらを見て微笑んでいるように見えた。
玄関には、令花以外の住人が出てきて見送りに来た。
なんか...死にに行くのみたいだな。
「おとうさん、かえってきてね」
悠馬君は造次さんに抱きつきながら別れの言葉を言ってる。
「徳蔵さん、皆をお願いします」
造次さんは悠馬君に抱きつかれたまま、じいさんと何やら話し込んでいる。
俺達が出発すれば、この家にいるのは子供と老人だけになるな。
じいさんがライフル銃を持っているから大丈夫かもしれないが、ヒャッハーな連中からしたら格好の獲物だろう。
この家にはソーラーパネルや畑など、充実した設備があって目立つから狙われないか心配だな。
もう俺の所有物だし、留守番する奴らはちゃんと守るんだぞ。
俺はそう考えながら車に乗り込む。
造次さんと令一郎は、黒色の軽自動車に乗り込み車を発進させる。
俺は後をついていき、道を覚えながら運転する。
何も問題が起きなければいいんだがな...。
「これは酷いな」
造次さんが手を口に押さえながら呟く。
「マジきめぇ」
令一郎は散弾銃を死体に向けながら暴言を吐く。
彼らの見る先には、頭から中身が零れ出ている警察官の死体があった。
俺は特に何も感じない。...いや、死体は怖いよ、ただそれだけで特に感想はない。
俺は二人が死体を見ている間、周囲を警戒し誰かが来ないか見回す。
...来ないな。
もう、どこかに行ってしまったのか?
俺達が今いる場所は、地域密着型のスーパー......の入り口の自動ドア前にいる。
スーパーのほうが家から近かったので、先に物資を調達してからガソリンスタンドに行くことになった。
町に来るまでの道のりは、誰にも遭遇せず感染者にも会わなかった。
ここまで無事に来れたのはいい。
問題は俺達の目の前にある警察官の死体が、誰かに殺された後ということ。
死んでからはまだ数時間程しか経っていないように見え、衣服を触って見ると少しだけだが熱を感じられた。
当然だが警察官の拳銃などの装備品は、全て持ち去られていた。
死体を見る限り、これは後頭部を鈍器か何かで殴られてやられたんだろう。
もしかしたら、襲った奴が拳銃を持って近くにいるかもしれないので、いつも以上に警戒しておく。
「さ、もう中に入って物資を調達しようか」
造次さんは死体から目を離し、手には何も持たずに店内に入っていく。
造次さん、腰にある鉈は使わないんですか?
俺は心の中でそう思うが、言っても無駄になるだけなので何も言わない。
俺の前にいる令一郎を見ると、興奮しているのか散弾銃の銃口をあちこちに向けながら、造次さんについていった。
俺は列の一番最後で、令一郎の後ろを歩き後方を警戒する。
もし、俺が危険な状況になればこいつらを囮にして家に帰ることにする。安全第一だからな。
俺はそう考えながら歩を進めた。
「無いなぁ」
令一郎は調味料が置いてあったはずの、空の棚を見ながら呟いた。
やはり、誰かが来ているのか物資が全く無い。
店内で回収できたのは、少数の衛生用品などの物資と床に散らばっていたバラ売りのガムだけだった。
しかし、運がいいのか店内には感染者は1体もいなかったので精神的な負担は軽減された。
「店内の物資はあまり残って無さそうだから、バックヤードに行こうか」
造次さんがそう言っているので、俺は頷いて同調しておく。
なんか、今まで一人でいたからなのか、喋るのが面倒になってきた。
俺達は店内の通路を歩きバックヤードを目指す。
どこに、バックヤードに入るための扉があるのか分からず、1分ほど店内を歩き回ってようやく見つけた。
造次さんが扉を押すと、ギィィっと不快な音を出しながら扉が開き、中で誰かが叫ぶ声がした。
声?
人間か?
俺達は叫ぶ声を聞いて、動きを止めてしまってしまった。耳を澄まして聞いてみると、何かが急いでこっちに来ているように聞こえた。
これは...感染者では?と俺がそう思った瞬間、積み上げられていた段ボールの死角から、感染者が飛び出してきた。
「うっわぁぁぁ」
造次さんは驚いて後ろに倒れてしまうが、その後ろにいた令一郎も一緒に倒れてしまった。
「うぉっ」
俺は造次さんの驚いた声を聞いてビックリした。
驚いた声を聞いて、自分の動きが止まった状態から立ち直りすぐに89式を構える。
引き金を2回引いて単発で発砲。
感染者の肩に1発命中して倒れこんだが、地面を這いずってこちらに向かってくる。
俺は止めを刺そうと、倒れこんだ感染者に銃を向けようとしたが、急に前にいた令一郎が立ち上がった。
「邪魔だ!」
思わず声に出してしまう。
「父さん、伏せて!」
令一郎が散弾銃を構えて発砲するが、
「ぐあぁぁ痛てぇぇ」
撃った反動で倒れかけてしまう。
しかし、撃った散弾が首に命中し感染者は地面に倒れた。
「や、やった...」
令一郎は初めて感染者を倒したことで余韻に浸っている。
俺は後方から誰か来ていないか、振り向いて確認しようとするが、前から奇声が聞こえて何かが走ってくる音がした。
「くそっ、まだいるのかよ」
俺は前にいる奴らを射線に入れない位置まで移動する。
89式のセレクターがタになっているのを確認したら、すぐに構え直して迎え撃つ。




