17 ナナ
奈那に車に行けと言ったのに動かない。
ここから見る限り、奈那は女の子座りでコンビニの床にぺたんっと座り込んでいる。
...もしかして、俺は伏せている状態で喋ったので、命令が聞き取れなかったのかもしれない。
店内は暗いので、奈那の姿がはっきり見えるところまで、匍匐前進で移動して命令してみる。
「おい奈那、さっさと車に行け」
奈那は首だけ動かして、俺を能面のような表情でじっっと見てきた。
な、なんだよ。俺が何したっていうんだ?
10秒ほど俺を見て、奈那は頷きもせず無言で立ち上がり、入り口のところに向かって行った。
何なんだあいつ、俺とチンピラの戦闘を見て頭が壊れたのか?
まぁいい、命令を聞いているから良しとする。
あっ.........。
駐車場には感染者がいることを思い出した。チンピラが狙撃してくることに、気を取られすぎて考えてなかった。
奈那が外に行ったら襲われるのでは?
......別にいいか。俺を裏切っていたし、殺そうともした。そんな奴は殺すか有効活用するしかない。
俺はうんうん、と頷き自分を納得させる。
耳を澄ますと、遠くの場所で銃声が鳴っているのが聞こえてくる。だが、奈那が入り口に歩いて行っても、狙撃してくるような音は聞こえない。
これは、チンピラ達が感染者との戦闘に夢中なのか、それとも俺ではなく奈那が出てきたから撃ってこないのか。
...もう少しだけ待ってみるか。
俺は伏せている状態から身を起こして床に座る。
手に持っていた89式に、異常がないか確認して他の装備品も確認する。
異常なし、弾薬もまだ10発ちょっとしか使っていない。手榴弾があと一つしかないのが不安だな。
装備を確認し終わったので、自分の周囲に感染者やチンピラが来ていないか見回す。
誰もいないな。
俺は体の力を抜いて、棚にもたれ掛かろうとすると、棚の中に板チョコがあることに気づいた。
これはゲットしておくべきだ。
俺は板チョコを手に取り、リュックに入れようとしたが手が止まった。
今、食べたい。
こんな時にすべき事ではないが、無性に甘いものが食べたいと体が言っている。
板チョコのパッケージを見てしまったので、頭が味を想像してしまった。
外から撃ってくるかもしれないが、今は撃たれていない。食べれるときに食べておくべきでは?
俺は素早く包み紙を破り開けて、一欠片割り口に入れる。
口の中に、程よい甘さが広がる。
もう一欠片だけ食べてあとは残しておこう。
うまい、うますぎる。
もう一欠片だけ...いや、だめだ。これ以上食べたら手が止まらなくなる。チョコには謎の中毒性があるなと頭で考える。
俺は二欠片食べて気力を回復したので、残りはリュックに入れておく。
......なんか飲みたい。
口の中が、チョコの後味でなんか変な感じだ。
食べて少し後悔しているが、甘いものを食べれたので良しとする。
周囲の音を探ると、チンピラ達が遠くに行ったのか、うっすらとしか銃声が聞こえない。
奈那も撃たれていないし、これはもう大丈夫なのでは?
...よし、そろそろ行くか。
俺は、棚にもたれ掛かっていた体を起こして立ち上がる。
棚から顔を出して、入り口付近の様子を見ると先ほど見たのと同じで、四人の男が倒れていた。
特に異常はないな、感染者も店内には入ってきていない。
外には、感染者が集まってきているはずなので、すぐにこの場を離れなければいけない。
もたもたしていたら俺は死ぬだろう。
俺の考えた作戦は、入り口付近で死んでいるチンピラの銃などを回収して、急いで車に乗り込み家に帰る。
これしかないと思う。
欲を言えば、店の物資を回収したいが時間が無いだろう。
俺は一度、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
行くか。
俺は奥の通路から出て、89式を構えて周囲を警戒する。
...撃ってこない、大丈夫だな。
俺は入り口まであと2mほどのところに来て、車が見える位置にいるのだが...奈那がいない。
あいつどこに行った?逃げたか?
店内から外を見回しても、ここからではよく見えないので外に行こうとした瞬間、俺の右側で急に人の気配がした。振り向くと、奈那が拳銃を俺に向けていた。




