77話目
77話目です
誤字・脱字があったら報告していただけるとありがたいです
フラフラ紙を片手に教務室から戻ってみると、何やら俺のクラスの前に人がかなり集まっていた。
てっきり、あの幽霊の話が広まってくれたのだと思ったが、その人の固まりから顔をひょこっと出してクラスを覗き込んでみると、なにやら新崎と城戸さんがこのクラスの生徒ではないジャージに身を包んだ誰かに、腕を捉れブンブン上下に振らされていた。
この人だかりの目的はそっちだろう。
と、そこで新崎と目が合う。
事情を聞くタイミングとしては丁度。
なになになにと口の形を作ってその輪に入る。
クラスの他の生徒も呆気に取られて、作業の手が止まっていた。
少し野次馬の目線が集まって居心地が悪い。
「あ。灯!」
「…なに」
「いやー…なんかな…」
訳を話そうとする新崎を遮って、ジャージ姿の男子生徒が二人の手を離して声を上げる。
「うんうん!やっぱり、僕の目に狂いはない!僕たちの劇を完成させるのに必要なのは君たちなんだっ!だから、お願い!」
パンッと手を合わせ、頭を下げるその人の話を聞いて、新崎は苦笑いを浮かべ、城戸さんは興味に満ちた瞳を輝かせる。
ついでに聞いていた俺は大まかな事情がすぐに分かった。背景が黒になってそこに稲妻とか流れたかもしれない。
どうして物語の定番である劇を俺たちのクラスでは行わないのかという疑問。
それに対する答えはこれだろう。
他でやるのに新崎たちが参加するという話。
そうすれば、特別性も主人公らしさも見せられて一石二鳥。あとはヒロインを可愛く見せれば売上アップでいい感じ。
確か、今年の文化祭に劇を出し物としたクラスはない。
となれば、この人は演劇部の部長かなにかだろうか。
一応、勇み足にならないよう口を閉ざして話が進むのを待つ。
「…何か、演劇部で主役の二人が怪我したらしくてな…。代わりをこの人が探してたときに俺らを見かけて、で、こんな感じでお願いされ続けて…。それでしかも、ちょっと夏も乗り気なんだ…。劇とかそういうのしたかったらしくてな…。ずっとあんな感じで食い付いてる」
「そうか…」
口に手を当て密やかに新崎は話し、奥で尚も瞳をキラキラさせている城戸さんをこっそりと指差す。
「陽斗!やりましょう、演劇!わたくし、高校では一度、必ずやっておきたかったんですの!」
「いや、そう言われても、こっちもあるし…なぁ?」
「俺に言われてもな…」
それを決める権利は紙をチョキチョキしてるだけのしたっぱは有してない。
肝心の文化祭委員も今は一同様に仕事中。
そんな話を振られても首をかしげるぐらいしかリアクションとしては取れなかった。
「む~、良いじゃないですの。こっちにはあーいうのを提供してますし、人手としてはむしろ余っているぐらいではありませんの?」
城戸さんがプロジェクターを指差してそう言うと、「まぁ、確かにそうだね」と、茶髪の女子が頬をかく。
すると、城戸さんがね?ね?と新崎にズリズリ近寄って、その瞳をダメ?と下から覗き上げる。
子供のような無邪気さが見えるそれに、新崎はうっと唸る。
もう、どうせやるんだしそろそろ折れても良いんじゃない?と、新崎に俺も目線を向けると、はぁと彼は吐息を漏らした。
「こっち抜けて、本当に大丈夫か?」
「うん、まぁ、何とかして見せるよ。足りなくなったら、また夏さんにお願いしても良いかな?」
「ええっ、ドンと任せてくれても良いですわ!で・す・か・ら~…」
胸を張る城戸さんの目がちらりと新崎の様子を伺う。
「…しょうがない。灯、余計に面倒な仕事が増えるかもしれないけど、悪いな」
「今のところ紙切ってるだけだけどな」
「それじゃあ…!」
城戸さんの表情と声音が期待に満ちる。ついでに演劇部のお方も同じようにして期待の星をピュンピュン新崎に飛ばしていた。
二人からの期待の眼差しと星をまるでシューティングゲームのボスのように一身に受けていた新崎はあぁと頷いて答えを出した。
すると、妙に意気投合している城戸さんと彼が飛びはね、喜んでペチペチハイタッチを交わす。
「よーし、これで解決だね!二人とも、当日までみっちり教えるから!」
「えぇ!いっそ、演劇部で世界を目指しましょう!」
「おー!」と、手を掲げて新崎を残して和気あいあいと二人がクラスから出ていった。それを見て話が落ち着いたと察した野次馬は、起こしていた喧騒と一緒に元の場所へとか散っていった。
「不安だな…」
「ん、まぁ頑張れ」
「おう。灯も俺の分まで頑張ってくれ!」
そう言い残して新崎も出ていく。
なんで俺が新崎の分まで頑張らなければいけないのか知らないが、まぁ、とりあえず今の目の前の仕事は頑張っておこう。
と、茶髪ガールが教卓に立つ。
残って呆然としていた生徒達の視線が自然と集まった。
「みんな!いなくなった夏ちゃんと陽斗君の分!寂しいかもしれないけどしっかり頑張ろう!おー!」
張り上げたその声にほとんどの奴等が手を掲げて続いた。
元々、新崎という主人公がいたお陰で表立ってのカースト何かはこのクラスには見えなかった。だが、その新崎が居なくなったことで、本来の現実染みた一クラスの形に一時的に戻ったのだろう。
別にその事に気分の悪さも居心地の悪さも感じはしない。むしろ、俺自体そういう環境の方が慣れているかららしく振るまえるし、これはとても良い空気。らしくって言っても端っこにいるだけなんだけど。それでも、新崎がこれからは別の場所に行くようになったという事実は気楽に過ごせるようにするには十分な情報で、だから早速誰のか知らない机の上に置かせてもらっていたハサミを拾って、黙々と作業を始める。
他も団結を再確認した後に、和気藹々と作業に取り組みはじめた。
最初は勝手に机に物置いて悪いかなーとか思ってたが、俺の机が暗幕の縫い合わせ用の裁縫セット置き場として埋まっているなら、こちらもそれを真似させてもらおう。先人の知恵に学ぶという言葉に習って悪知恵を発揮した結果である。まともに先人に学べる日はいつ来るんだろう…。
翌日になっても雨は相変わらず降り続け、今朝に至っては道のあちこちに水溜まりが現れ、それを回避するちょっとしたゲームをしている気分で登校した。
そう言えば、最近は何やら昔のゲームハードを小型化して販売しているらしいが、下手な最新ゲームよりも昔の方が面白いなんてのは結構あるし、あれは中々にお得だと思う。操作性がーとかグラフィックがーとか気になる部分も出てきてしまうかもしれないが、お値段以上のフレーズはむしろそっちに必要なんじゃないかと思ってしまうぐらいには惹き付けられる物は実際あるし、何より楽しい。けど、昔から楽しんでたポケモンレンジャーの新作は全然出てくれない。
それのせいで漏れた小さなため息をそのままに、雨同様に変わらない仕事である紙切りを慣れた手つきで行っていく。
本当なら肌寒く感じてしまう今の季節の風も、辺りの文化祭張り切ろうの空気で熱されているような気さえする。例えとしては電子レンジとかそんな感じかもしれない。
あ、最近の冷凍のポテトは…
「ね」
「え…あ」
不意に声が掛けられ心中で一人でしていた美味しいポテト談義を止めゆっくりと振り向く。
てっきり矢波先輩がついに来てしまったのかと命がけで向いたが、目の前に立っていたのは全く面識の無い女子生徒。一応同じクラス。
その人が俺の肩を叩いていた。
俺のはてなの浮かんだ顔を見たのか、その女子生徒が扉の辺りを「あれ」と、つんつん指差す。
俺がその指を追ってみれば、扉の前に笠木さんが立って、俺をちょいちょい手招きしていた。招かれるままにそこまで気持ち駆け足で向かう。
「どうも…何かあったんですか?」
「ううん。敵情視察、ってやつかなっ?昨日、ここ人が集まってたでしょ?気になっちゃって来ちゃった」
「はあ…」
ぐーっとクラス全体を笠木さんは見渡した後、こてんと首をかしげた。
「…で陽斗と夏は?」
「あぁ…何か、演劇部に…」
「え。演劇部?」
「劇の主役二人が怪我したみたいで、その代役に、だそうですけど。昨日の人だかりもそれです」
「だ、代役…?」
笠木さんの頭に無数のはてなが浮かんでいるのが見える。
だが、少ししてやっと事情を脳が纏めきれたらしく、けれど自分が出した答えが信じきれなかったのか「えっ?」ともう一度パチハチまばたきされながら聞き返されてしまう。それに俺は頷いてその通りですと答える。
「そ、それじゃあ、もしかして当日はそっちに出るの?」
「…まぁ、そうなりますね」
「わ、私、そんな話聞かされてないのに…!ちょっと来てっ!」
「え」
…屋根はあるが窓の無い体育館までの短い道のりは、冷たい風がそのままに吹き付けるために肌が冷える。
雨で濡れた石畳を越えて、体育館の扉の前で笠木さんは止まり、影からひょこっと顔だけを体育館に出した。
「ほら、灯くんもっ」
「それじゃあ…」
風の直撃で身体を震わしていた俺も、促されるままに笠木さんの下で真似るように顔を出して覗き込んだ。
広い体育館。
急に腕を取られ連れてこられたこの場所。
必要の無い部活は軒並み休しているためか、本来ならば混雑しているその場所も、かなり空いていてそのお陰で、すぐに笠木さんの目的が分かった。
ステージの上。
普段ならばあまり使われていないそこに、体育館全体の照明よりも強い舞台照明がスポットライトのように点いていた。
だから、自然とそこに視線は引き付けられてしまう。
ゆっくりと、淑やかにけれど華やかさも感じる気品に満ちた歩き方。
なびく髪は光を受けて爛々と輝き、周りの視線をその持ち主へと集めさせる。
ドレスを纏った城戸さんは、本物のお姫様だった。
「綺麗…」
ふと漏れた声の正体は笠木さん。
ステージの彼女に目を引かれ、ほえーと声を漏らして虜になってしまっている。
と、そこで音が鳴る。
ステージ下で顧問らしき大人の隣にいたジャージ服の生徒があの、映画なんかで監督のアクションの後に下ろすやつ…あれ…カチンコ、だったような名前の奴を使ったのだ。決して卑猥なものではない。
上にいた笠木さんもそれでハッとして意識を取り戻したらしい。視界の上でフルフル髪が揺れて気になる。
「なんか、休憩時間っぽいね…」
「ですね…」
ステージにいた城戸さんが舞台脇の階段から降りてきた。
そしてすぐにジャージ姿の新崎が駆け寄ってくる。
遠目でも一発で分かる。あれは新崎間違いなし。
二人はあれこれ何かを話している様子だったが、少しして城戸さんが何かに気づいたのか、グッと背伸びをした。
それに続いて新崎も振り返る。
んーっと首を曲げている城戸さんのその先にいるのは俺ら。どうやら気づかれてしまったらしい。笠木さんから「あ…」と声が聞こえた。
「バレましたね…」
「だね…。せっかくだし声掛けてこっか」
俺らが体育館に入ると、新崎がおーいと手をブンブン振って走ってくる。城戸さんもそれに続こうとしたが、服装ゆえに手間取り、結局諦めて歩いてきた。
「秋葉!灯!どうしたんだ?」
「あのね…。それはこっちのセリフ!劇に出るなんて私聞いてなかったんだよ?昨日だってろくに話さずに陽斗、寝ちゃったし」
「いや悪いな…ちょっと疲れててさ」
頭に手を当てて謝る新崎の隣に遅れて城戸さんも並ぶ。
「昨日は特に大変でしたものね。わたくしも、すぐに寝てしまいましたわ」
「それでも一言ぐらい…はぁ」
「あはは…本当に悪い…。でも、みっちり特訓したお陰でそこそこ演技は上手くなったんだぞ?」
「そういう問題じゃ…。まぁ、でも、確かにさっきの夏は…ちょっと凄かった…。ドレスも、似合ってるし」
「ふふん♪あれは演技ではなくわたくし元々の力ですわ」
三人の会話に入れずにボーッと純白のドレスを見ていたが、どうやらこれ、手作りらしい。
近くで見てみると所々に縫い目が見える。随所にある宝石も流石に本物の宝石とかではなく、おもちゃか何かのだろうか。けれど、城戸さんの立ち振舞いと見た目がそこに組み合わさると、まるで本物のドレスのように写ってしまう。ついでにステージの上ならば距離もあるからお客からは完璧にドレスと写るだろう。実際に俺にはそう見えていたわけだし。
ジロジロ見てしまっていたせいか、城戸さんも流石に気づき、「見惚れましたの?」とくすくす笑ってからからってくる。それに苦笑いで視線を反らした。
「そうだ。灯、クラスの方は問題ないか?」
「え。あぁ、問題なし。というか、まだ一日しか経ってないからどうなるか分からん」
「困ったことや必要な物があったらすぐに言ってください。わたくしが手配しておきますから」
「…どうも」
「人手の方なら俺が行くし!頼ってくれよな?」
新崎の笑顔に「あぁ」と適当な言葉を返す。
と、笠木さんが何かに気づく。
「ねっ、夏のその胸のって…」
「ん、どうした?あ、それって…」
「…陽斗、気づいてなかったんですの?」
城戸さんの胸に明かりを受けて輝くペンダント。
それは、新崎が誕生日会の時にあげたイルカのペンダント。城戸さんはそれに手を添えて見下ろし、ふふっと柔らかな笑みをこぼした。
「せっかくですし、文化祭中は付けておこうと思いまして」
「大丈夫なのか校則とか…」
「その時は劇の小道具と言っておきますわ。役に打ち込むために必死なんですと」
「ズルくないその言い訳…?」
「…ズルいと思われても、これは付けていたいんですの」
「そ、そうか…」
城戸さんが微笑んでペンダントのイルカを撫でると、目に見えて新崎がたじろぐ。
ちょっと珍しいそれに、笠木さんがむっと頬を膨らませてぽつりと呟く。
「やっぱりズルい…。あ、そう言えば夏の衣装は完成してるのに、陽斗のは完成してないの?」
「ん、まぁな。夏のは衣装の人が昨日のうちに徹夜で頑張ってくれたみたいだけど、俺のはまだだ」
「そっか。…ちょ、ちょっと見てみたかったな…陽斗の衣装。ちなみに、劇は何をやるの…?」
「シンデレラ、でしたわね」
「し、シンデレラッ!?」
大声で前のめりになった笠木さんに、新崎が少し身体を後ろにのけ反る。
「うぉっ、どうした秋葉…。なんか顔怖いぞ」
「シンデレラ…シンデレラって…」
シンデレラと言えば子供の時に大抵の人が聞かされたであろう有名の童話の一つである。だから、ざっくりとした感じでしか内容は話せないが、確かいじめられていた少女が魔女かなんだったかの力を借りてドレスに身を包み、向かった舞踏会で王子様に恋をされる的な展開だったはず。
12時なれば魔法は解けてしまうからと慌てて逃げたがガラスの靴だけ残して、でなんやかんやで結婚。そんな感じ。
後ろの他の演劇部をちらりと覗けば、該当するようなローブや貴族風の衣装がチラホラいた。
とにかく、本当にざっくりとなら今の通り話せるが細かいところまでは知らない話ではある。
何かしらのシーンが頭によぎっているのか、ぽつぽつうわ言のように言葉を漏らしていた笠木さんだったが、それを止めて新崎を見上げる。
「…ねねっ…その…キス…とかそういうシーンってないよね…?最後とか、で」
「ん?」
まぁ、偏見でしかないが女の子向けの童話と言えば、そういうロマンチックなキスシーンがどの作品にも大抵はというイメージがある。
だから、劇のラストシーンを飾るものとしてそういう話に脚色させられていたとしても考えにくい話ではない。
笠木さんの不安の感じられる言葉、それに新崎は気づくよしもなくあっけらかんに答えた。
「お、おう。まぁ、無かったはずだったけど…。な。夏?」
「えぇ、確かそうだったはずですわ」
「陽斗、絶対に絶対だからね?いーい?」
「…お、おう…?お、俺に言われても…」
指をピンッと立てて言う笠木さんに、少し戸惑った様子の新崎。その横、城戸さんが「わたくしとしては、してくれても良いんですけれど…」と、呟くと、それを一睨みして先を止める。
止められた城戸さんは視線をズラした。
「灯くん、それじゃ帰ろっか。陽斗も夏も劇、頑張ってね」
「おうっ!任しとけ!な。夏?」
「えぇ、もちろん!ですわ!」
ほぼいないも同然だった俺に、新崎が視線を向けてエールなのかグッとガッツポーズを見せてくる。
…エールで良いんだよね?
きっとエール、多分エールだろうからそれに応えて頭を下げ俺も笠木さんに続いた。
体育館から出ればやはり、肌に当たるのは変わらずに体温を食ってくる冷たい風。
それから寒い寒いと身体を震わして逃げ、廊下へと入る。
珍しくそこは静けさに満ちていて、廊下を通る人は一人としていない。
だからその小さな声はよく聞こえた。
「…私がしたかったな」
その言葉が指しているのはすぐに解った。
今持っている想いがどれぐらいかこそ知らないが笠木さんはお姫様に憧れている。
それは端っこの俺でも知っていることである。
劇とはいえ、きっと新崎のお姫様という役を恋敵の城戸さんが演じると言うのには、やはり複雑な感情を持ってしまうものなのだろう。
一人のヒロインとして。
「……」
「ど、どうかした…?あ、い、今の聞こえちゃってた?」
声に反応してそっちに顔を向けてしまった。
「…いや」
嘘ではあるが、だからと本当のことを話して俺が何か出来るわけではない。解決もできないのに手を差し伸べようとしても無駄な押し付けになるだけ。誤魔化すような素振りを見せられれば尚更触れる気は起きない。
いつも通り、主人公に任せるしかない。お腹が痛くなったら正露丸。複雑な感情には主人公。ヤバイ薬みたいな扱いになっちゃうこれ…。
窓の外でぱらぱらと落ちる雨へと視線をはぐらかしついでに移す。
風のせいで窓が水滴だらけ。奥のグラウンドも池みたいに水浸しになってしまっていた。
「な、なら良かった…。あはは…今、ちょっと暗い顔しちゃってたもんね…。夏がやっぱり不安で…さ。切り替えてかないとダメだねっ!」
笠木さんはぺしっと自分の頬を両手で叩いて表情を笑顔に戻す。その笑顔は普段通りの物ではあるが、今の話の流れならば主人公が見れば何か違いに気づく、違和感のある笑顔なのだろう。
けれど、俺はそういう展開だったからという理由でしか気づけなかった。
…廊下を進んでとたとたと階段を上っていく。
そうすると、すぐにでも数多の声が混じった音が耳に届いてきた。自分らのクラスがある階まで上れば、もう俺のクラスは隣にある。
開きっぱなしの扉の前に立つと、クラスの中でまた幽霊が現れているのが覗けた。それ目的か、見かけない顔が出入り口や窓の側で覗いていた。
そして笠木さんもほえーと口を開け、驚いていた。
「わ、あれ凄いね。どうやってるの?」
「城戸さんが持ってきたプロジェクターですね」
「はえー…そうなんだ…。あ、それじゃここで」
「…じゃあ」
「うんっ。無理矢理付き会わせちゃってごめんね?本当にありがとっ!」
にっこりとさっきとは違う、けれど変わらないいつもの笑顔で笠木さんはスカートをはらりと揺らして人混みに消えていった。




