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モブに慈悲はない…?  作者: いす


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75/110

75話目

75話目です

誤字・脱字があったら報告して頂けるとありがたいです

買ってきたものを桜丘先輩がぱっぱと手際よく分けている間、促されるがままにリビングのソファへと俺が腰かけると、隣に矢波先輩がぽふんと座り、その真正面にはテーブルを挟み先程の二人が腰掛けていた。

近くの窓からはより一層黒さを増した雲が空を隠し、しっかりと見てみれば小雨が地面にパラパラ落ちていた。

甘い香りが立ち込める部屋。

そこにいると小さく動くことさえ憚られるような気がして、集まる俺への好奇の視線は息をすることも躊躇ってしまう。

何にも出来ずに視線を床に落としていると、それじゃあと二人の内の背の高い方が口火を切ってくれた。

「まずは、自己紹介からで良いんだよな?あたしは、栗原(くりはら)里見(さとみ)。三年生で、家庭科部に入ってる」

男勝りな喋り方でそう喋り、「で」と言葉を続けておっとりした感じのもう一人に話を渡す。

「私は、佐登(さと)(みやび)。里見ちゃんと同じで三年生。ちなみに家庭科部の部長と他にも委員長もしてるんだ~凄いでしょ♪」

見た目通りの緩やかでほんわかした口調。最後にえっへんと胸を張って誇らしげにアピールした。

この流れで来たならば次は俺だと下手くそな自己紹介のために口を開こうとすると、何故か声は隣の先輩から発せられた。

「この子は二年生の仁田灯くん。前にあったほら、あのプロポーズ事件。その新崎くんと一緒の部活に入ってるの」

「へ~そうなんだ~」

「ほー…新崎って体育祭のリレーで大活躍した奴だよな…ほお…」

「ほーら、里見。灯くんを私怨で睨まない。というか、灯くんだって白組だったんだよ?」

「なーんだ。じゃ、よろしくな!」

「…どうも」

ニカッと新崎ばりに爽やかな笑顔が向けられ、それに対抗して俺も苦笑いを見せる。

どうやら新崎のあの最後の活躍は、白組の一部から中々睨まれているらしい。

それとも、この人が単に体育祭に人一倍の想いを掛けていただけかもしれないが、とりあえず、とばっちりの分新崎を俺も怨んでおく。

日頃の分を含めればこの人以上の私怨なんぞいくらでも湧いてくる。

新崎たちの部活に置かれているお菓子も、最近では俺が余裕に手に入れられるぐらいに冬花ちゃんは新崎にご執心で、そのせいで俺がご愁傷さまになった。

新崎の膝はもう冬花ちゃんの椅子と化していた。

一通りの自己紹介を済ませると、かちゃりと音を立ててテーブルに紅茶が置かれた。

湯気の立ち上る先を見れば、片付けを終えたらしい桜丘先輩が木のトレイに全員の分のティーカップを用意していて、目が合うと小さく微笑みかけられる。

「ふふっ、どうぞ。後でケーキも食べてもらうから、程々にね?」

「あ、ありがとうごさいます」

「どういたしまして」

特に問題のないはずのやりとりにも、何処か気恥ずかしさを感じて目線を外す。

空いた桜丘先輩の視線は矢波先輩が覗き込んで自分に向けさせる。

「あ、春。ケーキってどれぐらい出来た?」

「えーっと、とりあえず、里見ちゃんと一緒に作って三種類、だね。みやちゃんに味見もしてもらったから、味も問題ないと思うけど…」

「みーやの味覚は信用出来ないんだよなぁ…」

「えーっ…里見ちゃん酷い…むぅ」

ボーッと流れていく話に耳を傾けていると、無性に俺いらないんじゃないという気持ちが湧き上がってくる。

けれど、鞄は変わらず返してもらっていないし、外もぼちぼち強さを増して小雨から雨へと形を変えてしまった。

ここから家の距離を考えれば、傘無しでの特効は気が引ける。何より、携帯や財布だってあれにはある。

会話に割り込むようにして刺さる雨音が、何とか気持ちを落ち着かせる。

ていうか、今思えば主人公に毎度のようにあるヒロイン全員集合って、なんであんなに主人公のほほんとしてられるの。

普通、今みたいに女の子に囲まれたら気まずさやなんやで肩身が狭くて何処見て良いのかさえ分からなくなって自分の手をひたすらに見つめているというのに、これが新崎だったらヒロインをドキドキさせるとかいう小技も披露するから凄いし見直す。

ヒロインの代わりに俺がドキドキしていると、栗原先輩が立ち上がる。

勝手に耳に入ってきていた話からするに、そろそろ試食タイムらしい。

エプロンがそのままだった栗原先輩におーと嬉しそうに佐登先輩もパチパチ拍手をする。矢波先輩は…あれ?

見ていないもう片方の手に違和感を覚え、ふと見てみれば矢波先輩の手がふにふにぐにぐに俺の手を押していた。

「なにしてるんですか…」

バッと全速力で引きたくなる手をそのままに、まずは事情を把握するため聞く。

「さっきまで頑張って運んでくれたから僕が癒してあげるの。ほーれ、ぐにぐに~♪…気持ちいい?」

「い、いや大丈夫ですから…」

実際痛みなんぞこの息苦しさに比べれば優に耐えられるものである。拒み、だからとマッサージされている手をゆっくり引こうとしたが、途中で腕を掴まれ引っ張られまた元の位置へと戻される。

柔い指があちこち触れて、手の痛みは和らいでくれるが代わりに心が痛む。

イヤー!とか叫んで逃げたくなるが、諸々含めて我慢し、ジッと満足してくれるまで身体を止める。

しばらく右手を預けていると、やっと解放され、そしてまたすぐに今度は左手を差し出せと言ってくる。

右の頬をぶたれたのならという教えに習い、左手を素直に差し出すとよろしいと満足げにまたぐにぐにぐりぐり指で押される。

そんなことをやっているとケーキを取りに行っていた二人は帰ってきて、トレイを持った栗原先輩が訝しげな目で当たり前ながらこっちを見てきた。

「なにしてんの…あんたら…」

「頑張ってくれた後輩の手を(いたわ)ってあげてるの。

ふふん、僕は優しい先輩の見本だね♪」

「どっちかって言うと無理矢理絡んでる先輩に嫌々付き合ってあげてる後輩の図なんだけど…」

「それは里見の主観。灯くんは今、とっても癒されているに違いない。うん、絶対そう、だよねっ?」

勝手に決めつけられ、ははは…と乾いた笑いが溢れた。

癒されているような傷つけられているような現状を諦めていると、目の前のテーブルに三種類のケーキがカタリと置かれた。

定番のショートケーキにモンブラン、後はタルトの順。

いつから作っていたのかは知らないが、それでも店並みの出来なのは見て分かり、向かいの佐登先輩はほえーと瞳を爛々と輝かせていた。

「まずはこの三つ。みーやと芽野のもすぐに持ってくるから、とりあえずは仁田から」

「…どうも。あの、先輩、手を…」

「…しょうがない。分かったよ」

矢波先輩の不満げな呟きを残して、押されていた左手もやっと解放される。

奥でまたケーキの受け渡しが行われているのを横目に見つつ、ケーキの脇に置かれたフォークを手に取る。

佐登先輩の方は自分のケーキがまだかまだかとワクワクしていて目線が外れているが、矢波先輩にひたすらに見つめられてて食べにくい。

イチゴが混ぜられているのか、ピンクに色づいたクリームとふわふわのスポンジをすくったものの、その先に移れない。そのまま固まっていると、矢波先輩の顔が覗き込んできた。

「…食べないの?」

「…いや、見られると…ちょっと」

「あ、ごめんね。感想が早く聞きたくってさ」

ぷいっと視線を外してくれたが、瞳はちらちら興味深そうにこっちを見てきて、気まずいことに変わりはないが何とかゆっくりと口に運ぶ。

酸味の効いたほんのり甘いクリーム。既製品並みかそれ以上に美味しく、正直、感想が美味しいの一言に尽きる。

後味もスッキリ消え、すぐに次の一口に運べる。

「どう?」

「凄く美味しいです…ぐらいしか言えないんですけど」

「む、それだと困るなぁ。その感想なら雅から何回も聞いたし…」

矢波先輩の視線が目の前の丁度運ばれてきたケーキを食べようとしている佐登先輩に移る。俺と同じようにクリームをたくさん巻き込んでスポンジをすくい、それをおもむろに口へと運ぶ。

そして何度か口をモゴモゴさせると頬に手を当てて表情を幸せで存分に緩める。

「おいし~♪んふふ~♪」

「…ね?雅、ほとんど全ての料理の感想があれだから」

「そうなんですか…」

「だから、他にもっとマトモな感想とか、気になるところとか無い?クリームの甘さとか」

もう一口、ケーキを口に運ぶと、栗原先輩が矢波先輩の分を運んでくる。

「仁田、どうだって?」

「んー、今のところ雅と同じー」

「…ま、仁田も別にプロとかじゃないんだし、変に期待はしなくても良いだろ」

そう言われて気が楽になる。

期待をされてないと教えてくれれば、人はかなり気楽になれるものだ。だからか、今度は味がはっきりと緊張に隠れることなく分かった。

「でもなー…どう?」

「もう少し甘くても…」

所詮主観でしか無いが、頼まれていたマトモな感想という点に関してはクリアできたと思う。

矢波先輩も満足してくれたのか、ほーと声を漏らして自分もとショートケーキを食べる。

「芽野も同じ?」

「…うん、一回試してみても良いかもしれないね」

「はぁ…やっと参考になる意見が聞けた…。…ちなみに、みーやはモンブランどんな感じ?詳しく教えて?」

詳しくを強調して尋ねたが、返事はほんわかとした笑顔。

「…え~?えへへ~♪おいしいよ~♪」

「…そっか。はぁ…ありがと」

いつの間にかショートケーキを食べ終え、モンブランをほうばっていた佐登先輩がにっこり緩んでとけた顔を見せる。確かに、感想としてはろくに変わっていなかった。

栗原先輩が肩をガックリ落としてまたケーキを切っている桜丘先輩の元へと戻っていった。

その後、栗原先輩も試食係として参加し、ちょっとしたパーティのような雰囲気を出しながらも、サプライズ返しのための準備は進んでいく。

ひとまずの三種類を食べ終えると、買った材料を先輩たちが確認し、あれやこれやと作戦を練ってキッチンに調理器具が積まれていく。

てっきりもう帰って良いのかと鞄が返却されるまでボーッと待っていたのだが、全然返してくれる気配はなく、奪い返すというこの場に合わない突飛な行動を起こす気にもなれず、ソファで佐登先輩とのんびり紅茶を飲み呆けていた。

一個のケーキを作るだけでも、それなりの時間は掛かるようでさっきまで外の天気が雨から大雨へとまた形を変えていたのだが、次の試作が出てくるまでには雨へとまた逆戻りしていた。

「…………」

「次のケーキ…どんなのかなぁ…ワクワク…」

キッチンに期待の眼差しを向ける佐登先輩。もうかれこれ二時間ぐらい経っているのだが、この空気に俺が慣れることはもちろん無く、ソファにめり込む勢いで身体をもたれていると、急に足をなにかに叩かれた。

「な、なに…!」

ビクッと身体が跳ね、叩いた原因を見つけようとすると、真っ白い塊が俺の足元で蠢いていた。それにヒッと身体を後ずさりさせてしまう。

「あ、にゃんこだ~♪」

俺の奇妙な跳ねが横目に入っていたのか、佐登先輩の瞳がこっちに向きそれを抱き抱える。

抱き上げられそれが嫌そうにうねうね動いていたが、上に持ち上げてくれたお陰でその顔ははっきりと見えた。

モフモフの真っ白い毛に露になっているピンクの肉球。

しっぽがゆらゆらメトロノームのように、しかし不規則に左右に揺れ、丸い瞳は俺を見てシャーッと威嚇していた。

「…………」

「あ、このにゃんこね、芽野ちゃんのお家で飼ってるにゃんこなんだ。モフモフで可愛いでしょ~♪」

「そ、そうなんですか…」

「ん、どうしたの?灯くん…って、あれ?にゃんこ、いつの間にここに…」

話していると矢波先輩がオーブン用のミトンを取りながら待っている俺らのためか、クッキーの入ったカゴをテーブルに置いて話に入ってくる。

どうやら本当に飼い主らしい。

猫も嬉しそうに瞳を向ける。

「なんか叩かれたんですけど…」

「あー、灯くん僕ん家来るの初めてだもんね。敵だと思われたりしたんじゃないかな?

でも、さっきまで探してもどこにも居なかったのに…それともこの匂いに釣られてきたの?」

矢波先輩が猫の頭をぺしぺし叩くように撫でると、にゃんと言う解らない答えを貰った。

そして俺の事を指して「怖くないよ~」となだめてくれる。

その奥、小さなこの騒ぎに桜丘先輩達も気づき、栗原先輩の方が猫に触りたそうに手を震えさせながら荒い吐息をはぁはぁ漏らしていた。

俺がその事に気づくと、矢波先輩も視線の先を追って、震える栗原先輩にはぁと呆れたため息をこぼした。

「前に、里見に嫌という程に撫でられてから、里見が来る日は絶対に現れなくなったんだよね…。家の中にはいるはずなのに…上手く隠れちゃって」

「でも、今日は来ましたね」

「んー、灯くんの敵っぷりが凄かったんじゃない?」

「…そうですか」

格段動物が嫌いなわけではないし、むしろ逆に好きなのだが、動物は俺を好きになってはくれないらしい。

まぁ、悪役小物的な立場なら完璧にこなせそうだし、矢波先輩の言い分も分からなくもなかった。

遠くで哀れむような仲間を見るような優しさに満ちた視線が俺に飛んできていた。

「にゃんこ、暇なら雅と灯くんと遊んでてねー」

「…名前、にゃんこなんですか?」

聞くと、矢波先輩はそれじゃあと指をピンと立てた。

「素直で良いでしょ?嫌なら、今日からにゃんこは灯くんって名前にするけど。ん~♪灯くんは可愛いなぁ♪うりうり~♪」

「…ごめんなさい」

「よろしい。あと、里見。これ以上はこっちに来ないでね。にゃんこがまた逃げちゃうから、そこでストップ」

猫のお腹をモフモフしている矢波先輩を見て、足を震わせながら我慢できないと接近してきていた栗原先輩だったが、そう忠告されぴたりと止まる。今の甘い空気に似合わない苦渋の顔が浮かんでいる。

「そん…な…」

辛そうな声は雨の音をかき消してはっきりと聞こえた。 


また、何種類かの試作を食べさせられそろそろお腹が一杯になりかけた頃、調理と片付けを同時進行で行っていたキッチンが片付けの一つに纏まった。つまり、そろそろ帰らせてくれるのだろうか。

期待が湧いてきてボーッと猫に威嚇されながらキッチンに目線を置いていると、最後の桜丘先輩が洗い終えたお皿が丁寧に拭かれ、キッチンを照らす明かりを反射してキラリと光る。

「…うん、これで完璧だね」

「はぁー…疲れたー…」

グーッと栗原先輩が身体を伸ばし、それに「お疲れさま~」とゆったりした声で佐登先輩が猫に拍手をさせる。

それににやけ顔で栗原先輩がふりふり手を振って、矢波先輩がこっちに向かってきた。

「ケーキの試食、手伝ってくれてありがとね。はい、鞄」

「どうも」

「雨もちょっと弱まってるし、帰るなら今の内じゃないかな?」

「…帰って良いんですか」

期待していたとは言え、その通りになると少し信じられなくなる。本当に?と、疑うような声音が出てしまいそれに矢波先輩こくりと頷いて返す。

「うん。流石に時間も時間だしね。それとも、まだ僕と一緒にいたい?仕方ないなぁ…夕ごはんも食べてく?」

「…いや、良いなら帰りますけど」

普段通りのからかうようなにやりとした笑顔に、首をブンブン振って帰る意思を伝える。鞄に入れた折り畳み傘も取ってその意思をより強く主張しようと鞄を開くと、見慣れないラッピングされた袋が見え、鞄からつまみ上げる。

「これは…」

「ん、あ、それおみやげのクッキー。お家に帰ったら食べてね?」

「いつの間に…」

途中で出されたのとは形が違うクッキー。一応鞄はちらちら確認していたのだが、仕込まれたタイミンクが分からない。だが、まぁせっかくの好意だしと砕けないよう傘を取り出し、余ったスペースに考えて配置しておく。

「…ん、あれ、仁田帰るのか」

「え、あ、はい」

「にー…灯くん今日はお疲れさま。ケーキとかたくさん食べてもらったけど、晩ごはんとか大丈夫?」

「…まぁ、家までそこそこ距離もありますし」

それが十分な運動になると伝えると、「良かった」と桜丘先輩が微笑む。

「じゃ、ちょっと灯くん見送ってくるから。…里見、動かないでね」

「ね…猫ぉ…」

「じゃ~ね~♪」

一時俺も出していたような悲痛な声と、おっとりした声が見送りとして届く。

猫も佐登先輩に腕を捕らえ、ブンブン左右に嫌そうに振ってくれていた。

リビングを出て、短い廊下を渡り玄関へはすぐに着く。

扉の先、時間も時間故か外に外灯が灯っているのがぼんやりと写っていた。

「それじゃあ…まぁ、今日はありがとうごさいました」

端っこに置いた靴に足を入れ、指を突っ込んでしっかりと履く。

「ううん、こっちこそ本当にありがとね。にーにゃんくんが手を貸してくれたんだし、絶対、サプライズ成功させるね!」

「おー、珍しく春が張り切ってる。これは、失敗出来ないね」

「まぁ、頑張ってください」

「うんっ!」

「雨、気を付けてね。風邪なんか引かれて荷物持ちを休まれたら困っちゃうし」

「荷物持ち…?」

桜丘先輩がこてんと首をかしげる。あぁ…やっぱりダメなんですね…。

「灯くんが自分から文化祭の手伝いがしたい、って言ってくれてね~んふふ~♪」

「やーちゃん、また無理頼んだんじゃないの?」

矢波先輩の上機嫌をたしなめるように桜丘先輩が言う。

が、機嫌が戻ることはなく本当だってとその時の事を話し出す。

「手伝いがしたいんです!って、元気良く言ってくれたよ?」

「捏造じゃないですかそれ…」

「もう…。って、ここで長く話すのもあれだよね。じゃ、また休み明けに会おうね」

「風邪、さっきも言ったけど本当に気を付けるんだよ?」

「はい」

小さく頭を下げて、ゆっくりと玄関の扉を開ける。

矢波先輩と桜丘先輩が笑みを見せて手を振ってくれる。

女の子に見送ってもらえることに、なんとも言えない気分を持ちながら、それを見抜かれないよう、傘を開いてすぐに扉を閉めた。

落ち着いてきた気持ちのように、雨もしとしとと静かになるとかそんなことは全然無く、むしろその勢いは増しているように感じ、足を置いた道路にも所々水溜まりにコンクリートが覆われていた。

見上げた街灯にも雨が水滴として残り、灯りがぼんやりと幻のように揺らめいていた。

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