73話目
73話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
体育祭は後半へと問題なしに進み、流れとしては白組優勢…だった。序盤で上位を大量奪取していたお陰もあってか中盤、赤組に徐々に巻き返されつつも、それでも点差はそこそこについていた。
しかし、後半へと移ると差のあった点差はみるみる埋まっていき、グラウンドに流れる空気はその影響で緊迫した物へと姿を変えた。最下位を取ろうものなら一部から俺以上に睨まれてしまうぐらいには息苦しく、本当に序盤で片付けおいて良かったと安心する。
白組の自分の席にろくに座っていなかったのは案外、良かったことかもしれない。
こうして外の立場から見ていると、そう言ったギスギスの他にも色々あれこれ見えてくる。双方の団長を除いて、主に誰が学年丸ごとを引っ張っているのか、ごっちゃごちゃに置かれた席なんかにも、実は意中の相手らしい人の隣だったりと明確な意味があったりする。主人公のお膳立ての裏でも、細かい所では皆大きく青春しているらしい。
まぁ、流石に胸揉んだり飛び付いたりはしてないけれど、一丸にはなっている。胸揉むの青春じゃない気もするけど。あれ普通ビンタじゃなくて通報だと思うんですよ…。
でも、そろそろそんな賑やかな生徒たちの中に俺も向かいたくなってきた。理由は単純に、ずっとここで立ちっぱなしだったから足が痛いのだ。
あしたのジョースタイルで休憩を取りたい。
一は一通りの競技に出終え委員の仕事に、山中は何故かそんな一のお手伝いへと向かった。
だから、俺が休むのを辞める理由は現れない。
ジリジリ痛む足で席へと歩こうとしたその瞬間、背中にツンツンつつくような感触が現れた。向けば、先輩コンビがニコニコ笑っていた。
「やっほ、灯くん」
「にーにゃんくん、ちょっとぶりだね」
「どうも」
驚いてピクッと跳ねた身体を正して、変わらない普段の挨拶を言葉に出す。しかし、そんな俺の小さな誤魔化しが面白かったのか指摘こそされなかったが、矢波先輩の口の端が少し緩んでいる。
「にーにゃんくんは一人で観戦中かな?」
「山中達は委員の仕事があるみたいで」
「へー、そっか。僕たちの方は逆に一通り仕事が終わったから休憩中。で、なんだから君に会いに来たの」
「…はぁ。まぁ、お疲れさまです」
確かに、先輩コンビのどちらも前まで持っていた救急箱を持っていない。保険委員として分かるのは腕章だけになる。というかそれよりも足が…。
俺の苦悶の表情に気づいてくれたのか矢波先輩があ、と口を開けた。
「…そうだ、君ささっき山中ちゃんと一緒に何か歩いてなかった?保健室から偶然見えたんだけど」
「そう言えばそうだったね。そのすぐ後にも秋葉ちゃん達も出てたし、どんな競技だったの?」
二人が首をかしげる。
俺の足の痛みに気づいてくれた訳ではなく、聞きたかったのは借り物競争の事だったらしい。素直に事情を伝える。
「借り物競争で、です」
「ほー、借り物競争。それで君は山中ちゃんに借りられたと」
「まぁ、はい。新崎達もそれで」
俺がこくりと頷くと「へーそうだったんだー」と、桜丘先輩が納得する。結局、新崎達はゴールテープを切った後、遠目で詳しい会話こそ聞けなかったが、いつも通りなにやらイチャイチャしていたのははっきり見えた。多分、お題が何なのか新崎が紙を奪おうとしていたのだろう。なんか、追いかけっこみたいなのをしていた。…おかしい、こっちはゴミの押し付け合いだったのに…。
扱いの差を思い返して苦い顔していると矢波先輩から不意に疑問が飛んできた。
「で、なんのお題だったの?」
「新崎たちのですか?」
「ううん、君と山中ちゃんの方」
「…先輩、です」
別にやましい内容でも無いのに何故だか話すのに小さな間が出来てしまう。それが無意識の内の自己防衛だったと気づくのとほぼ同時に、矢波先輩はにやりと笑う。
「ふーん…君は先輩を理由にするとすんなり動くんだねー。今度使ってみようかなぁ」
「と、時と場合によると思いますけどね…。そ、それに、俺がそれ知ったのゴール後ですし…」
俺のちっぽけな反論も尻すぼみに消え、代わりにもうと桜丘先輩のたしなめる声が聞こえる。
「やーちゃん、無理ににーにゃんくんを引っ張り回しちゃ嫌われちゃうよ?」
「灯くんは優しいから平気平気。ねー?」
矢波先輩が笑顔で首をこてんと曲げて同意を促してくるが、こちらは苦笑いで対抗する。が、効果は無いらしい。
笑顔で乗りきられ、なんか優しい人という扱いで話を括られる。
「あ、ねぇにーにゃんくん。この後ってどうするの?ここにずっといる?」
「いや…まぁ、ここにずっといてそろそろ足が痛いんで戻りますけど…」
本来の目的を返事ついでに再確認して、だからもう解放してくださいと暗にお願いする。
「あ、もしかして休む途中だったのかな?邪魔しちゃってた?」
「いや、まぁ大丈夫ですけど…出来ればそろそろ」
「そっか。それじゃあやーちゃん。私たちはここら辺で保健室に戻ろっか?」
ごめんねと言葉が続き、桜丘先輩が矢波先輩に尋ねる。しかし、矢波先輩の口はそれを不満だと捉えてぶすっと尖る。
「むぅー…仕方ないなぁ。灯くん、もし足の痛みとかが悪化したら、すぐにでも僕たちの所に来るんだよ?いーい?」
「…了解です。でもあの、なんか今日はやけに素直に引き下がりますね」
いつもならばあれこれ理由を付けて、こっちの言い訳を壊してその上で無理矢理付き合わせると言うのに、こんなにあっさりと引き下がられるとどうしても疑問に思ってしまう。俺がそれを解消するために聞くと、矢波先輩がニヤニヤし出す。
「んー?もっと僕に構ってほしかった?」
挑発するような、からかうようなそんな感じの声音。多分、そんな感じというよりも実際そうなんだろう。
「…違います」
対抗して自然と目付きが鋭くなっていたかもしれない。矢波先輩が文句を言いたげな俺を見てやっと答えてくれた。
「まぁ、僕たちは今一応保険委員だからね。無理に我慢させて怪我とか倒れられたりとかそういうの君にさせたくないから」
「…そ、そうですか。なんか…すみません」
「うん、そうなの。まぁ、暇になったら保健室に来てよ。話し相手として僕たちでコキ使ってあげるから♪」
「いや…」
偽り無くそうされそうな感じがして、顔を背けて断る。
そんな俺の反応に桜丘先輩のふふと小さく微笑むのが視界の端に見え、じんわりと身体が汗ばむ。服を抜けていく風が冷たい。
「そういうことだから。それじゃーね、灯くん」
「はい。…先輩達も怪我とか気を付けてくださいね」
「おや、珍しいね。灯くんがそんな事言うなんて」
「じゃあ取り消しで良いですよ…」
ちょっと勇気を振り絞ってい言ったのに、呆気に取られた表情では居心地が悪い。
取り消そうとすると、ううんと矢波先輩は首を横に振る。
「いーや、灯くんからの気遣い。ちゃんと気を付けておくよ。」
「ありがとね、にーにゃんくん」
「…どうも」
手をフリフリ振って、先輩達は校舎の方へと揃って向かっていった。それにいつも通り少し頭を下げて、届いているか分からない消えかかった声で言葉を漏らす。
まぁ、とりあえずこれで本当に俺の休憩を止める人はいないはず。
ザリザリ砂を鳴らして、最後の主人公の大活躍を見届けに行く。
体育祭もついに最終競技。
この高校においては組対抗選抜リレーが毎年のトリを飾る。一年、二年、三年、から両組二人ずつ選ばれ、六人対六人で決着をつける。コースはもちろんグラウンド。
五人がまず半周をし、最後にアンカーが一周をする。
高校生の、それも健脚を持つ選手にとってはいささか距離が短いような気もするが、だからこそその場は盛り上がるというもの。ダラダラ時間を掛けられるより、パッとした方がなんか盛り上がるのだ。
去年に至っては偶然にも、両組の団長がアンカーとなり、とてつもない盛況を呼んだのは未だに記憶にはっきり残っている。
そしてなによりも、この組対リレーはトリもあって得点がかなり高い。流石に、これに勝てば百万点みたいな最近でもあまり見ない冷える空気を作ってしまう点数ではないが、一歩手前まで詰められてしまった今の得点差では、リレーに負ければそのまま赤組に逆転を許してしまうことになる。逆転するということはあちらからすれば大盛り上がりの展開なのだろうが、逆転される立場からすれば、かなりピリピリしていて肩身が狭い。一部の人は序盤の得点差に油断や怠慢をかいていたかもしれない。だから、今ここで相手に勝たれてしまうのはその隙につけ込まれてしまったようできっと気分が悪いのだ。まぁ、最下位取った人が言うことじゃないと思うけど。ごめんなさい。
大まかな白組の状態を確認したところで、グラウンドにトリを飾る選手が入場してくる。ほとんどの奴が面識すら無いが、その中、二年生の赤組の枠に僕らの主人公である、新崎陽斗がやっぱり混じっていた。そして、そうならばこのリレーの結果は出来レースに等しい。
俺の中で応援が喧騒へと扱いを変え、元気もやる気もみるみる周りに吸われて、他人の活力へとなっていく気分。
ふと、俺と同じようなやる気の薄い奴等を探してみれば、先程までは席にもたれて「だりー」とか大きな欠伸を目立たせていたのだが、この空気感にやられたのか、熱心とはいかなくてもまるで好きな子でも見るような態度で、ちらちら興味ありげにグラウンドに視線を運ばせていた。
となると、この組対リレーは今ほぼ全ての生徒たちから大なり小なりの期待を受けているようで、それが半分裏切られると思うと空しさはそこそこにある。でももう半分の期待は叶うわけだし、仕方なし。皆で劣等感感じようぜ!
と、誰も乗ってくれなさそうな勧誘を心の中でしていると、出走体勢が整ったようで、枯れた声の方ではないもう一人いたらしい実況が、興奮を煽るような声を上げ始める。
『さぁ…最初は勢いを掴んでいた白組を赤組が必死に追いかけ、ついには目の前までたどり着く事が出来ました…最後に優勝へと続くゴールテープを切るのはどちらか!』
熱を帯びたその言葉は全体をヒートアップさせるには申し分無い声量と内容で、俺の体力がズルズル持っていかれるような感覚がより強まる。
この言葉が、この場所が、この状況が、この空気が、全てが彼のキャーカッコいい!のためにある、そう考えてしまうとどうしても気分は落ちてしまう。何度も見てきた場面なのに慣れる事は出来たとしても染まる事は容易に出来ない。元々、高校事態の浮かれた空気が苦手ということもあるし、それを増大させたラブコメ主人公なら尚更。
そしてその理由が単に妬みなのだからみっともないしカッコ悪い。主人公になるどころか人としてアレかもしれない。
ボーッとしていると突然聞きなれたなにかが弾ける音がして、ハッとなって顔を上げてみればその音の正体はピストルの空砲。
どうやら最後の大舞台が始まったらしい。
さっきと同じ言葉の応援が周りから飛ぶが、その声の大きさは違い、誰しも周りと争っているかのように声を張り上げて勝利を呼び込もうと頑張っている。
実際のレーンの方を見れば、もうすでにバトンタッチの直前。一人目が終わり、二人目へとバトンが繋がれる。
今のところ一位を持っているのは白。全然所属の部活とか知らないかので流石も何も言いようがないが、とにかく赤を離して距離を遠ざける。しかし、赤も負けじと二走目が駆けていく。
アンカーというトリのトリを任された新崎は新崎で特に緊張はしていないらしい。
冷静に事を見届けながら、足を伸ばしてきっちりウォーミングアップをしていた。
と、そんな新崎と何故かパッタリ視線が合った。それはもう運命的に。
どう反応して良いのか分からず、しかし、視線も合ってしまった以上、なにかジェスチャーでもした方が良いのか悩んでいると、新崎はニカッと笑い、作った拳をグッとこっちに向けてくる。
「………」
負けないとかそんな意味だろうか、適当に小さく頷くジェスチャーを返した。
新崎の勝利宣言を受け取っていた間に、リレーのバトンは一気に進んでいた。
第四走目の半分まで突入していたリレーは、白組リードのままで第五走に引き継がれる。これまた全然知らない奴なので何も言えないが、図体からして三年だろうか、かなりの速さで駆けていく。が、赤の五人目はそのスピードよりも速いらしい。まるでこの体育祭のように、離れていた距離をだんだんと埋めていく。その光景に、誰かが息を呑む音が聞こえた。
そして、アンカーへ。
両者のバトンはつっかえることなく無事に渡され、そうなれば決着は実力勝負で決まることと本来ならなる。が、白組の彼の相手は主人公。
実力だけでなく、未知のパワーがバックについている。
半周へと至るまでこそ、これまでの分のアドバンテージで距離を離していたが、思っていたよりも五人目が活躍していたのか、新崎の走力なのかもう残り半分に入ったところで、差はほんの少しだけになり、それを実況席が大きく声に出す。
けれど、白も白で選ばれたアンカー。結構な走力で追い抜くことは出来ずとも追い抜かれることもされず、これが普通の勝負だったならば手に汗握る戦いだったことだろう。
ついに、最後の直線。
と、その瞬間、聞き覚えのある声が歓声の隙間を突いてグラウンドに響く。
「陽斗っ!」
…その声の主は誰だっただろうか。
城戸さんか、笠木さんか、それを判断する前に止まった辺りの歓声が動き出し、思考を遮る。
もしかしたら、あの声は二人一緒だったかもしれない。
もしくは、見落としていた冬花ちゃんだったのだろうか。
ヒロインから名前を呼ばれたことに、新崎も気づいたのだろう、ピクッと身体が反応し俺にさっき見せたあの主人公の笑いが遠目に覗けた。ならば、もう起こる展開は揺るがない。
ゴールテープを前にほぼ同じ速度でアンカーは駆ける。
テープを切る一瞬に、まるで辺り全体がスローモーションの用にゆっくりになり、結果ははっきりと見えた。
一歩の差。
二人同時ではなく、主人公一人で、優勝へのゴールテープは切られていた。
「あと一歩だけだったんすけどね~」
先程まで熱気と太陽に覆われていたグラウンドはそのどちらもを失って、代わりに風には冷気を、空には月が静かに漂っていて、前のこの時間帯と比較してもう夏は終わるのだと強く体感する。そして、静かなお陰であーあと呟くような一のその声はガシャガシャパイプ椅子を畳んでいても勝手に聞こえてくる。
と、その呟きに辺りの冷気を含んだような冷たい声が割り込んできた。
「…それよりも、どうして私たちが後片付けを手伝わされているのか、詳細を教えて欲しいんですが」
出どころは盛り上がりの元凶となったゴールテープを収納している山中。地面に何度も落ちていたせいか、テープには砂が付いていてそれを一度パラパラ払って段ボール箱に入れていく。
彼女の発したその話の内容は確かに俺も聞いておかなければならない内容で、体育祭が終わるや否や腕を引っ張って片付けを手伝わせてきた一を手を止めて視線を向ける。すると、彼はううと唸った。
「い、いやぁ…なんか明日の天気が雨らしいんすよ…。だから、今日中にほとんど片付けないとって…だから…折角っすから?」
「折角ってなんだよ…」
まぁ確かに、その雨雲が繋がっているのか空に流れている雲は真っ黒。そのせいで校舎もほとんど人がいないのに蛍光灯で廊下や玄関がライトアップされていた。だからその漏れる光で作業に大きな支障は無い。しかし、本来ならばまずその作業すら無かった筈なのだ。
でも、俺も体育祭ではほとんど休んでいたに近いし最下位だしで、強く文句が出てこない。代わりに一を強く睨んでおく。
「全く…いっつも面倒を…」
「あはは…申し訳ないっす…」
「そういう割には真面目に働いてるよな…」
不満を露にしている割には、テキパキ小道具を片付けていく山中。それを指摘すると、こほんと咳払いをされ、それはつまり触れてほしくないのだろう。話を切り上げ畳んだパイプ椅子を纏め、近くに置いてあるパイプ椅子専用の台車によいしょと乗せる。
まぁ、でもそれほどこの後片付けには時間は掛からないだろう。どうやら体育祭担当の顧問が兼任している部員も、テントの解体を手伝ってくれているらしい。多分、本来は手伝う気なんてさらさら無かったのだろうが、よくある部の顧問から命令されたから仕方なくだろう。
それもそこそこの人数。申し訳ない感じもするが俺は悪くないし是非とも頼らせてもらうことにする。これぞオールフォーワン。良い言葉。
運んだ椅子を落ちないよう、細かく調整していると遠くから「後はこっちがやっておくー!」と、間延びした声が聞こえてきて、見ればどうやらそれは俺を指しているらしい。テントの解体に混じっていた顧問がこっち辺りを見て叫んでいた。
それに了解ですと頷き半分おじぎ半分で頭を下げてそこから離れて、山中達の元へと帰る。
「なぁ、俺ってもう帰って良いの」
「他にやることないんですか?」
「あぁ、なんか誰かが引き継いでくれるらしくて」
知り合いがせっせと働いているのに、何も言わず帰るのは居心地が悪い。せめて断りぐらい入れて帰ろうかと言葉を続けようとすると、それを割り込んで「それじゃあ」と山中が近寄ってくる。
「これ、運んでください」
「え…」
ズシンと手にいつぞや俺が運んできたあの段ボールが乗っかってきた。どうやら、今まで山中が片付けていたのはこれだったらしい。しかし、片付けていたのだからこそ山中が運ぶものじゃないのと疑問を向ければ、山中の視線が反れて一に移る。
俺も見れば、ついさっきまでブンブン振られていた赤組の旗を一が首をかしげながらパタパタ纏めていた。
何やら固定の折り方でなければいけない様子。用意された箱に一度は入れるものの、膨らんでしまい蓋が閉まらずにうんうん頭を抱え唸っていた。
「はぁ、私、一の手伝ってきますので」
「…あぁ」
「あ、それとこれ体育館と倉庫の鍵です。終わったら教務室の方に返して置いてください」
チャリと金属の音を立てて、箱の上に二つの鍵が纏められたホルダーが置かれた。
それを回収しようにも両手が塞がっていて回収できない上に、案外良い感じにバランスを保っていたので、そのまま黒に染まった土の上を歩いていく。このまま体育館へと直進しても良いのだが、途中には作業中の委員がちらほらいて、それを邪魔をするのも何だしと遠回りながら一度校舎へと向かう。靴を履き替えるついでに鍵も回収しておけると考えれば損はない。
普段は賑やかを体現したような校舎だからこそ、人が消え静寂に呑まれたそこはいささか不気味に見えた。
…不気味とか何とか考えてしまったせいで、廊下を一人歩いていると少々辺りを過敏に警戒してしまう。てっきり廊下もグラウンドからは見えないだけで人の往来はそこそこあると考えていたのだが、そんなことは全然なく、振り向いてみても人の気配はまるで無く、しんと静まり返っていた。夜の学校なんて言うのは怪談話において定番中の定番で、暗闇に一人座る生徒だとか、人体模型が動くだとか、千差万別で、けれど根も葉も無いのがほとんど。がしかし、それが根拠も何もない作り話だと分かっていても怖がりはそうは簡単に治ってくれない。
ましてや、俺みたくボーッと考え事を頻繁にしているとちらっと何かを見てしまうだけで急速に頭が働いて、結果自分の考えでちょっと怖がってしまうなんてことも時にはある。
自分の臆病さを再確認していると、ふと一階と二階を繋ぐ階段からかつかつと靴が音を鳴らすのが聞こえた。
え…嘘でしょ?冗談でしょ? と、俺の歩みが遅くなり段ボールを盾にすっと身構えてしまう。でも、そういう話をしているとそういうのが集まってくると言うのは有名な話だし、あ、でも話しては無いや。というかむしろ、今のが口から出てた方が一層不気味だし、それを剣に張り合ってしまおうか。何か行ける気がする。
役に立たない剣と重い盾を持ってその靴音に注意を払い、恐る恐る慎重に階段の方へと歩んでいく。廊下の配置上、体育館へは真っ直ぐ進まなければならず、引き返すにしても時間が掛かる。
覚悟を決めて進んでいると、その靴音が二人な事に気づき、ついでに話し声も聞こえてきた。それはやけに聞き覚えのある女子二人の声。
もしかしたら俺は幽霊よりも怖いものにエンカウントしてしまうのではないかと、身体を震わすとその音の主が階段を降り終え、正体を現した。
「お、灯くんだ」
「あ、本当だね」
先輩コンビが階段の最後の二段を一気にタタンとリズム良く降りてくる。体育祭中に付けていたあの腕章は見えず、保険委員から解放されたのが分かった。
「お、お疲れさまでーす…」
小さく会釈をし気持ち駆け足で挨拶を済ませ逃げようと試みる。それに、矢波先輩も「お疲れさま」と丁寧に返してくれて一件落着。
笑みとは言えぬ愛想笑いのような、苦笑いのような笑みをはっつけて目の前を通りすぎようとすると、背中に服をつつままれるような感触がして、ビクビクしながら振り向く。
「で、どこ行くの?灯くん」
「ちょ、ちょっと体育館に…」
上手いこと切り抜けられたと思っていたのだが、俺以上の興味に満ちた満面の笑みを見る限り、明らかに失敗に終わったらしい。先輩の質問に言葉と段ボールを揺らして答えを伝える。
「あ、これ前ににーにゃんくんが運んでた箱だね」
「えぇ、まぁ任されて」
「灯くん、一人で大丈夫?」
「いや別に大丈夫ですけど…」
そんなはじめてのおつかいみたいな言われ方に疑問を持って訳を探る。俺のはてなを浮かべた表情を見て、矢波先輩は俺の後ろを指差した。
「体育館、真っ暗だよ?怖くない?」
「あぁ…」
言われてハッとする。
確かに廊下は蛍光灯が強く照らしてくれてはいるが、体育館はその漏れた光を窓から降らしているだけで、直接の電気は付いていない。そして、肝心の電源も舞台脇の準備室に設置されていたような覚えがある。そこまで行って電気を付けてまた消すよりも、暗いが直接片付けに言った方が手間、もとい足間は掛からない。が、それは単純に怖い。ここに来るまでに余計な事を考えてしまったせいで、そういう思考になってしまっていて、なんでもかんでも恐怖と結びつけてしまいそうな状態。
あんまりこの人に対して頼み事というのは気が引けるが、かといって断ってすんなり行けるほどの勇気はない。
「どうする?」と首をかしげる矢波先輩にゆっくりと頷く。
「で、出来れば…お願いします…」
人に頼み事は滅多にしたことがない。というか話した事すらそんなにない。わき上がる恥ずかしさを押し込んで、けれど押さえきられずに目線を反らして言うと、先輩はにっこり笑う。
「ん、了解♪後輩からのお願いだからね。僕も付いてってしんぜよう♪」
「…ありがとうございます」
「あ、春はどうする?校門で待っとく?」
「うーん。にーにゃんくん、私も付いてって良いかな?後輩のお願いは私も叶えてみたいから、ね?」
「んじゃ、三人で行こっか」
矢波先輩がそう仕切り、その両脇に俺と桜丘先輩が並んでちょっとしたロズウェルスタイルで廊下に靴を鳴らしていく。皆で渡れば怖くない。
湧いてきた安心感をそのままに、廊下を突き進んで行けば目的地の玄関、鍵の掛かった体育館で足が止まった。
卓球や柔道なんかに使われている二階の窓からは光ではなく闇が溢れ、バスケットボールが床に落ちる音も、威勢の良い声が響くことも無く、ただひたすらに暗闇を漏らして、出入り口に掛かっている鍵がまるで何かを封じているかのように錯覚した。
「灯くん、鍵持ってる?」
「え、あぁズボンのポケットに」
しかし、それを開けなくてはこの箱は片付けられない。
一回箱を地面に下ろしてさっきまでチャリチャリ言ってた鍵を取ろうとすると、突然ポケットに俺の手ではないなにか蠢くものを感じてビクッと跳ねる。慌てて視線を落とせば、矢波先輩がポケットに手を突っ込んでまさぐっていた。
「あ、あの…」
「んー、どうしたの?あれ、鍵ってこっち?」
「いやあの、じ、自分でやりますから…」
普段、絶対に触られる事が無い場所を女の子に触れられ、恥ずかしさとくすぐったさがぞわっと込み上げて逃げようと無意識に身をよじってしまう。しかし、先輩の手は抜けずに目当ての鍵に触れたのが太ももを伝って強く分かる。
「お、あったあった♪」
「あの…あの…」
「お…もしかして灯くん。ここが弱点なのかな?ほれほれ~♪どうだ~♪」
「あ、や、止めてくださいって…!」
もぞもぞくすぐる為だけに先輩の手が動き、それに合わせて俺も奇妙な踊りを披露してしまう。矢波先輩の奥で、桜丘先輩がふふと手を口に当てて微笑んでいた。
俺が踊りを披露して疲労している内に、やっと鍵と手がすぽっと抜けてにやにや笑う先輩を少し睨む。
「鍵を取るためだから、仕方無かった事だよ、灯くん」
「…自分で取れたんですけど」
「それじゃ無駄に時間が掛かっちゃうでしょー?効率的に行かなくちゃ」
「ふふ…あ、やーちゃん。鍵は?」
「だいじょーぶ。ちゃーんとゲットしたから」
奪われた鍵をくるくる指で器用に回したのを見て、それじゃあと桜丘先輩がポケットからスマホを取り出す。
ぽちぽち画面に触れるとスマホの背中のライトが辺りを照らした。
それを扉に向ければ、くっきりと鍵を差し込む場所が見える。俺の何とも言えない感情なんて気にせずに、先輩二人は鍵をがちゃりと回して扉を開けた。
ギィッと二人で重そうな扉を開けると、一度として見たこと無い明かりの付いていない体育館。予想通り校舎からの光は降ってはいるが、それでも当たり前ながら全体を明るくするほどの光量はなく、やっぱり不気味で恐ろしい。
箱を揺らして四段しかない階段を三人で上る。
「うわ、真っ暗だ…」
「いつもと違うからちょっとドキドキしちゃうね…」
辺りにスマホのライトを当てて桜丘先輩はほえーと声を漏らす。向けられた方向に明かりが広がって行くが、広がるにつれ光の強さは失われていき結局は薄暗くなるだけ。
とたとた歩く音が体育館に静かに反響する。
「…で、灯くんの目的地ってどこ?」
「え、あぁ、壁沿いの方です」
俺が先頭に立って二人の前を歩いていく。足元は桜丘先輩が照らしてくれていて、無様を晒す危険は無い。
少し歩くと横に今時では珍しい南京錠の付いた扉が現れ、足を止めた。
「ここ、みたいです」
「んー、じゃ鍵開けるからちょっと待っててねー」
先程同様に桜丘先輩がライトで照らして、矢波先輩が鍵をぱっぱと開ける。暗闇の中でこんな作業をしていると、怪盗のような気持ちになってちょっとワクワクする。
でも、今ここで変な物音とか聞こえたら全力で叫ぶ自信がある。向いていないのは明白だった。
俺の怪盗への道が閉ざされるのと反対に、扉は開き先輩が「どーぞ」と横にずれる。
流石に倉庫の中までは付いてこないらしい。無駄に待たせないようにと用具をかき分け、本来あった場所を目指して進んでいく。
桜丘先輩が変わらず倉庫内を照らしてくれているが、普段足を踏み入れない場所なのかライトが興味深々にあっちこっち移動して肝心の足場に光が来ない。まぁ、主人公達の足場であるモブだってスポットライトは来ないしそれで正しいのかもしれない。
しかし、やっぱり危険なので足元をしっかりと確認して、一歩一歩足を置いていく。
そして怪我すること無く前に置いてあった場所まで進んで、落として中身を散らさないよう、慎重に冷静にそっと置いた。
…と、それと同時に中を照らしていた明かりが消えた。
急に暗闇に取り残され、後ろを振り向いてみてもそこに見えるのは人一人通れるだけ開かれた扉を通して写る光の無い体育館。そこには音もなく、陰もなくだからこそ冷静さは冷や汗に混じり奪われていく。
「あ、あのー…」
声を出しても返ってこない。
幸いに、グラウンド方面から微かに片付け中の声が届くから、慌てて全速力で逃げ出すことはない。が、その体勢ぐらいには入っている。
ここに来るまでの余計な考え事が本当に憎たらしい。勝手に昔のホラー映像がフラッシュバックして恐怖を掻き立ててくる。
へっぴり腰で怯えながら、とにかくはと倉庫から出ようと足を動かす。すると、何かのボールが当たったのか、コツっと靴が音を出して、ビクッと跳ね上がってしまう。靴!靴っ!
うっすら見えるそれを睨んでいると、やっと扉の傍に到着した。矢波先輩達が消えてしまったのか、何なのかきっと先に原因がある。
扉を一歩越えると、両方の斜め下から突如として手がワッという声と共に挟み撃ちで伸びてくる。
「うぉあっ!」
なに!なに?なに!?
ジャンプするように俺がそれをかわすと、次に見えたのは楽しそうに笑う先輩達。
加速していた思考のお陰でまたからかわれたのだとすぐに気づいて、瞳が睨むようにスッと落ちる。
「…あの…」
「ふふっ、にーにゃんくん、良い驚き方だったね」
「流石、怖がりなだけはあるね♪」
どうやら扉の後ろにしゃがんでいたらしい。二人でニヤニヤ見られて辛い。
将来、ここで自縛霊にでもなりそうな気持ちで震える身体を抑えて立ち尽くし、笑みを全開で見せてくれている二人が満足するまで待つ。
矢波先輩の瞳にはうっすら涙が見えているような気がして、桜丘先輩の髪も笑いに合わせてはらりと揺れる。
「ふ、ふふっ…」
「………」
「灯くん、そんな睨まないでよー。可愛らしい反応だったと僕は思うよ?うんっ、満点!」
「そうですか…」
芸術点を勝手に評価され、逃げるようにして扉を閉める。後ろに刺さる視線が苦しい。
「あ、鍵は僕が掛けるね」
「…どうも」
濡れた瞳を手で先輩はグッと拭い、南京錠を付けて鍵を回した。桜丘先輩は未だに笑っている。ライトがぴくぴく上下しているのが証拠。
と、トンと肩を叩かれた。
「ほい、鍵。これで灯くんのお仕事は終わり?」
「いや…山中に聞いてみないと…」
乗せられた鍵をまたポケットに放り込んで、矢波先輩の問いに答える。
「先輩ー!」
不意に体育館に向かって叫ぶような声が廊下方面から聞こえた。それは聞き覚えのある男子の声。俺がそいつの名前を思い出すのと同時に、向かっていた体育館の扉からヌッとそいつが顔を出す。
「先輩!その仕事が終わったら…」
「あ、山中くんだ」
「本当だ、山中くん。こんばんわ」
桜丘先輩と矢波先輩に挨拶され、一の身体がぴしゃりと固まり、その後小さく震え出す。
「さ、さささ桜丘先輩!?」
一のさの連呼が体育館に強く広がり、そのお陰で不気味さが一気に雲散霧消する。逆稲川淳二だった。
「どうしてここに…」と、一が続けた言葉に桜丘先輩は律儀に口を開く。
「えっと、にー…灯くんのお手伝いをしててね。ね、やーちゃん?」
「うん。灯くんが僕たちと一緒じゃないと寂しいって言うから…」
「…………」
あながち間違ってなく、反論を唱えられない。
ひとまず、体育館から全員出て、先輩から貰った鍵で扉をロックする。その間も、後ろでは会話が続行される。
「そ、そうだったんすか…。これは…ラッキー…?…せっかくなら…」
何やら後ろからブツブツ聞こえ、顔を向けてみれば一が何か考えているのか渋い顔になって、少ししてよしっと覚悟を決めて言葉を話す。
「じ、実は…こ、これから仁田先輩とそれと二葉で…適当にご飯でも食べに行こっかな~って考えてたんすよ!だ、だからー…」
「…そうなの?灯くん」
「いや全然…」
初耳の話を聞いて一を見ると、よく分からないアイコンタクトをしてきて、多分察するに上手い口実にされたのだろう。俺と山中が上手い口実になっているかは知らないが、返事に山中を睨み付けておく。
「へー、そうだったんだ。やーちゃん、どうする?」
「んー、灯くんが行くなら僕も行くけど」
「いや行かないですよ…」
「ど、どうしてっすかぁ!」
グイと一に距離を詰められるが、俺の答えは変わらない。色々疲れたし家でぐっすり今は休みたい。
と、「お願いっすから…」とひたすらに懇願してくる一の後ろで、フッと本当の幽霊かのように影が現れ、一の首を強く掴む。
「…一、ここで何してるんですか?」
「ふ、二葉!」
「お、今度は二葉ちゃんだ」
「こんばんわだね、二葉ちゃん」
二人に挨拶され、山中も小さくお辞儀をした後に鋭い視線を一に刺した。
「玄関で母さんが待ってるんですから、早く伝えてきてと言いましたよね?」
「い、いやぁ…ごめんなさいっす…」
「何を伝えるの?」
桜丘先輩が首をこてんと曲げると、一の首がこてんと折れそうなぐらいに山中が怒りを見せる。
「伝えて…無いんですか?」
「いや…そのぉ…」
しどろもどろ一の言葉が信用出来ないと思ったのか、視線がこちらへと突き刺さる。
思い返してみるが、伝言らしき伝言は受け取っていない。
俺が首を横に振ると、山中から深いため息が漏れた。
「…はぁ。すみませんでした先輩。代わりに言いますけど、今のが終わったらそのまま帰って良いそうです」
「…どうも」
「では一、行きますよ。それと、帰ったら話がありますので」
「了解っす…」
掴んだ首をそのままに、ずるずる一がひきずられていく。怪奇現象のようにひえーと戦慄しながら(はじめ)連れてかれ、そして闇へと消えていった。
小さく起きた砂ぼこりが晴れると、砂に跡が少し残っていた。
一の声が聞こえなくなると、矢波先輩はあっけらかんにくるっとこっちに身体を向ける。
「んじゃ、これで灯くんも解放だね」
「山中くん…大丈夫かな?」
「…自己責任だと思います。あ、鍵返してくるんで」
「ん、なら玄関で待ってよっか、春」
「うんっ、そうだね」
「ん、え?なんで玄関に…?」
まるで一緒に帰るみたいな話の内容に、動かしていた足を止めて慌てて振り返る。
「それはもちろん一緒に帰るためでしょ」
「なんでですか…」
聞くと、矢波先輩の頬がフグのようにぷっくり膨れた。
「灯くんはこんな暗い夜道をか弱い女の子だけで帰らせようとするの?とってもか弱い女の子だよ?」
「えぇ…」
「それに君のお願いを聞いたんだから、僕たちのお願いも聞いて貰っても良いんじゃないかな?」
「……まぁ」
それを言われるとなにも言い返せない。言葉に迷って黙り込んでしまい、そうなったらもうこの話は先輩の流れということになる。
「…分かりました」
「うむ、よろしい♪」
「じゃあ、途中までは一緒に行こっか。やーちゃん、にーにゃんくん」
「…えぇ」
先輩二人に俺も並んで、三人でさっき通った廊下を引き返していく。見下ろせる先輩のつむじと髪の毛は上機嫌に揺れていて、靴の音も何処かリズムを刻んでいるように聞こえてくる。
その音に耳を傾けていると、廊下に風が吹き抜けた。
前まで涼しかったその風は、もう寒さを伴ってしまっていて、長袖をしているのにそれは十分に感じられて身を縮めてしまう。
隣に視線を動かしてみれば、矢波先輩がうーっと寒そうに身を震わして、ぎゅっと桜丘先輩に身体を寄せていた。
寒いのは苦手なのだろうか。
まぁ、それを知ってなにかあるわけではないが、とにかくそんな事を考えるぐらいの余裕はやっと持てたらしい。
少し歩いているとついさっき、先輩達が降りてきた階段へと差し掛かる。教務室は二階。これを上らなくてはいけない。俺が適当に一言言って階段を進もうとすると、矢波先輩が道を塞いで俺を覗き込んできた。
「付いてこっか?」
「…大丈夫です」
あんなに驚いていた俺が言うのも何だが、流石に明かりが点いていれば、多分大丈夫。
うん…まぁ、うん、大丈夫。
俺の失われていく自信と足取りの速度を見て、矢波先輩は「しょうがない」と隣に立つ。その傍には桜丘先輩もいた。
「三人で行こっか」
「だね」
「…すみません」
桜丘先輩の言葉に続いて、矢波先輩がこくっと頷く。
「いいのいいの。僕達は優しい先輩だからね♪」
「自分で言うんですね…」
「む、なら君から僕らは優しいって言えば…」
「…言いませんよ」
適当な、実のないような会話に桜丘先輩がまるで子供のじゃれあいを見る母親のようにふふっと柔らかく笑う。
その笑い声も続けられる会話も、今の校舎ではやけに響く。しんとした踊り場も、グラウンドを見下ろせる二階の窓も、そこに残っている風はやっぱり冷たいままだった。




