56話目
56話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
無言で、迷路のような庭を二人で歩いていく。本来なら、あはは~と笑いながらスキップ混じりにここを歩いていたはずなんだが、何故か今はドラクエのように一列に並び、話すことが無くなったときの「…………」状態がずっと続いている。誰だよ、マホトーン撃った奴。流石に一人で長い時間いた俺だとしても、俺が理由で付いてきている人がいる中での無言は耐え難いものがある。
「あの…」
なんとか言葉を捻り出して、「ええ」と返事をしてくれた城戸さんに向き直る。
「何故…付いてきたんでしょうか」
「むっ…わたくしが付いてくるのが嫌なんですの?」
「…あ、いや、そうじゃなくてですね。別に、使用人さんとかに任せて頂いても…」
頬をぷくっと膨らませていた城戸さんから頬の空気が抜けた。
そして、特に迷う事無くきっぱりと言い切った。
「わたくし、前に貴方を一人にしないと要ったはずなのですが」
「それって…あの合宿もどきの時のじゃ…。それに、自分は結構一人なのは慣れてますし…」
本を読むときは必ず一人になる。本を読めば読むほどそれはつまり、一人の時間が長くなっていくもので、気づけば言った通り、一人なことに慣れていた。
むしろ、本を静かに読むために一人にしてくれという事を望んでいた節すらあるかもしれない。まぁ、望まなくても昔は一人に勝手になるんですけどね!ちなみに、一人で思い出したが一匹狼と言う言葉があるが、実際の狼は一匹になることなんてほとんどない。基本的に群れでいるのが当たり前で、一匹になるのはリーダーになれず、微妙な立ち位置についたときに、それが嫌になったときに群れから離れていくのだ。
なので、そこら辺の奴がかっこつけて「俺って一匹狼なんだよね~」って言ってたら、
訳すと「俺って元々、出世も出来なくてグループの中で微妙な立ち位置に落ち着いてたんだよね~」と言う訳である。なにこの微妙な知識。
ともかく、こんな長々と余計な事を考えられるぐらいには俺は一人に慣れているのである。
城戸さんはすっと目を伏せて、悲しそうな声で喋りだす。
「一人に…慣れてしまったのですね…」
「いや、そんな重苦しそうに言わなくても…」
確かに、ラブコメ物での孤独って辛い過去みたく描かれますけど、俺、見ての通り全然平気ですからね?なんなら、孤独をテーマに一曲作る勢い。
…うーむ、このまま行くとなんか面倒な展開になりかねない。話題を反らせるようななにかを周りを見渡して探してみる。
あっ、庭師のおっちゃんがいる!あっ、タオルが風で飛ばされた!大事件だ!って思ったら普通に腕伸ばしておっちゃん取ったわ。お見事。
と、目に入ったおっちゃんのタオル目当てに上を見ていると、本当に話題になりそうなのが一緒に目に入ってきた。
「あれ…新崎」
「えっ?」
声に反応して、俺の見上げる方に城戸さんも顔を向ける。
二階のテラス。あの位置だと最初に呼ばれた部屋から少し、離れているだろうか。
その場所に、城戸さん父と新崎が何か話しているのが目に写る。
もちろん遠くなので声は聞こえないが、ギリギリ二人のその表情は見えた。
城戸さん父の表情はさっきまでの愉快な表情とは違う、何か、核心を話しているような重い顔で、聞いている新崎は何か、覚悟を決めたように拳を作っていた。
その表情は城戸さんにも見えているらしく、視線はその一点を貫いている。
「久しぶりに見ましたわ…あんな真面目な顔…」
城戸さんがぽつりと呟く。
一体、あいつはなんの話をしているのだろうか。少しズルいが、テンプレの流れを作って予想を立ててみる。
話の内容としては城戸さんの事なのはほぼほぼ間違いないだろう。そして、新崎にそれを話すのは、城戸さんが信頼しているという事実を聞いていたからだ。
だが、内容はなんだ。
俺は残念ながら新崎以外の他の人の、物語に関わるような話を聞いたことはない。
愛しの冬花ちゃんがどうして新崎と関わりがあるのか、そんなこすら俺は知らないのだ。城戸さんなんて分かるはずもない。
少なすぎる情報のせいで、推測はすぐにでも終わってしまう。残念ながら、俺に主人公のような鋭い勘は無かったらしい。ただ、なにか重要な展開がここで起きた。その事さえ今分かっておけば、いざというときに役に立つ事もきっとあるだろう。
ふと、不意に城戸さん父が庭に向けた視線が、俺達が向けていた視線とピッタシに合った。
「あ…」
俺たちに気づいた城戸さん父は、おーいと手を大きく振ってくる。その顔はさっきまでの真面目な顔ではなく、全員で話していたときに見た気さくな笑顔である。
「…………!」
「…帰りましょうか」
振っていた手を口に当てなにか言葉を叫んだ後、話は終わったのか手招きをして、「戻っても良い」ということをジェスチャーで伝えてくれた。
それを見て、城戸さんは俺の顔を見て、そう発し髪を靡かせて来た道を引き返していく。
俺たちが見ていたことを知ったテラスの新崎は、少し苦い顔をした後にぽつっと城戸さん父に対してなのか、はたまた自分に向けてなのか、小さく、空に向かって言葉を呟いていた。
あれ、俺がやったら一人言ブツブツ呟く変な人になるのに、あいつがやったら絵になるのずるいな。
先程の部屋に戻ってきて早々、もう聴きたいことは無いのか城戸さんの両親は部屋からそそくさと出ていく。
新崎も、さっき庭園で見たあの表情は無くなり、いつも通りの主人公のような爽やかな笑顔に戻っていた。
で、話も終わり、次に何をしようかと言う話題になったとき笠木さんが勢いよくバッと手を上げ、こう言った。
「私、夏の部屋にいきたいっ!」
まぁそういうことなので、手早く荷物を持って日の光が当たる廊下を五人でカツカツ歩いていく。
が、城戸さんは何故か俺らから少しだけ距離を取り、どこか、ソワソワしているようにも見える。ま、友人を自分がいつも使っている部屋に呼ぶのだ。乙女の気がかりがあるのは仕方ないだろう。俺だって男だけどクローゼットの奥のラノベの詰まった紙袋の一番下には乙女の着がかりがあるわけなんだし。
と、城戸さんの廊下を進む足がピタリと止まり、それに続いて俺らも止まる。
目の前にあるのは豪華な装飾の付けられた大きな扉。
蔦のような緑色の植物のデザインが際立たないように、だが、きっちり映えるように扉の中で伸びている。
「ちょ、ちょっと待っててくださいね?いいと言われるまではここでですからね?絶対ですわよ!」
まるで、鶴の恩返しのようにひたすらに念押しをして城戸さんは扉の奥へとシュバッと、一瞬にして消えていく。
「なんか、隠すようなものでもあるのか?あんな念押ししてさ」
「陽斗には分からなくていーの。本当に開けちゃダメだからね」
「…おう」
「でも、絶対に押すなみたいな…」
「灯くんも悪ノリしない」
「…はい」
今、俺についてちょっとした事が分かった。
俺は、どうやら新崎がいるといないとで結構会話の質に影響が出るらしい。さっきの、新崎がいない城戸さんと二人でいるときの俺はつっかえつっかえな、好きな女の子に話しかけられた気弱な男の子のしゃべり方だったが、新崎がいる今とのしゃべり方は、普通に話せていて、その差は雲泥の差である。
理由としては、全ての視線が基本的に新崎に向いている、ということがそれの原因なんだろう。俺ではなく、皆、新崎に一番の興味があるから、俺の言葉がさほど意味がないと分かっているから気楽に話せるのだ。しかし、新崎がいなくなると、悲しい男の性で変にカッコつけようとしてしまったりし、結果、出来もしないことをして言葉が詰まるようになってしまうのだ。
新崎は緩衝材のような役割もしてくれるのである。
新崎は俺たちを踏み台にしてるし、俺は新崎を緩衝材にしてるし、これがwin-winの関係というやつですか。…絶対違うと思う。
まぁ、こいつとかを車に乗っけておけばいざ事故に巻き込まれたとしても、主人公補正というエアバッグのお陰で、生存率はかなり上がったりはするんじゃない?
いやでも、もしかしたら悲しい過去作りのためにその人だけピンポイントで被害喰らう可能性もあるな。むしろ、そっちの方が可能性高そう。そっちしか無いんじゃない?
…緩衝材無しで、気楽ではないが、そこそこ話せる矢波先輩は、一体何なのだろうか。
と、答えを出す間もなく扉の金色のノブがガチャリと回る。
そして、慌てて片付けたのだろう。肩に服が引っ掛かるように掛かった城戸さんが顔を覗かせた。
「お、お待たせしましたわ」
「お、おう。…なぁ、夏。肩」
「えっ、あ!」
肩の服を一瞬で剥がし、それを一瞬で片付け、またすぐに一瞬で戻ってくる。疲れでぜーはーぜーはー荒い息を上げる城戸さんの首筋に汗が一滴、身体の線を通って流れていく。
「大丈夫…?夏」
「え、えぇ。こほん。それでは、どうぞお入りください」
「あ。あぁ…」
言われた通り、返事を返した新崎の後を付いていく。
人一人のためとは思えない広さの部屋には、テラスに続く大きな窓、そしてその近くにはシルクの天蓋の付いた、一人用のはずなのに二人は簡単に横になれる大きなプリンセスベット。傍には化粧台があるが、そこに置かれている何処かの製品の化粧品のほとんどが箱のままで、一度として開けられていないように見える。
俺と同じ場所を見たのか、横にいた笠木さんは「うわぁ…♪」と、目をキラキラ輝かせる。
その化粧台の向かい側には、洋物の勉強机と椅子が置かれていて、そこに掛けられているうちの高校指定の鞄は、いささか異質に見えてしまう。
「それでは、どうぞこちらに。わたくしは紅茶の準備をしますので」
「俺も手伝うよ、夏」
新崎が城戸さんの後を付いていく。
「あっ、冬花ちゃん」
「ねむ…い…」
入り口付近にある向かい合うようにして配置されているソファに促されるが、さっきからお眠な冬花ちゃんは、トテトテベットに近づき、そのままポフンと倒れ込んだ。
プリンセスベット。まるで、その名は冬花ちゃんが使うためにあるようなものだった。
真っ白なシルクの天蓋に包まれた冬花ちゃんは、完全に、完璧に深窓のお姫様で、触れれば、いいや、見るだけで壊れてしまうような柔い身体はシルクに覆われ一枚を通すことで、やっと直視することができる。
舞い降りたプリンセス兼天使兼俺の心の癒し兼我が部活のマスコット兼天使兼天使の冬花ちゃんは、すぐにスースーと静かに寝息を聞かせてくれる。拝聴させていただいてるんだから、皆さん、お静かに!皆が静かになるまで先生話しませんよ!
ソファに腰掛け、耳を極限まで澄ませる。多分今なら妖精の声とか聞ける。
無言で座っていると、隣に座っていた笠木さんから羨ましそうな声が耳に届く。
「あ~♪いいなぁ…冬花ちゃん…私もあんな場所で寝てみたいなぁ~♪ちらっ?」
近くの白い食器棚でカチャカチャティーカップやなんやを新崎と一緒に準備していた城戸さんがその声に反応して顔を向ける。
「秋葉…」
「ちらっ?ちらちらっ?」
「す、少しだけ…なら」
「やった~♪」
嬉しそうな声を漏らして笠木さんはソファから離れ、シルクの幕を越えて冬花ちゃんの隣に並んだ。冬花ちゃんは少しの間嫌そうな顔をしたが、笠木さんに抱き枕みたいに抱きつくと、また幸せそうな微笑みを溢した。可愛いー!
「夏、なんか悪いな。秋葉ったら昔から生粋の女の子趣味でな。あーいうの好きなんだよ」
「いいえ。むしろ、願いが叶えられたならわたくしとしても嬉しいですわ。…ですが、あんまり、そ、その匂いとかは嗅がないでくださいね?」
「うんっ!りょーかいっ!」
いーなー!羨ましいなー!
俺も混ざりたいなー!
ソファを挟む脚の低いテーブルにカチャリとティーカップと共に、紅茶の入ったティーポット、そしてスコーンやら、どこか異国のお菓子やらが置かれる。城戸さんは丁寧に気品の感じる所作でティーポットからカップに自分で準備をした紅茶を淹れてくれた。
テーブルの上はまるで、貴族のティーパーティーのように、華やかさと甘いお菓子の香り、そして紅茶の湯気で包まれていた。
で、それはいいんだけど、いつになったら新崎は俺の冬花ちゃんに送られているこの熱い視線に気づいてくれるの?眼痛くなってきたんだけど。
このままいくと眼が漫画みたいに飛び出そう。
「にしても、夏は料理は出来ないのに紅茶淹れるのは上手なんだな。超美味いぞ」
「そういうお前だって料理できないだろー…」
「いいだろそれは!」
「ふふっ。紅茶の淹れかたは昔から教えられてきましたから。慣れっこですわ。わたくしとしては、それよりも自動販売機の方が強敵ですわね…」
昔、一戦交えていたのだろう。話す城戸さんの顔には、悲しさと悔しさが滲み出ていた。まぁ、自動販売機のくせしてボタン押すとか手動ですからね。そうでもしないとガチャが始まるんだけど。詫びカフェオレよこせ。
グビッと新崎は紅茶を一気にあおる。俺も真似るように紅茶をチビチビ飲んで、適当にすることもなく周りを見渡していると、勉強机の上に、二つの写真立てが見えた。
一つは、前に合宿もどきで撮ったドレス姿の写真。
そして、もう一つは。
「あー…」
「どうかしましたか?仁田…?って、あっ!」
慌てすぎて気づいていなかったのだろう。隠すべきだったはずの写真立てを今になって城戸さんは瞬間で伏せる。
その風で新崎の髪が揺れ、「ん?」と声を漏らして新崎は彼女の方を見た。
「どうした?」
「い、いえ!…ど、どうして仁田は余計なものを見つけるんですの!」
「い、いや偶然…」
「おっ、その写真、前に撮ったやつだな」
伏せられていない方の写真立てを新崎は近づいて、食い入るように眺める。
「え、えぇ。大切な思いでですから…」
言葉を返しながら、城戸さんはその写真立てをにっこりしながらこっそりと引き出しに片付ける。
その写真に写っていたのは、言わなくても分かる新崎フェイス。どうやって撮ったのかは知らないが、写っていたのは制服を着て、真面目に授業に取り組んでいる新崎の横顔だった。
片付け終えた城戸さんは、スイーッと俺の傍まで移動してきて、小さな声でこそこそ耳打ちをしてきた。
甘く、しかし何処か清涼感も感じる香りが鼻をくすぐる。
「陽斗には言わないでくださいね…」
「は、はい…」
伝えることを伝えると、ぱぱっと城戸さんは俺から距離を取る。
やはり、緩衝材無しでの会話は厳しいものがある。
どうしても童貞感丸だし。
いや言い方が違う、うぶな男の子なんです。これも違うな、UBな男の子なんです。これがいい。強そうじゃん。
と、心の中でなにかに対する言い訳を繰り返していると、写真に満足したのか新崎はまたこっちへと戻ってくる。
ちなみに、笠木さん達はもうぐっすり。お高いベットというのはこうも人を睡眠に陥れるのか。まぁ、枕だけでも睡眠は変わるとも言うし、それが全て最高になれば人なんて簡単に眠るだろう。
なので僕もそれを試すために寝ちゃダメですか。
「あの…ですね陽斗」
「んー?」
城戸さんが、ちらと眠りにつく二人を見た後に、小さな声で新崎を呼んだ。
小さな声は、新崎のためだけだったのだろうか、それは分からないが外のひゅうひゅう吹く風の音さえも聞こえるこの部屋では、望んでないなくてもその声は俺まで届く。
少し、躊躇いも混じった様子で、城戸さんは口を開けた。
「さっき…わたくしのお父様となにか話をされてましたよね」
「あ…」
城戸さんはそれを見たときに父親のあんな顔は久しぶりに見たと、そう言っていた。
だからだろう、そんな風にさせた話の内容が彼女に気になるのは仕方ないことだ。
そして、その話は俺も気になる。まぁ、このタイミングで聞いても、新崎がどう返すかなんて薄々予想もつくけども。
主人公がヒロインに関わる重要な出来事を漏らすなんてこと、そうそう起こるはずもないだろう。
「それは…だな」
「…………」
自然と、俺と城戸さんの目は新崎に集まる。
城戸さんの瞳には、意地でも答えを吐かせようとする覚悟が見える。
睨むように見られ続けた新崎は、手を頭に当て、はははと気まずそうに笑って見せた。
「まぁ、そんな重要な話って訳じゃないんだ。ちょっと、なに、夏の思い出話、みたいな。ちっちゃい頃の話とか。あ、そうだ灯。夏ってすっごい恐がりらしかったんだぞ!壁からワッ!てされるだけで驚いたとか!」
「そ、そうか…」
「なっ!あの人、そんなことを…!…全く。そんな話でしたならあんな真面目に話さなくても…」
「はは、そうだよな!」
笑いながら、新崎はそう言葉を返した。
明らかに嘘。
いや、城戸さんの思い出話、その事自体に嘘はないのだろうが、話した内容は明らかになにかを隠すために伝えたもののように見える。その本題の最中にでも告げられたことを、使ったのであろう。
人間は真実の中に嘘を混ぜられると、気づきにくくなるものだ。今の新崎は、思い出話を聞いたという真実の中に、その話は本人にとって少し恥ずかしい話だと思わせるような嘘の伝え方をした。
…まぁ、それを今指摘したとしても結局、他の嘘で塗り固められるだけだろう。
恥ずかしそうに頬を朱に染め
、立ち上がって驚く城戸さんに新崎に向けていた視線を移す。
顔を手で覆った城戸さんはソファに体育座りで腰かけた。
「ぅぅ…」
「もしかして、今も怖かったりするのか?」
「…別に。ほんの少しだけ、ごくわずかに…」
くぐもった声が聞こえた。
「それ怖いんだろ…」
「……はぁ」
つい、ため息が漏れてしまう。
お前主人公なのに、そんな嘘ついて良いのか!そういう系主人公ならともかく、お前ラノベ主人公なんだぞ!本来ならもっと、こうヒロインが付いた嘘に対してご都合主義で解決するんじゃないのか!
実は俺、メンタリストの知識あるんだよね。みたいな感じで、都合よくそれっぽい感じも雰囲気も出してなかったのに、途端にわざマシンの如く覚えるんだろうが!
誤魔化しきれたと思ったのか、むしゃむしゃお菓子を笑いながら食べる新崎の額には、じんわりと汗が浮かんでいた。
揺れる車。
来たときと同じ道のはずなのに、見える景色は大きく違い、車内をオレンジ色の光が照らす。
そんな車内で聞こえるのは三人の寝息。
ついさっきまで寝ていたと言うのに、笠木さんと冬花ちゃんはまだ眠気が取れていなかったらしく、微睡みつつも車に入るとすぐに、こてんと眠ってしまった。
そして、城戸さんも眠気が二人から移ってしまったようで、三人真ん中の列の座席で、身体を預けあって眠りについている。
一番後ろの列の俺と新崎は、そんな三人に配慮して声密やかに適当な会話で時間を潰していた。
「…なぁ」
ふと、新崎の明るかった声音が変わった。
見れば、夕焼けに照らされた彼の整った顔は窓の外に向けられていたはずだったのに、今度は俺を真芯に捉えていた。
「なに」
「んー、いやさ。お前もあの時、見てただろ?」
あの時。それがどの時だったのか、詳しく聞かなくてもすぐに分かった。
小さく頷くと、新崎は話を続ける。
「夏には誤魔化せたつもりだったけど、お前、絶対嘘だって気づいてたよな?」
「ま、そら近くで見てたしな。あんなお前の真面目な顔、怪しいにも程がある」
チートハーレムイケメンラノベ主人公には似合わなすぎる。
「ははっ、そうか」
「あぁ」
「どうして、嘘だってバラさなかったんだ?」
「なに、バラしてほしかったの?」
「いや、そうじゃないけどさ。…もしかして察してくれたのか?」
「そうだったとしても、普通はそれ本人に言わないけどな」
察したという事を察したのであれば、何も言わないのが一番良いものではないだろうか。本人が望んでひっそりやったことを伝えるのは、なんか少し違う気がする。
「じゃあ、なんでなんだ?」
「それは…まぁ」
主人公だから、どうせ言ったとしても無駄。そんなことを伝えたって「え?なんだって?」になるに違いない。
もしくは、チートハーレム物を書いてるかもしれない新崎視点の作者に余計な事を喋った罰で消されるかもしれない。モブに戻ることは望んでいるが、存在を抹消されることは望んでない。
それに物語の面白さは、こういうのを引き伸ばすことにあるのかもしれないし。
「…冬花ちゃんの寝顔が可愛かったからだな。お前の事なんて、見てはいたけどそんな気にしてなかった」
「お、おう?…そうか」
適当な言い訳は新崎を困惑させたが、それでも納得はしてくれたようだった。
…冬花ちゃんが可愛かったのは真実。だが、こいつの事を気にしてなかったのは真実ではなかった。
あと…さっきから新崎の演出のために使われている夕日がその…俺の目に凄い入ってきて全然目開けられないんですけど。




