57話目
57話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
新崎のサイドでもなにかしら物語が進み始めた近頃。
新崎方面では今頃、それに関係する話が進んでいるのかもしれないが、こちらには無関係なので、緩やかな休日と言えど変わらずいつも通り、のんびりと自分の部屋でゲームが出来ている。やっぱりルーテが一番だと思います。
と、テレビ画面とあれこれ考えながらにらめっこしていると、ピロピロと携帯が突然揺れる。身体をよいしょと起こしてそれを眺めてみれば、表示されているのは『矢波 芽野』。
…この電話には出たくないという思いが一瞬にして湧いてくるが、出なかったら出なかったで後々面倒ごとになるのは明白。大声で空に向かって「どうしてこうなったんだよー!」って叫んでも、場面転換は助けてくれない。すべては自業自得。
ふぅと息を漏らし、覚悟を決めて揺れる携帯をゲームのコントローラーの代わりに手に持った。
「…もしもし」
「やっほー☆僕だけど、今ヒマ?」
「ヒマじゃないです。世界救ってるんで」
「…ゲーム中?」
「よく分かりましたね」
遅刻の言い訳レパートリの一つ、試しにと使ってみたがすぐに当てられてしまった。ていうか、そもそも俺って遅刻しそうになったら学校休むしレパートリーいらねぇ。
無駄な事をしていたんだなぁ、と思いながら矢波先輩の言葉を待つ。
「つまりヒマってことなんだね?」
「えぇ、で、用件はなんですか?」
「んふふ~♪今ね、水族館に春と一緒に来てたんだけどさ。そしたらね、ちょっと面白いものを見つけちゃって」
「陽斗ですか?」
「お、よく分かりましたね~♪そ、陽斗くんだよ」
俺の言葉を真似て、矢波先輩はそう言った。
まぁ、俺に話題が振られるときなんてのは、基本新崎関係がほとんどだから、変に考察やら推測やらをたてずとも、パッとその事は分かってしまう。
大方、城戸さんと仲良く手掛けていたらそこに偶然(故意)笠木さんと冬花ちゃんが鉢合わせ、修羅場と化しそれを、矢波先輩達が偶然(偶然)見合わせたのだろう。
その偶然はもしかしたら第三者の故意によって出来た偶然かもしれないが。
ともかく、俺の話ではないということが分かり、いつの間にか強張っていた肩の荷が降りた気がして、はぁ、と小さく息が漏れた。
「で、どんな様子なんです?陽斗達は?」
問うと、あれ?という不思議そうな声が返ってきた。
「僕って、君に陽斗くんが誰かといるって伝えたっけ?」
「え?」
「いや、僕陽斗くんの話ってだけしかしてないじゃん」
「…あぁ。…まぁ、前に城戸さんとどっか出掛けようって話、陽斗から聞いてたんで」
「そっか。てっきり僕は君に千里眼的なものがあるのかと」
「無いですよ…そんなもの」
だが、大まかな先の予想なら俺には出来る。この後の新崎はきっと、『夏とのデートをしたんだったら、私たちともしてよね!』と、ぷんぷん怒られ、結果笠木さんと冬花ちゃんと一人ずつ…え?冬花ちゃんともデートしちゃうの?え、やだ、嘘…。
破滅の未来を予想して、携帯を持つ手がぷるぷる震える。いや、でもほら予想だから!もしかしたらこっから天文学的な確率で、最終的に俺と冬花ちゃんがデートするって結果になる可能性全然あるから!
「ぉぅ…」
「どしたの、そんな死にかけな声して?」
「いえ…それよりも陽斗達の情報を…」
「あ、そういえばそうだったね。今ね、遠くだから声は聞こえないんだけど、なんかワチャワチャしてる。君以外の部員全員で。あっ、冬花ちゃん…だっけ?が、陽斗くんに抱きついたよ!おぉっと、城戸ちゃんと秋葉ちゃんが陽斗くんの腕を掴んだ!そして強く睨みあっているー!」
「…正確な実況どうも」
まるで、スポーツか何処かのハリボテの馬が壊れた時みたいなそんな熱い実況に紛れて、桜丘先輩だろうか、きゃーと、嬉しそうな悲鳴が小さく聞こえてくる。冬花ちゃんが抱きついたと聞いたときにはこのスマホを投げつけそうになりました。
「…で、君は来ないの?」
手だけの震えが、全身に移りぷるぷるとゼリーのように震えているとそんな事を言われた。
「水族館ですか?」
「うん。ほら、あの四人って言ったら、あとは君も揃えばいつものメンバーだよ?」
「…ま…そんなこと無いですよ」
…何故か、まぁ、とそんな認めるような言葉を返してしまいそうになった。無意識に、あのメンバーの中にいることを適当に、だけどちゃんと認めるような言葉を。
「そう?うーん、じゃあさ、それでもちょっと来てくれないかな?今ね、僕のとなりに魚の切り身添えソフトクリームってのがあってね?奢ってあげるからさ」
「それ…俺、毒味ですよね?そんなよく分からないのに釣られるわけ無いですからね?」
「魚だけに?」
「…魚だけに」
「そっか…しょうがない。春に…」
矢波先輩がぽつりとそう呟くと、電話の奥からえっ?と、桜丘先輩の驚くような声が聞こえた。
特に深い関係があるわけでもないが、聞こえる範囲で矢波先輩の犠牲になるのをそのままにしておくのも如何なものかと、一応止めるように言ってみる。
「…はぁ、それもどうかと思いますよ。食べないって選択肢じゃダメなんですか」
「むぅ…分かったよ。陽斗くんに頼むから」
「分かってないですよね…」
「それじゃ、話したいことも話したし、電話、切るね?」
「どうぞ」
「僕らのためにも、世界、救っておいてねー?それじゃーねー」
俺が返事を返す間もなく、電話はぷつっと切れてしまう。
新崎に頼むと言っていた辺り、どうやら修羅場には先輩たちも混ざる様子。
…大変だろうなぁ……水族館の職員さんが。魚も見ずにワーキャーワーキャー言ってるハーレム野郎とその取り巻きさん達とは関わりたくないだろうなぁ。アジとかタコ投げつけても誰も咎めない。
携帯を置いて、早速ゲームの続きとコントローラーを持つ、すると、また携帯は大きく揺れだした。
今度は何さと携帯を取らずに画面だけを見ると、今度表示していたのは『新崎 陽斗』。どうして笠木さん達が自分の居場所を知っていたのか、気になって電話を掛けてきたのだろう。
別に、面倒くさいし断ってもいいのだが、それをするとあらぬ誤解を受けてしまうかもしれない。
なら、ここで出てきっぱりとそれでも僕はやってない、と言うことによって無実を主張した方が良いはずだ。うん、笠木さん達が見ていたことの報告を今からするだけだから。私、無実デース。
「はぁ…はぁ…灯か?」
「あぁ。最初に言っておくとお前の今の状況になったのは、俺関係ないです」
「おまっ!まさか、今の俺の状況を知ってるのか!?」
「まぁ、色々あって。今自宅だけども知ってる。で、なんで息切れしてんの?」
「秋葉達から走って逃げてきたんだよ!秋葉ったら急に『偶然だね~』とか言って冬花を連れて現れて、で、少ししたら芽野先輩も大爆笑しながら現れて…」
はぁはぁと荒い息が耳に入ってきて、なんか嫌だ。少しだけ、ちょっとだけ、ガッツリと携帯から耳を離す。
にしても、矢波先輩、大爆笑しながら現れたんだ…。まぁ、あの人らしいと言えばあの人らしいけど、でも笑いながら現れるとか魔王かよ。
んで、逃げてきたということは、周りに彼女らはいないと言うことだろう。少しすると、新崎は安堵して息をふぅ、と整える。
「…灯、ちょっと聞いておきたいんだが、さっき、俺は関係ないって言ったよな?」
「報告をし忘れただけです」
「なっ!まさか、秋葉達が今日の事を知ってるのを知ってたのか!?」
「…前に、教室で二人で話してたときに思いっきり覗かれてました」
「ま、マジでか…」
呼吸は整えたはずなのに、ガクッと膝をついてしまいそうなぐらいの力の抜けた声。
「まぁ、そういうこと。ごめん」
「…はぁ、いいよ。悪いのは俺だ。夏も…なんか不機嫌そうにしちゃったし。今度は、バレないように個人的に誘うさ」
「んー」
「にしても、なんで秋葉は出掛けるのを邪魔…」
迫真の鈍感主人公が発揮される前に、ブツリと無理矢理に電話を切る。今のをそのまま聞いていたら俺はとてつもないストレスを抱えかねない。
こういう時は「あ~あ、これじゃ笠木さん達も苦労するねぇ」みたいな返事が適切なんだろうけども、多分一番苦労するのは可愛い女の子とひたすらにイチャイチャしてる様子を見せられる親友ポジション。親友と言えど人の幸せをマジマジと見せつけられて、なのに「あいつが俺を好きなんて冗談だろ?ははっ」みたいな感じで自分の発言を流されるのは、腹立たしいことこの上ないだろう。親友ポジションに一番大切なのはきっと、女の子にあんまり興味がない設定とか、互いに信頼しきっているとかそういうのじゃなくて、聖人かどうかな気がする。普通の人だったら多分俺みたいになるか、最悪顔面パンチしたいと思う。本音を言うと俺もそう。
にしても、今ほとんどのヒロインさんは水族館ね…。
水族館…彼らが言ってる場所が俺の今思っている場所かどうかは知らないが、確かここら辺に俺の知る限り水族館はひとつとして存在していないはず。前に、妹から聞いた話によれば、今流行りなのは前に行った遊園地から海沿いに進むとあるというそこそこの大きさの、イルカショーの人気な水族館。時期が来れば、海にはホタルイカも現れるらしく、ライトアップされた街と淡く青々と輝く海の幻想的な光景は、カップルたちに大受けらしい。けっ。
…で、ということは現在、この街に俺の楽しいお出掛けを邪魔するものは一人としてしないのではないだろうか。
山中だって、あいつこそこそアルバイトしているわけだし、身内やらに見つからないためにも遠くで働いている可能性が大いにある。普段ならば、出掛けるときにうっかりストーリーとして新崎たちに遭遇してしまう場合が嫌で、最近はあんまり外に出なくなっていたのだが、あっち側で大きくストーリーが進んでいるのならば、こっちはフリーなのでは無いだろうか。
買いたい本もある。気になる本もある。とにかく本がある。ならば、行くしかない。
天気は、まるで俺に合わせてくれているように大きな雲が流れていき、太陽が窓から照りつける。
ゲームを保存して、ちゃっちゃかちゃっちゃかと着替え、財布の準備をパハッと済ませる。
ふふふ…俺のターン!
心の中でそう叫んで、勢いよく扉を開け…ん?あ、鍵閉めてた。
一度、扉に激突しながらも、街を目指してゆるゆると歩き出した。
適当に駅近くの賑わっている部分をブラブラしていると、やっぱり、休日もあってか学生や家族連れ、老若男女が揃っている。が、しかしそのほとんどが友人なんかと来ているのか、隣を見れば誰かを連れていて、俺も隣のエア子ちゃん(今作成)を横目でちらりと見て、ついでに、カップルの女の子の方もちらりと見送る。バカめ、お前らがどんなに幸せになろうと、あいつが近くにいなければそれは描写されないんだぞ…ふははぁ!
久しぶりの不安のない休日は、心が鎖のようなものに解放されたかのように、何を見てもテンションが上がっていく。
いつもならば幸せを見ると、そこそこ不幸せにならねぇかなと思うのだが、主人公さえ見てしまえば、それがただのありきたりな物に写ってしまうからだ。でも、彼女とか出来たらありきたりでも心から幸せならそれでいいやとか思っちゃうんだろうなぁ…。
そもそも主人公の味わうハーレムなんて妄想だからこそ成り立つもので、現実だったら昼ドラみたくドロドロになるのは当たり前だろうし、それにまず、そんなにハーレムになるほど俺のこと好きになるやついない。
「……ふぁ」
…緑の葉がカサカサ揺れる、コンクリートの歩道をボーッと考えながら本屋を目指してあくびをしながら歩いていく。
時々、ギャルゲーとかにも興味が湧いたりするんだけども、結局はあれだって俺じゃない誰かが勝手に悲しい過去を背負って、勝手に女の子と触れ合って、で勝手に幸せになる話でしょ?なんというか、そういうのに対して「他人の幸せ日記をなんで見てるんだろう…」って書いてあるのを昔何処かで見て、酷く共感した覚えがある。
まぁ、あくまで個人の感想なんだけども。
適当な事を思いつつ無意識に、しかし迷うことなく本屋への道を一直線に進んでいく。何度も通った店だ、迷うことなんてない。
本屋帰りに寄っていって欲しいのが目的なのか、大通りに繋がる小さな小道に、ひっそりと立つ昔ながらの雰囲気のあるカフェのとなり。
そこにあるのは少し古めな本屋さん。前に矢波先輩と行ったのは、ラノベを買う時に寄る有名ないつものお店で、最近のあれこれ読みたい衝動に駆られている俺が見つけたこの本屋は、ラノベは少しだけで、それ以外は読みごたえのあるミステリーやSF、他にも純文学なんかが揃っているお店。ここを見つけた時は、子供のように心踊るものがあった。店主が超絶美少女だったら本当に踊ってた。
小さな店内に入ると、本屋特有の紙の匂いが鼻をくすぐる。いつもなら四十代ぐらいのおじさんがレジで店番をしているのだが、今日は奥にいるのだろうか、レジは空席。
無音の店内で、空調の音だけが静かに鳴っている。
そして予想通り、新崎たちとも偶然鉢合わせるなんてこもなく、知り合いはおろか、他のお客さんさえいなかった。
早速、本が並ぶ棚の前に行き、一冊一冊それを見ていく。有名どころの本は、買う人数も次第に増えるため、その分、使うスペースは必然的に増えていく。ズラーッと同じ作者が並んだ場所があればそれは、とても人気な物なのだろう。自然と興味をそそられ手を伸ばしてしまう。
…にしても、多分今の俺の状況を本にしたら、絶対面白くないだろうなぁ。だって、さっきからほとんど無言だし。
別に今読んでいるのが格段会話が多いわけではないが、それでも所々にきちんと会話を挟んで、そしてそこに笑いどころや伏線なんかを置いている。なのに、俺ったらずっとこれ。ずっと一人言。ずっと心の声。こんなに地の文ばっかある本なんてあんまり読みたくもない、ついでに書きたくもない。
…だが、普通はそうではないだろうか。新崎たちのように、気軽に、そして迷うことなく誰かと話せることは何気凄いことだ。
本来なら、相手の機嫌を伺って、地雷を踏まないように、そして他愛の無い、適当な会話を混ぜて。
女の子とキャッキャウフフなんてそんな簡単に出来んぞ普通。いや、でも俺がUBすぎるだけで、そこいらの男子高校生は違うのかもしれない。
まぁ、もしそうだったとしても、俺がその『そこいらの男子高校生』のように振る舞えるかは別で、俺は俺だし、そいつはそいつ。
俺がお前でお前が俺で、なんて事は基本起こらない。
そう考えるとやっぱ主人公スゴいなぁ。作者の気分によってロボのカスタムパーツみたいに、天才だったり最強だったり思うがままに設定付けられるんだから。
俺にもあれだ、『幼女から愛される』的な設定欲しい。ていうか、『冬花ちゃんの許嫁』をください。
だが、そんな設定さえも『主人公』という設定は打ち砕いてしまうから怖い。ほんと怖い。
ありもしない夢が砕かれたので、軽く流し読みをした本をそっと元に戻す。
…次へ次へと本の背表紙を見て、興味があるのをちまちま見ていき、結果、元々気になっていたのを2冊だけ、買うことにした。
そして、本屋から出てみればもう夕方。時刻は5時を回っていた。
そこそこ時間を使っていたんだなと自分の集中ぶりに驚く。というか、長々時間使って二冊しかってどーなのよ。




