55話目
五十五話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
車に揺られること一時間。
木漏れ日指す森の中、やけに綺麗に整備された道を進んでいくと、洋館のような建物が遠くに見えた。
話す話題もそろそろ無くなって、皆適当に過ごしていたときに丁度だった。
建物が見えると新崎はすぐに目ざとく見つけ、お、と声を漏らす。
「もしかして、あそこか?夏」
「えぇ、そうですわ」
「夏、こんな遠いところから毎日通ってたの?大変じゃない?」
「…別に慣れれば平気ですわ。ただ少し早起きしなければいけないだけで」
「だから毎日学校来るの遅かったんだな」
新しい話題が用意され、あれやこれやと俺と冬花ちゃんを置いて、三人は話し出す。
門の前まで付くと、どこか人がいるわけでもないのに勝手にそれは開き、また車はドンドンと奥へ進んでいく。
と、突然城戸さんは嫌そうな顔をしながら皆に顔だけ向けた。
「あの…皆さん…」
「どうした?」
「いえ、少し忠告というかなんというか、覚悟しておいて欲しいことがあるのですけれど」
「なに?」
「前に…少しだけ話したような気もしますが…わたくしの両親はなんというか…その…変わっている…んですわ…」
「変わってる…な」
バカ。
前に城戸さんは両親に対してそう辛辣に告げていた。
そして今回の二度目の忠告。
城戸さんが頭を抱える。
それはつまりそれほどまでに厄介…というか、キャラが立っていると言った方が良いのだろうか。本当に覚悟しておいた方が良いのだろう。
なんだろう…バカ…バカ…娘からそんなこと言われるなんてとんでもないんじゃないのその親。バカボン出てきそう。
想像をつけ、あらかじめ準備と覚悟をしようとするが、車は静かに速度を落とし、ゆっくりと止まり、それをやめさせる。
執事さんから声をかけられ、全員、話を理解できぬまま車から降りる。
「それでは…行きましょうか」
「あ、あぁ」
「うん…」
変わらず無言を貫いて、返事を返した二人のあとを付いていく。
冬花ちゃん大丈夫?しっかり付いてきてる?と、振り返れば迷子対策なのかなんなのか、執事さんが彼女の手を握っており、丁寧にエスコートしておるじゃありませんか。
…………………………。
執事さんの元へ近づく。
「…あ、あの…お、お仕事もあるでしょうしぃ?おれ…自分が変わらせて頂きましょうか?」
「いえいえ、せっかくのお嬢様の御友人。私に任せてください。それに、お恥ずかしながら実際に孫が出来たらこんな感じなのかと…いやお恥ずかしい。はっはっはっ」
「ははは…孫…孫ですか…」
「じぃじって呼ぶ…?」
「いえいえ。陽斗様達が先に行ってしまわれますので、そろそろ参りましょう」
「…ですね」
deathね!
建物の広さとしては前に使わせて貰った別荘と広さは変わらないように見える。
執事さんに通され、そのまま促されるまま俺たちは執事さんのあとを追っていく。広さとしては前に使わせて貰った別荘と同じぐらいだろうか。しかし、周りの景色は違って窓から見える景色にはさっきまで通ってきた森と、奥に街を見下ろせた。
どうやら、ここはそこそこ高いところにあるようで、いかにも金持ちという感じ。
「こちらでお待ちください。それでは」
大きな扉の前で歩みは止まり、執事さんがそう言い残して何処かへと行ってしまった。「お待ちください 」と、いうことは中に城戸さんの親がいるという可能性は低いはずだ。物静かな事に疑問を感じて、顔を見合わせていた新崎達を置いて、先に扉を開けさせてもらう。両開きの扉のドアノブを回し、開ける。
考えていたことはあっていたらしく、中には誰もおらず、代わりに洋風の椅子やソファと、その向かいにテーブルを挟んで椅子が二つ。
そこに城戸さんの親が座るのだろう。ズンズンと先に進んでいく。
「あっ、待てよ。灯…。すごい部屋だな」
「ここ…応接間ですわ」
「きれ~♪」
「ふぁ…眠い…ソファふかふかぁ…」
皆、各々の反応をしながら俺が開けた扉を越えていく。
こっちの窓の外には、よくイメージされるような迷路のように生け垣が育つ広い庭園が広がっていて、周りに咲いている花は丁度可憐に色づいて瞳を奪う。
なんだよ…金持ちやっぱ凄いじゃん…。
感嘆の声を心の中で静かに漏らす。
と、扉がすぐにコンコンと叩かれる。
「連れて参りましたが開けてもよろしいでしょうか?」
「えぇ。どうぞ」
慌てて近くの椅子に腰掛け、ギィ、と音がし、ゆっくりと扉が開いていく。
「綺麗…」
そう笠木さんが言葉を漏らした。
何故なら執事さんの後ろ、城戸さんの親であろう二人は、本当に貴族のような服装で、一歩一歩歩くその歩き方さえも、普通の人間には簡単に出来ない、気品さと優雅さ、そして美しさを持っていた。
皆が、皆見惚れてしまっていた。
そして、なびく髪に、整った顔立ち、美を現したような女性の方が目を伏せたまま、椅子に座って、ゆっくりと口を開いた。
「まず、最初に…すみませんでした。無理矢理呼び出してしまって…娘の御友人と聞いて気になってしまって…」
「い、いえ!そんな、むしろこんな綺麗なとこに呼んでもらって…な?秋葉」
「う、うん!そうですよっ!本当にっ!」
「………」
何故か城戸さんはシラーッとした冷めた目を向けている。
執事さんが音もたてずに静かに扉を閉めて、出ていく。
お疲れさまです。
話を続ける新崎と笠木さんに、話しかけやすそうな気さくさで、しかし、真面目さも感じられる爽やかな男性の方がはははと笑った。
「すまないね。妻は気になってしまうとどうしても見てみなければ満足しなくてね」
「や、やめてください…恥ずかしいですから…」
城戸さんの母親は笑って話す男性に顔を赤らめて訴える。
以外に普通な気がする。
ギャップというのかなんなのか、城戸さんから聞いていたイメージとかけ離れすぎていて、あっけに取られてしまっている。
と、話を聞いていた城戸さんが立ち上がる。
すると、全員の視線は彼女に集まり静かになる。
そして、まるでその状況を狙っていたかのように、ぴったりと言葉が消えたタイミングで、城戸さんは口を開いた。
「…なにまるで良い親みたく振る舞っているんでしょうか」
冷たく、少し怒りも感じられた声が響く。
言われた二人は目を丸くした。そして、父親の方が、ゆっくりと止まっていた口を開いた。
「…は、反抗期…?これが反抗期ってやつなのっ!?お父さん!ついに娘から嫌われちゃうの!?お母さん!娘が反抗期ですよ!」
「…え?」
さっきまでのしゃべり方と真逆の、まるでふざけているような喋り方に変わり、誰かから驚いたような言葉が漏れた。
そして、城戸さんの父親はおよよと母親に泣きつくと、母親も母親で、美しさを消して、演技のようなわざとらしいリアクションで喋りだした。
「仕方ないのっ!子供に反抗期は付き物なのよ!耐えるしかないのよっ!」
「そ、そんなっ!私たちはこれに耐えるしかないって言うのか!反抗期…恐るべし!」
「はぁ…」
「な、なぁ、夏。これ、ど、どういうことなんだ…」
深くため息を吐く城戸さんに、新崎がゆっくりと近づいて声をかける。
呆れた顔と、疲労が見える真っ暗は目の城戸さんは振り返って、どういう状況なのか分かっていない俺ら全員に、教えてくれた。
「こっちのうざいのが本当の姿。さっきまでのしゃべり方や振る舞いは全部嘘。それだけですわ」
「う、うざいっ!真正面で言われると」
「うるさい」
「はい…」
椅子の上で城戸さんの父親はしょんぼりと返事をした。
すると、隣に座っている城戸さんの母親が悲しそうな父親の背中を、悲しげな笑顔で撫で始める。
はぁ…これが…バカ。
一日二日関わるだけならそんなにうざいとも思わないのだが、毎日毎日こんなオーバーリアクションをやられたら、確かにバカとも言ってしまいたくなる。
…時間が経ち、城戸さんの説明のお陰で全員そろそろ話を理解し始めてきた。
戸惑いながらも自己紹介を済ませて、新崎に後を任せる。
城戸さんの親の名前は父親が翔一さんで、母親が宮さんらしい。
「あの…どうしてここに俺たちを?」
「さっきも言った通りだけど、我が娘の御友人。気になって仕方なくてね」
ねー?と城戸さん父が城戸さん母を見ると真似るように城戸さん母も、ねー?と首を曲げて返す。この気さくさもあってか、話は止まることなく、スムーズに質問ができていた。
「で…具体的にはどんなことを…?」
「普段、どんな感じて夏と接してくれている?」
しばらくは新崎との話が続きそうな気配を感じて、執事さんが置いてくれた高そうなクッキーに手を伸ばす。
「どんな感じって…どんな感じだと思う、灯」
「…ん、えっ、あ、何で急に俺なんだよ…本人に聞くとか、色々あるだろ…俺今からクッキー食べようとしてたときなんだけど…」
「クッキー…?」
やる気無さそうに椅子にぐったりともたれていた冬花ちゃんが、むくっと眠そうな目を擦りながら起き上がる。笠木さんはそんな冬花ちゃんに、「はい、どうぞっ」と、言ってクッキーのかごを渡した。
はい可愛い。超可愛い。冬花ちゃんこそがハグッとした変身する女の子になるべきで、そして俺がそのハグッとされるべき存在だと思う。捕まるなそれ。
「で、灯くんからはどう見える?」
「どうって言っても…まぁ、 普通ですよ…。…ほら、答えたから陽斗、お前も」
当たり障りのないコメントを一言。そして、追撃されないようにと新崎に回す。
城戸さんの両親はほんの少し、何故か嬉しそうに顔を見合わせると次に目線を新崎へと移した。
当の城戸さんは自分の普段の話をされてか、恥ずかしそうに髪をくしくし撫でていたが、新崎に移るとやっぱり興味があるのかちらちらと視線を向ける。
「あー…その。夏と一緒にいると、まず、とっても楽しいです!いなきゃならないって言うのかな無くてはならない…存在みたいな感じです!」
「…結婚式のスピーチみたいだな」
俺がボソッと呟くと、女の子三人全員の視線が新崎に集まる。城戸さん母も「あらあら」と口に手を当てて微笑ましそうにほほほと笑う。
「ん…?あ、友達としてです!」
周りからの視線と、言葉の重大さに気づいたな新崎は途端にあわあわし始め、すぐに友達という言葉を付けるが、城戸さんの頬は少し、赤らんでいるのが視界の端に写る。
どちらにせよ、城戸さんの好感度が上がったね。良かったね。ヤッタネェ!
別にビジョンを使わなくたって、こうなる未来はいくらでも見える。多分、イクラちゃんでも見える。
新崎が答え終わると、興味深そうにうんうん頷いた後、今度は笠木さんに目が動く。
新崎の答えに若干頬を膨らませていた笠木さんはすぐに見られていたことにハッとして、向き直った。
「わ、私は夏のことを良い友人だと思ってますっ!ちょっとおっちょこちょいな部分もあって、だけど頑張るときには頑張っててっ!…って言ってもまだ一ヶ月ぐらいしか一緒にいなんですけどね…あはは…でも。これからも出来ることならずっと、仲良くさせてほしいですっ!」
「秋葉…」
ライバル同士で、お互いの事を詳細に見ているからこその内容だった。聞いた城戸さんは笑顔を見せて、ぽしょりと笠木さんの名前を呟いた。
あら、もしかして禁断の展開ですか!男主人公ほっぽりだして女の子同士でですか!強気な、だけど弱い一面もあるお嬢様と、献身的な、一時は幼馴染みに思いを馳せてた女の子ですか!キララジャンプするんですか!僕もそこに混じれませんかね。
「ちなみに」と城戸さん父は冬花ちゃんを見るが、クッキーに夢中な彼女を見て、開いた口が一旦塞がった。
冬花ちゃんのもぐもぐタイムを邪魔するのはダメですよ!
「良かったですね。貴方」
「ああ。我が愛しの娘は、皆から好かれているみたいだからね」
「そんな…好かれているだなんて…」
恥ずかしそうに城戸さんはプイッとそっぽを向く。その耳は頬同様に赤々としていた。
「で…なんだけど。新崎くん」
「は、はい」
「ちょっとこの後時間貰えるかな?…ふふふ、男同士でちょっとね」
「はぁ…」
不適に笑う城戸さん父に新崎はため息のような返事を返し、立ち上がる。あの…俺も男なんですけど…男同士なのに俺入ってないんですけど。
小学校の時、「みんなで公園でサッカーしようぜー!」って言ってる奴がいて、俺も付いていったら「あれ、呼んでたっけ?」って返されたときみたいじゃん。あれほんと傷ついたんだからなあの野郎。
子供の無邪気さは時として残酷すきる。後、中学校なんかでラノベ読んでるときに挿し絵見て「エロ本だー!」って言う奴も大概酷い。まぁ、今のラノベの挿し絵、物によっては規制かかりそうなぐらいには過激だけどね。ただ、それが事実だったとしてもそんなのを読んでいると言う事がバラされ、見られたと言う事が辛いのだ。だからと言って、ブックカバーをどの本にも付けようものなら、いざ、昔買った本を読みたいと思ったときに、どれがどれだか分からなくて一冊一冊ブックカバーを捲らなければならないという地味な苦行を待っているのだ。そういうときにデジタルというのは便利そうだが、世の中にはお前のような物は本とは認めん!みたいな輩もいるわけで、そし
て、俺もそう思っている部分はあるわけでして。
つまり、結論としては人前で堂々と何も巻かずにtoLOVEる読むやつのメンタルはきっと化け物だと思います。
と、孤独にうちひしがれているフリをして、少し新崎たちに気まずい視線を向けるとそれにすぐさま気づいた新崎があっ、と声を漏らした。待ってました!
「あの…灯は…」
「俺も男なんです」
一応、女の子に間違われている可能性だってあるかもしれないので、そう一言俺から付け加えておく。後、適当に空笑いを見せて、媚を売っておくことも忘れない。笑顔には自信があるんです!
「あっ、灯くん…ごめんね。ちょっとここで待っててくれるかな?用があるのは新崎くんでさ」
「…そうですか」
「灯…」
いやでも、ここに大きな魔王が座りそうな椅子置いてさ、そこに俺が座って周りに城戸さんとか呼べば、アニメの宣伝ポスターみたいになるんじゃない?問題なのは誰一人として俺の事を想ってないだけで。
そんな話しかけられるのにも今だそこそこ緊張する人の中にいるのは気まずいことこの上ない。それに城戸さんたちなら俺を気遣って、優しく声をかけてくれる他無いだろう。なら、今はこの部屋から離れるのが誰の面倒にならず正しいはずだ。
そのために、この綺麗な庭園を利用させてもらおう。
扉に向かっていく二人の城戸さんの父の方を向いて声をかける。
「あの…流石にここに一人は気まずいんで…そこのお庭。適当に歩いて回ってて良いですか?」
「え?そこ?」
「…え、えぇ」
散歩なんてこの歳にしちゃ合っていないような気もするが、ちっちゃい子供がしていることだ。むしろ、若返りの術である。バブみを求めていけ。俺の発言に少しの間首をかしげた城戸さん父だったが、すぐに頷いてくれた。
「うん、別に問題はないよ。でも、ここは広いからね…。誰か…付き添いでも…執事とか」
廊下の奥を見渡して、誰か使用人がいないかと探してくれる。
と、その時、意外な人から声が上がった。
「私がやりますわ」
「え?」
「夏?」
振り向けば、城戸さんは立ち上がった際に揺れた髪を手で払っていて、こちらに歩み寄ってくる。確かに、この家に今現在住んでいる最高のナビゲーターではあるが、二人きりと言うのは…と、城戸さん父に助け船を目で求めてみる。
「うーん…ま、良いんじゃない?」
「えぇ…」
そういうことで、そういうことになりました。




