54話目
54話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
テストと言うのは準備が長いのがほとんどであって、その実テスト自体はそう長いものではない。
新崎との一日が終わると、すぐにそれは近づいてきて、そして気づけばもうテスト返却の日となった。
主人公との勉強会の効果はどれぐらいあったのだろうかと考えながら、薄っぺらいくせしてそこそこ将来を左右する紙を貰う。
教科は英語。
他の教科ならもうとっくの前に帰ってきている。
…この、英語が最後になったのもきっと、主人公が関わったからこそ簡単に流してはいけなくなり、こんな風にラストなったのだと、テスト中にほしかった早い回転の脳内で推測する。
教師がテストを渡し終えると、そのまま教室から出ていき、ひそひそとテストを見せ合っていた生徒たちは、堪えていた物を吐き出して、一気に賑やかな声で溢れ始める。
「どうだった?」
点数が見えないように視線を適当に外し、席に座ると新崎が早速声をかけてくる。
「…今見んの」
「おう、そうか」
裏側には俺にしてはそこそこ正解があり、これだけで30点は確実だろうか。
問題は表。
というか点数が書かれている右上である。
「………」
「…なんか、緊張するな」
「なんでお前が緊張すんだよ…」
「いやだって、一応俺が教えたんだし、これでもし低かったりしたらと思うとなぁ…」
頬をポリポリかいて、悩むように新崎が話す。
…。
「…そうか。70点だったぞ」
「あー…これでもし…って、なんで俺を無視して点数見てんだよ!」
話の途中で点数を見た俺に、新崎が大声を出した。
だって、別にこれ長々と会話して、ドキドキしながらひっくり返すそんなテレビ番組みたいなもの違いますし…。
会話が続けば続くほど、色々時間の無駄である。
「ま、良いだろ。ほら、普通に高かったんだし」
「そうだけどさ…はぁ…ちなみに、合計得点は何点だった?」
「そういうお前は」
「んー、ぼちぼちだな。もしかしたら前より下がったかもしれん」
「そ。で、今英語を含めて計算してみたんだが」
「お、どうだった?」
「変わってないな」
「え?」
「いやだから変わってない」
計算して出た数字はこれまで得てきた点数とほぼ変わらず。
他教科の点数が、これまでより低かった辺りで、色々察していた部分はある。
だから新崎の話を待つことも、心の中でひっそりと期待を寄せるような事もなく、
ただ当たり前のように点数を見たのである。
紙に書いた合計点数を見た新崎は、なんとも言えない顔になる。
なんかごめんね、そんな顔させて。
「そうか…赤点はないんだよな?」
「あぁ」
「なら良かったな!これで、なに、ほら、皆で遊べるんだし!な!」
…慰めようとフォローしてくれていることは分かるのだが、別にそもそも傷ついていない。
どうせ、今のあいつの心境というか、地の文なんて『暗い顔を見せた仁田。俺がなんとかフォローしてやらないと!』みたいな感じになっているに違いない。
絞り出すようなフォローを受けながら、テストを鞄に閉まった。
「わたくしは完璧でしたわ!」
「うおっ!夏…」
突然、真横から大声が響いてきた。
見れば、城戸さんが腰に手を当てて、ででんと構えていてその顔は誇らしそうな笑顔である。
「ふっふっふっ…見てくださいこれを!」
バーンと音を立てて俺の机に紙が何枚も置かれた。
そして、その紙にはどれもこれも100.100.100。
間違いひとつとしてない、言葉通りの完璧である。
「凄いな…夏…まるで不正でもしたみたいだ…」
「褒められながら疑われると…少し、複雑な心境ですが…褒め言葉として受け取っておきますわ!」
「でも、ほんとに凄い…」
新崎がテストの被さった部分を退けて、隠れていた部分を出してくれる。
が、やっぱり丸のオンパレード。
…と、城戸さんが不適に笑い出す。
「ふっふっふっ…陽斗!わたくし、約束をきちんと守りましたから!デート、付き合って貰いますわよ!」
「え、にい…陽斗、お前そんな約束してたのか」
「あー…まぁ、前な。俺はてっきりモチベーション的なものかと思って軽く流してたんだが…見事に守ったな」
「えぇ!」
ふふん、と城戸さんは嬉しそうに大きく笑う。
まぁ、今思えばそうだよね。
俺は別に常にストーリーにでてるわけでもないんだから、新崎と誰かの間で勝手に約束とかあっても可笑しくない。
むしろ、それを忘れていた俺の方が可笑しいわけで。
まるで、自分が主人公で、話の中心ではなくとも、常に約束や話を聴ける立場にいる勘違いしてしまっていたわけで。
勝手な勘違いは悔い改めなければならない。
「まぁ、とりあえず今はそれよりも夏の家に行くってのが最優先だから、後々になるかもしれないが…いいか?」
「分かりましたわ。…ですが、秋葉には内緒で、お願いしたいのですけれど…絶対、面倒事になりそうで…」
「…秋葉何でかそういうことには口うるさいからなぁ。分かった」
二人で隠し事を作るのは別に構わないのだが。
「…俺の口止めはいいのか」
全部聞いてましたけど。
「あっ、仁田!仁田もですからね?」
「ま、灯なら口止めしなくても喋らないと思うけどな」
「仁田ですしね」
「…そうですか」
信頼なのか、はたまたこいつなんて話し相手ろくにいないしという意味合いなのか。
ていうか、新崎、君前に俺が先輩たちに一緒に寝たって話暴露したの忘れたの?
…でも、まぁ、とりあえず信頼されているのであるならば喋ることはしない方が良いだろう。
…しかし、俺は見逃さなかった。
クラスの扉の近く、笠木さんと冬花ちゃんがひょこっと顔を覗き込ませていたことに。
翌日。
テストが終わり、休みとなった今日に前々から話していた城戸さん家にお宅訪問の約束の予定が入った。
ろくに荷物の入っていない鞄は、ガタガタと車の振動で小さく揺れ、そして巻き込むように俺たちの身体も揺れる。
城戸さんの家は彼女いわく、俺らの住む街にはないらしく、結局、前の合宿もどきのように長距離の道になってしまっている。
他愛のない会話で車内は満ち、俺もさすがにと、時々自分から声を出して会話に入っていく。
最近のテストの事。新崎の事。そして、新崎の事。
会話の八割が新崎関連という今をときめくスターの話に耳を傾け、窓にぐったりともたれる。
ビルやコンクリートの家、主人公にとって舞台となるそれを眺めながら、どこまでも車は進んでいく。
…と、鞄の奥に入れていたスマホが揺れる。
「……山中」
表示されたのは山中からの電話。
しかし、俺がいる場所が場所。ここで安易に電話に出て話のすべてを周りに聞かせるのは山中にも迷惑がかかるだろう。
一回、その電話を切って、代わりに今は電話が出来ないというメールを送る。
すると、またスマホが揺れ、すぐに返信が返ってきた。
『会って話したいことがあるんすけど』
と、先輩に対して敬語の一つもない、しかし山中らしいメールが。
言葉に余計なものを付けず、内容も分からないようにしているのは山中の中でなにか真面目に決断した結果で、それを誠に伝えようとしているからなのか。
だったら、俺もそれを真面目に聴かなければならない。
…が、やっぱり場所が場所なので『無理』と乗せて送り返し、そのまま電源をついでに切っておく。
ごめんな山中。うん、ほんとごめん。てへっ。
「灯?」
隣に並んで座っていた新崎は、俺がこそこそ携帯に向かっていた事を目ざとく見ていたらしく、顔を向けて「どうした」と聞いてくる。
「別に、知り合いからのつまらない話」
「…そうか」
「でさ~、昔の陽斗ったら結構…」
少し疑うような目線を向けられたが、笠木さんが新崎の話をすると新崎は慌ててそっちを向く。
「ちょ、秋葉!余計なこと喋るなよ!ストップ!」
「是非!昔の陽斗についてもっと詳細に!」
「気になる…」
「冬花もやめてくれ!」
…やっぱり主人公の勘の鋭さは異常だ。
少ない言葉から予想をたて、情報を集め、真実を導き出す。
例えそれがミステリー物で無かったとしても、必ず主人公にはそれが付いている。怪しむような目を向けられときは、心臓が止まったような気さえした。
話さないようにと心の奥でしっかり決めている。何度疑われようと答えは変わらず、答えないという答えである。
それにこいつにとっての恋愛と、あいつにとっての恋愛は簡単に纏めてはいけないぐらいに違うと思う。
こいつの恋愛はあくまで、物語。日常ものとしての話を引き立てるためにあるもので、100.150ページぐらいを使って描かれる物語。
だか、あいつの恋愛は予測ではあるが決して、簡単なものではない。あいつの恋が成就したときはそれが本当の物語の終わりで、こいつの恋の場合は長い話の中のひとつの章に過ぎない。
「…………」
…新崎達のガヤガヤとした賑やかな声は、深く、色々と集中をさせてくれる。
一人に慣れてくると次第に、周りの声がただのBGMと化してくる。周りが話す話題に俺はいなくて、そして加わろうとする気も起きなくて。
それで色々と妄想を起こしている内に、物事を考えるようになって、ついでに余計な事も考えはじめて、そこで、少しでも仲間がほしいと思ったやつがその妄想で突っ走り、間違え、黒歴史を作る。
自分がかっこいい、正しいと思っていることが周りもそうだとはならないのが常識。誰でも知っているはずだ。
しかし、例外だって存在する。それが主人公。主人公はヒロインや、サブキャラがそこで満足しているのにも関わらず、自分の行動が正しい、もしくは間違っていたと知っていても手を伸ばして、必ず救って、関係を深める。
主人公に与えられた特権で、それを無意識に主張している。
つまり、絶対特権主張します!なのである。
だか、結局それは、主人公が活躍するための台でしかない。お膳立てのためだけにある追加シナリオ。
…誰かにとっての幸せが誰かにとっての不幸という言葉がある。
その言葉は、幸せな姿しか写さない主人公にも適応されるのだろうか。
窓に写る景色は、いつも見ている街とは違う、木々が連なった森へと変わっていた。




