四十八話目
四十八話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
いやー今日も大変だったなぁ。
夕焼けが落ちていくのを背景に、今日一日という日を振り返る。
いや本当に大変だった(新崎が)。
授業中に冬花ちゃんが突然クラスに来て膝に乗って嫉妬した城戸さんをなんとか抑え込んだり(新崎が)、お昼に城戸さんと笠木さんがお弁当を持ってきて二つとも食べさせられてしまったり(新崎が)。
いやもうね、大変よ(新崎が)。大変(新崎が)。
毎日こんなのが続いたら、持ちませんよ?(新崎が)
…いやでもあいつなら平気で持ちそうだな…。
なんだろう、『いい加減にしてくれよー!』的な感じでカメラが空へと上がっていって、カメラが戻ったときには普通の日常になってそう(新崎なら)。
…ま、いい加減こっちも新崎新崎言ってないで、さっさと目的の場所へと向かわなければならない。
新崎がてんやわんやしていた昼に、俺の周りでも少しばかり動きがあった。
あいつ…山中関係で。
山中に放課後に、『またあの空き教室で用がある』と言われていた。
だから向かわなければいけないのだが、何故だろう足が動かない。
…これはあれだろうか。
新崎の方で何かイベントが起きていて、俺も関わらなければならないけど山中というイレギュラーな存在が阻んできて、でも、やっぱり新崎パワーには逆らえないから山中の方には向かわせない力が働いて的な可能性とかは無さそうですねこれ。
多分、面倒くさいだけなんだろうねこれ。
重い身体を上げて、鞄を取り席を立つ。
えーっとあいつが言ってた空き教室は…二階か。
静かな廊下を、自分の歩く音だけが通っていく。
外がうるさ…賑やかな分…こちらの静けさはより差を離していく。
「~♪」
不気味さがある校内で、次に聞こえてくるのは自分の鼻唄。
俺の愉快な旋律を奏でる鼻唄が、密かに響く。
~~♪
…サビを控え、曲の盛り上がりは増していく。
徐々に大きくなる鼻唄。
…そして、ついにサビへと…。
「………」
「………」
突如後ろから追い越していく全く知らない一年生らしきお方。
止まる俺の鼻唄。
一瞬見えた彼女の横顔には溢れんばかりの笑み。
…………。
「あ、来ましたね。ってなんすかその絶望の顔。財布落としたみたいな」
「気にしないでくれ…」
財布を落とすだけならまだマシだったかもしれない。
俺はきっと彼女のせいで美声の持ち主として密かに人気になってしまうんだ…。
くっそぉ!どうすればいいんだぁ!いい加減にしてくれよぉ!
……。
「あの頭抱えてるとこ悪いんすけど、話、いいっすか?」
「んぁ…あぁ…良いぞ。いつでも殺してくれ」
「なんの話しっすか!?違いますよ!春さんの事っす!」
「そうか…で、なに」
「先輩、自分休み中に見ちゃったんですよ、先輩のこと」
休み中に出掛けてたのなんてあの一回だけだ。
こいつが見たであろうシーンが予測できる。
そして、言いたいことも。
「…お前の言いたいことは分かった。あれでしょ、桜丘先輩と仲良しの矢波先輩が俺と一緒に出掛けてるのを見て、仲良いならなんか桜丘先輩の情報くれってやつだろ…」
「な、なんでわかったんすか!?」
「すまんが俺は新崎とかとは違うんだ…」
本題を言われるまでその予測が出来ない人間ではない。
雰囲気や態度、状況を見れば予想ぐらいは立てられる。
聞いた山中は、驚いた表情を戻して口を開く。
「それが分かってるなら聞かせてもらいますけど、先輩と矢波先輩。どういう関係なんすか?」
「質問に質問を返して悪いがちなみになんだが…俺と先輩はお前からはどう見えるんだ」
「恋人っすね。…で、どうなんっすか」
こいつ…こんな淡々と答えやがって…。
もっとこう、もしかしたら兄弟という線を考えないのか。
「…はぁ、あれだよ。被害者と加害者」
「…それ、どんな関係なんすか…」
求めていた答えと違っていたのか、落胆する様子の山中。
俺だって求めてた答えと違ったんだからいいだろこのやろう。
「ともかくだ、お前が言いたいであろう桜丘先輩の好みやらの情報集めというのは俺には出来ないんだ。むしろ、それをしたらあの人に逆に情報を集められる」
「連絡先とかも知らないんすか?」
「…それは…知ってる」
「じゃあ仲良しじゃないっすか!」
「だから仲良しじゃないんだ…」
「先輩にしか頼めないんすよ!恋のキューピットは!」
「恋のキューピットって…」
詰め寄ってくる山中を除けて、その言葉を繰り返す。
恋のキューピットって…久しぶりに聞いたような気がするその言葉。
まぁ、確かに人のサポートというのは大事なのは分かる。
世の中人と人とが支えあって生きてるって聞いたことあるし。
でもな山中、男子高校生がやる恋のキューピットって言うのは、大抵はろくなもんじゃないんだ。
結ばれたいやつがその好きなやつに近づくと変に茶化してきたりする、そんなもんなんだよ。
「お願いします!先輩っ!」
両手をパンっと合わせて頼む山中。
「えー…」
「そんな嫌そうな顔しないで!何か奢りますからっ!」
物で釣ろうとしてくる山中。
「えー…」
「その代わりに矢波先輩の好みとか聞いてきますからっ!」
恐怖の行動を起こそうとしてくる山中。
「えー…」
「先輩、ぜっんぜん心変わりしないっすね…テコでも動かないんじゃないっすか」
「だって嫌だし」
…ていうか俺の場合は、テコと言うより磁石だと思う。
似たような…というか嫌なものはどんどん弾いていくが、好きなものにはとことん寄っていく。
そんな感じの磁石ボーイが俺。
「じゃあ、先輩、なになら動いてくれますか?」
「二度と俺に話しかけてこないなら」
「それ何も聞けなくなるじゃないっすか!」
「あぁ、無意味になる」
はぁ…と、山中はため息をついて、ガクッと肩を落とす。
こいつから見たら俺、凄くめんどい人間に思われてるんだろうなぁ。
だからといって変わらずにお断りの意思を持っていると、山中がガバッと顔を上げる。
「無理だな」
「まだ何も言ってないんすけどっ!?」
「ていうかだ、なんで俺なんだ。近くにいるだろ、頼りがいのあるやつが」
「新崎先輩っすか?」
「あぁ」
前は俺から言ったから駄目だっただけで、きっとこいつ本人が言ったならすんなりと答えてくれると思う。
それに新崎パワーは侮れない。
必ずみんなをハッピーエンドに連れていってくれるだろう。
…熱烈なセールスが口に出さずとも伝わったのか、新崎はうーんと考え始めた。
「新崎先輩…うーん…」
「あいつなら絶対だ」
「でも…それは何か違う気がするんすよ…」
「ほぉ」
「あの人に頼るのは…まるで願いを叶えてくれるものに頼るみたいな…何て言ったらいいか分かんないすけど…ずるいと思うんですよ」
…こいつ、俺の考えと似てる。
新崎がずるい存在ということに気付いているのか、それとも何かを感じているのかもしれない。
なら、こいつはきっと俺と同じはぐれもの。
本来なら裏方で終わっていた存在かもしれない。
だったら…
「分かった。手伝うよ、それ」
「えっ」
「だから、お前の恋愛をお手伝いしてやるっていってるんだ」
「本当っすか!?」
「あぁ」
共に手を取り一緒に新崎だけがハーレムで終わる地獄まで道連れにしてやろう。
「あの、先輩って、そういう恋のキューピットってやったことあるんすか?」
「キューピーちゃんのマヨネーズならうちにあるぞ」
「……」
まぁ、違うよね。
「あとは…あれだ。昔、堕天した」
「は?」
中学一年生のときに、世界の理不尽に気付き、魔剣「シャインニング・ベータ・ガンロッド」を持って、一興として、力を求める争いに加わってました。
結局、頭の中だけで終わったけど。
「まぁ、つまりはあれだ。やったことない」
「えー…」
さっきの俺を真似るように山中が呆れた。




