四十九話目
四十九話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
「よし、じゃあ、とりあえずまずは桜丘先輩の好みのタイプを聞いてくれば言い訳だな」
もう一度、山中に確認として内容を聞く。
「はいっす!それを聞いたら、電話で連絡してくださいっすね」
また、スマホに連絡先がひとつ増えた。
今度は珍しく男の連絡先。
いやでも…普通は男の連絡先ばっか増えてくもんなんだろうけど…。
新崎の周りにいる以上、その普通とやらは通じない。
常に日常という非日常に毎日を置き、新崎の幸せストーリーを眺めなければならない仕事がある。
そんな人生、絶対に普通ではない。
「うし、じゃあ帰ったら先輩に聞いとくから、まぁ…お前は…ドキドキしながら待っててくれ」
「何か…もう告白したみたいな言い方っすね」
「なんなら俺が代わりに告白しといてやろうか。絶対に想いは伝わらない言い方で」
「…参考までに聞きますけど…どんな感じにです?」
「『君への想いはバーニング!あぁ、うるわ…』」
「もういいっす…。…にしても先輩って、あの時とは結構違いますね」
「あの時…?」
あの時ってどの時だよ。
俺が風呂上がりにパピコ食べようとして、袋の部分じゃなくて本体捨てそうになったとき?
それとも教室で間違えて一年の教科書持ってきてかなり慌てた時の話?
…いや、あの時は本当に慌てた。
迂闊にそのまま教科書を置いても周りから変な目で見られちゃうだろうし、かといって出さなければ出さないで授業サボってるみたいな感じになるしで、結果的にはずっと教科書裏返しでノートやらで半分ぐらい隠して乗りきったけど。
なんであの時新崎助けてくれなかったんだよ。
マジで困ってたんだぞ。
…と、あの時のことを思い出していると、山中が口を開いた。
「いや、ほら先輩と新崎先輩とで、初めてあった時っすよ。あの時の先輩、今みたいに喋る感じじゃなかったじゃないっすか」
「…そうか?」
「はい。あの時の先輩はなんていうか…新崎先輩のお付きの人!みたいな感じでしたけど、今の先輩はしっかり先輩やってるじゃないっすか」
「どういう意味だ…」
…いや、山中の言いたいことも分からなくはない。
多分、彼が伝えたいのは、俺の一人になると途端にイキイキしだすところだったり、よく喋るようなところだったりはあの時には想像がつかなかった、ということなんだろう。
だが…分からないのは何故こいつが気づくのか、という話。
こいつはもしかしたらで俺と同類。
モブの一人の筈なはず。…そういうキャラクターのもう一面に気づくのは主人公の役目だ。
色々話して、その一面に気づいて、そしてもっと仲を深める。
それが物語のテンプレのばす。
…うーん…こいつの扱いが分からない。
「ま、自分が言いたいのは今の先輩の方が個人的には話しやすいし好きってことっすよ」
「そうか…そうなのか…」
「それじゃあ先輩!頼みましたっすよ!」
「おう」
返事をすると、嬉しそうに部屋から山中は出ていく。
…まぁ、ここで長々と考えてもどうなるわけでもない。
さっさと主人公の近くにいって、物語を進めた方が色々とお得だろう。
山中が閉めた扉をまた開けて、のそのそと廊下を歩き始める。
聞こえてくる吹奏楽部の音色と、靴の床を踏む音色が上手いこと重なり、まるで自分が楽器になった気分。
靴を鳴らしながら進んで、冬花ちゃんがいる部屋まで向かっていく。
………………。
「っと、すいません」
「あ、ごめんなさい」
廊下を曲がろうとすると、女の子が突然現れる。
ぶつかる寸前で二人の足が止まり、うっかり胸揉んじゃった事件などが起こることは無かったが、その代わりサラリーマン同士の平謝りが発生。
謝りながら通り抜けようとすると、その女の子は顔を上げて、こちらをちらりと見てくる。
…あ、この子。
………あぁぁぁぁぁ…。
あの子だ。
俺の鼻唄を聞いて、少し笑った女の子。
トラウマガールの突然の出現により、足を早めて場を立ち去る。
これが新崎だったら…『あーっ!あの時の鼻唄男ー!』みたいな感じなるのに、俺だとなにも起こらず無言のまま。
彼女が俺をどう見てるのか振り返って確認する勇気もなく、足早に部室へと向かう。
少しどんよりとしたテンションで扉を開けると、より一層どんよりとしたテンションの皆さんが。
「どしたの…」
「いや、前に話した風紀委員。また来たんだよ」
「ほー」
「テスト終わり、何か部活で遊ぼうかと話していたのですけれど…その人に止められてしまって…『もう一度したら部活を廃部にします』ですって…はぁ」
新崎、そして城戸さんが事の成り行きを説明してくれる。
もしや…これが大きなハプニングなのだろうか。
俺にとってはしっかり勉強疲れを取れるしでバンバンザイなのだが、すぐに出掛けて遊ぼうとする彼らにとっては結構きついかもしれない。
「あの、一ついいですか?」
「…?どうしたの?」
「その人って一年生ですよね」
「ああ」
「一年生に廃部にする権利なんてある?」
ましてや風紀委員。
とてつもないくらいに風紀を乱しているのならともかく、適当にこうして話してお茶飲んでるだけならそんなことはする権利なんてどこにもないと思う。
それに、新崎が作った部活なんだから、未知なるパワー的なあれでどうにでもなるでしょうに。
言うと、三人がハッと顔を上げる。
その顔何処か嬉しそう。
「そうか!そうだよな!別に部長でもなんでもないし!」
「無視すればいいんですのね!」
「無視って…」
「よーし、なら、皆でどこに行くか今から決めよーっ!」
「おー…」
やる気なさげに冬花ちゃんが腕を上げた。
俺も全速力で腕を上げた。
…少しして、俺の分の紅茶を笠木さんが淹れてくれたのを見て、新崎が紙を取り出す。
「一応、候補は色々決めてたんだ。カラオケ…ボウリング…流石にまた合宿っていうのは色々大変だから近場でな」
「ふーん…えーっと他に……なぁ、この城戸さんの家ってのは」
「その名の通り私の家ですわ」
新崎に聞いたつもりが横にいた城戸さんが答えてくれる。
しかし、聞いても何も分からない答え。
もう一度新崎を見ると、申し訳なさそうにして頬をかいた。
「これはだな…夏の家の人達が…何か…俺らの事、気になってるみたいで」
「え?」
「夏の部員仲間ってことで、近々遊びに来ないかってさっき夏から招待されたんだ」
「私の両親が『どんな人達か気になって仕方ないから呼んでほしい』と。まぁ…別に来なくても大丈夫ですわよ…」
「……なんでそれが遊ぶ場所リストに…」
きっちりと丁寧な文字で、ボウリングの文字の下に書かれている。
「でも、私はちょっと気になるかなぁ。夏の両親。仲良くさせてもらってるんだし、挨拶ぐらいしておきたいしさ」
「あぁ、俺も秋葉の意見に賛成だな!」
笠木さんの発言に、強く新崎は頷いた。
…まぁ、こいつとしても両親関係では何か思うところがあるのだろう。
どうせ、新崎が賛成した時点で勝ち目なし。
他の意見を言ったところで却下される未来は見えている。
なら、さっさと答えを出して、ゆっくりさせてもらおう。
「俺も、陽斗と同じでそれでいいですよ」
「………」
俺に続いて、冬花ちゃんもコクっと頷く。
「まぁ…陽斗が会いたいと言うのでしたら…ていうか、この部活、こういう会議とか終わりが速すぎませんこと?いつもすぐ終わりませんか?」
「まぁ…みんなの意見がすぐ一致なんてあんましないんだから、それでいいんじゃないか?」
…一致というか、同調というか。
新崎が頷けば三人は必ず新崎と意見を被せる。
そしたら俺だってなにも言えなくなるし、多数決にだって勝てっこない。
仲良しだからみたいな理由ではなく、王様が決めたからみたいなのがこの会議が速く終わる理由だ。
…でも、その事にこの四人が気づくことはないのだろう。…ずっと。
そして、それは多分この先、人数を増やしていくであろう。
…ていうか、何故主人公の意見が通りやすいか、これにもちゃんとした理由がある。
つい先程も言ったが、新崎…というか、主人公は王様だ、
圧倒的キング。
そして、そのキングを書いているのは誰か。
もちろん、それはその作品を書く作者である。
これは…多少なり偏見はあるかもしれないが、大抵の主人公は自分、作者が書くときにストレスがかからないように設定するのがほとんどだ。
最近で言うならば無双系。
多分チート系と言った方が早いだろうが、もっと早く言うなら新崎。
新崎タイプは基本的によく書かれることが多い。
新崎タイプのような、誰からも好かれ、愛され、友もいる、そんな人間に作者は憧れてしまう。
厨二病なんて、もっぱらの例だろう。
闇の力で最強無敵になって、自分がルールの世界を脳内で作る。
ストレスの一つもない世界がそこにある。
…しかし、そんな理想のものにはなれないし、存在しないからこそ、こうやって物語の主人公として存在させる。
で、そんな理想の主人公がひとつの意見すら通らなかったらどうだろう。
ヒロインから尻に敷かれ、友人からもパシリ扱い。
理想の主人公がそれでは、作者もきっと書く気を無くしてしまうだろう。
だから意見が通りやすい。
そういうことである。
…俺にきっと主人公についての論文とか書かせたら絶対最優秀賞取れる自信がある。
それどころか主人公についての学者になれますよきっと。
主人公について特許とか取っちゃおっかな。
ワクワクしながら、新しく手を出したラノベのページを開ける。
うわっ!イケメン!異世界!
ストレス無さそう!
でもね!書いてる側がストレスを感じなくても、読み手がストレス感じると意味ないんですよ…。
…もし、新崎が主人公の作品があるならば、読み手はストレス感じるのかなぁ。




