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モブに慈悲はない…?  作者: いす


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45/110

四十五話目

四十五話目です

誤字・脱字があったら申し訳ありません

休日のはずなのに内容の怖さ故なのか、はたまた単に人気が無いのか、やけに客が少ない気がするこの映画。

それがより一層恐怖を駆り立ててきて、座ってるだけでもう辛い。

「先輩…もう帰りません?俺満足しましたよ」

声をかなり潜めて、少し先輩に身を近づける。

すると先輩も声を潜めて話しかけてきた。

「駄目、ほらちゃんと前見て」

「いやほんと止めてください。これでトラウマになって永遠に記憶に残ったらどうするんですか」

「それは…別に僕困らないし。君が僕とのデートをずっと覚えてくれるってことになるんでしょ?」

「…嫌な思い出なんですけどね」

「別に覚えてくれるんならそれでも僕は困らないよ」

「そっすか…」

一向に離れる気の無い結ばれた手に恥ずかしさを感じながら、またスクリーンに目線を移す。

「うぇ…」

どす黒い何かが倒れている映画の予告が流れ、すかさず自分でも驚くぐらいの早さで目をそらす。 

「目を離しちゃダメって言ったじゃん」

「そういう先輩は何で俺のこと見てるんですか…」

「…なんとなく?」

顎に指を当てて、少し考えると矢波先輩はそう言った。

「なんとなくで見られても困るんですけど…。あと手。いい加減にこれ離してください」

「えー、君の手案外触り心地良いんだもん。ずっとにぎってたーい」

「…はぁ」

「女の子と手を繋げてるのにため息なんて…むぅ」

「自分でそれ言いますか…」

こそこそと話しているとまた、劇場が暗くなる。

画面を見ると、何処のだか知らない製作会社の名前が出てくる。 

あぁ…。

「ぉぅ…」

とある記者が心霊スポットに迷い混んで行方不明になった。という噂が広まる所から物語は始まった。



ホラー映画特有なのかは知らないが、暗い雰囲気で、どんどんと話は進んでいく。

所々、その記者が残した映像と言って、不気味なのも流れるが今のところはそんな跳び跳ねて驚くような物はない。

「案外怖くないですね…」 

「…だねぇ、ふふっ」 

「ん?」

そして話は進み中盤へ。

何故か噂の廃病院に行こうというバカみたいな考えを思い付き、特攻することとなった主人公。

何でそうやってすぐ怖いところ行こうと思ってしまうの?

何で三百人ぐらいの大人数じゃなくて、三人なの?

と、見ていて無数の疑問が出てくる。

…まぁ、こんなくだらない考えがポコポコ出てるうちはまだ、俺にとっても大丈…。

「…………」

「怖くないんだよねー…」

くてんと部屋の中でくたびれている人形が映り込んで、思考が止まる。

…これはホラー系をろくに見なくても分かるヤバイやつ。

主人公は恐る恐ると歩いていき、その人形を取る。

俯いていた人形の顔が見えて…   

血みどろの顔と人間の眼らしきものがギョロリと動いた。

「あ、あの?!あの!?ちょっと!」

「静かにだよ、仁田くん」

「これは…あの…えぇ…」

主人公達も驚いて、その人形

を投げ捨てる。

そして逃げるように振り返ると、後ろには…。

目をくりぬかれたのか、目元が真っ黒のぉぉぉぉぉ!!

「あれは…あの…ぉぉ…」 

「スクリーンから目を離しちゃだーめ。言ったでしょ?」

「ぅぉぉぉぉ…」

そして、主人公達は今度は室内の奥に逃げようとする。

すると投げ捨てた人形からケタケタと笑い声がぁぁぁ!!

そして今度は上からぁぁ!!



「ぅぉぉ…ぉぉ…」

映画が終わり、近くにあった人が少ないカフェへと移動。

最後まであの映画を見た感想としてはもう嫌。

なんかもう嫌。

そんな単純な感想が出るぐらいには怖くて、怒濤の幽霊ラッシュと大まかなストーリーしか覚えてない。

「人が恐怖に堕ちてる時に食べるケーキは美味しいですか…」

そうモンブランをもしゃもしゃ食べている先輩に問うと、フォークを使ってモンブランを一口サイズにして、こちらに突き出してくる。

「…美味しいけど。食べる?」

「遠慮しときます…のぉぉ…」

不意にまた、先程の人形が頭をよぎった。

「…何か君のその感じ、春に似てるね」

「え?」

「あ、いや、春もああいうの苦手なんだけどさ。見た後大体そんな感じだったから」

「桜丘先輩も犠牲になってたんですね…可哀想」

テーブルと一体化するように突っ伏して窓の外を見る。

いつもより賑やかで、家族連れもちらほら見えた。

「犠牲だなんて、そんな怖いことじゃないよ」

「…じゃあ何なんですか」 

「うーん…生け贄?」

「…やっぱ犠牲じゃないですか」

もしくはコラテラルダメージ。

「ま、無理矢理にでも誘わないと春は駄目だから」

「…桜丘先輩誘えるなら俺いらないですよね?」

「えぇー君とも仲良くしたーい」

「俺と仲良くなっても良いこと無いですよー」

ポイントがついたり、割り引きされたりとかそんなことは出来ない。

買った分だけ配当がある美容商品だって買わないですよ?

「んーそうかな?僕は君とこうやって仲良く話すのは良いことだと思ってるんだけどなぁ」

「…そーですか」 

久しぶりに異性に誉められ、そっけない反応をしてしまう。

「あれ?照れてる?ほっぺ 赤いけど?」

「これは違います。これあれです。あれなんですよ」

「照れてるんだ~!結構可愛げあるんだねぇ」

矢波先輩がニッコリと嬉しそうに笑い、耐えきれずまた窓の外を見てしまう。

「ほんと止めてくださいって…」

「えー、ほらもっと見せてよぉ、ほらぁ」

「そんなことよりも…!この後…どうするんですか?」 

顔を近づけてくる先輩を払うためにそう言うと、以外にもすんなりと先輩は席についた。

「この後は…うーん。あっ、君がいつも寄る場所とかに行ってみたいかも」

「学校…ですかね」

「それは寄るって言わないよ」

「ですよねー」 

「ほら、ちゃんと考えて」

自分がよく行く場所…となると本屋が多分それに当たる。

別に美少女がいる小さな書店とか、読んだ世界に行けるとかそういう不思議な本屋でもなく、駅から歩いて少しで着くかなり大きい本屋さん。

そんなところに行ってはたしてこの人は満足するだろうか。

「あの、先輩って、本とか読みます?」 

一応探りを入れておいた方が良いと思い、

口を開く。

「本屋さんよく寄るの?」

「………はい」

素直に白状するが、特に先輩は嫌がる様子を見せない。

なんでこの人こんなに勘が鋭いの…。

むしろその事でこっちが嫌になりそうである。

「…本当に君、春と似てるね」

「桜丘先輩も本読むの好きなんですか?」

「うん、色々読んでるよ。ミステリーとか、恋愛ものとかね。仲良くなれるんじゃないかな?」

…まぁ、ああいう引っ込み思案なタイプの人が本好きなのはよくあることだ。 

だがその『本が好きな人だから仲良く出来る』というのは本を読まない人からしたら一括りに出来てしまうものだが、本を読む人としては少し違う。

例えを上げるならラノベと推理もの。

同じ小説とは言っても、周りからの扱いも読む年齢層も、もろもろが違う場合が多い。

だから本が好きな人だと一概に言っても、

桜丘先輩と仲良くなれるかとはまた少し話は違うものである。

「仲良く…は知らないですけど、それよりどうします?本屋行きます?」

「んー、任せるよ?」

「それ言われると困るんですけど…」 

集団行動の時は基本周りに任せて、こそこそ生きてきた者としてその丸投げはやめてほしい。

これで迂闊に違う事を言うと「無いわー」とかなるんでしょ?

そっちの方が無いわー。

「優柔不断は男の子らしくないよ?」

「男女差別だぁ」

「む、先輩に歯向かうか」

「歯向かうというよりかは全面降伏の方が近いですけどね」

「…そうだね」

また、飲み物に口をつけ、外に目を移す。

凄いな、ここまで窓の外見てるのにうっかり主人公見つけましたすら無いなんて。

あいつ何してんだよ、主人公だろ。俺のピンチも助けに来いよ。

「…まぁ個人的に言うなら、今はあんまり帰りたく無いですね…」

気を抜いてしまうとまた、色々と思い出してしま…

おうふ…。

「じゃ、本屋行ってみる?どーせ僕今帰っても暇だし」

「先輩受験あるでしょ、テストも」

モンブランを綺麗に食べ終わった矢波先輩は、甘いものを食べ終わった後とは思えない、苦虫を噛み潰したような表情をする。

「せっかく楽しんでるのにそういうこと言っちゃうの?僕悲しいよ」

「でも事実でしょ。先輩大丈夫なんです?」

「やめてー…聞きたくなーい…」

先程までの俺を真似るように軽くウンウン唸り始める先輩はどこか可愛らしい。

でも真似るように、ということはつまり、俺と似たように彼女もまた何かしらが苦手の可能性が高い。

「あの…先輩もしかして、勉学が苦手でいらっしゃる…?」

「いや…そんな訳じゃないんだけど…強いて言うなら…その空気、かなぁ」

「空気…?」

「そ、何か休ませてすらくれないみたいな空気。僕だって息抜きぐらいしたいの」

「ふーん…」

でも、分からなくもない。

中学生の時だってただでさえかなりの緊張があったのにその上位となればより辛くなるのは当たり前。

だけどもしかしたらこの世界が新崎パワー的な何かで、サザエさん方式になっている可能性も少なからず…無いね。

同じやつと何年も一緒とかそれ普通に困るし。

結局、受験やらそう言う自分の未来を決めるものは望まなくても勝手に進んで来てしまう。

こんなゆるい時間もいずれは忘れられるか、そんな未来でくだらない思い出として誰かと話すのかもしれない。

……だから先輩はあの時忘れられるぐらいならと、覚えてくれるだけでも良いと言ったのだろうか。

何気ない会話にそういう重要なの放り込むの止めてくれません?

俺、主人公じゃないんで伏線とか張られても困るんですけど。

「どしたの、その感傷に浸るみたいな顔」

「先輩と関わるの、やっぱりめんどくさいなぁ、って思いまして」

「なんでよ…そんなこと言うとあれだよ?また映画連れてくよ?今度は今日見れなかったやつの」

「嫌ですって!ほら、あの…本屋、行きましょ!」

急いで席から立ち上がり、お会計の紙を奪い取る。

「あ、払ってくれるの?」

「えぇ、いくらでも」

そう俺が言うと、ぽふんとまた席に座り、近くにいる店員に声をかけた。

「パフェ一つ」

「はい、承りましたっ」

「えっ」

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